35話【 とぬいぐるみ】
前を歩く長髪の男とその長い髪の毛を時折つかみながら後ろをついていくシロクマのぬいぐるみのような小さな子供。2人は自国から抜け出し巡り会った。
長髪の男は牟梦。中国から来た男性。ぬいぐるみはメタ・ルトカウスカス。リトアニアから来た性別不明の僅か四歳の幼児。
二人は訳ありでありお互いの境遇は知っているが深入りはしていない。ただ生きる為に協力している。
遺漏の申請が義務化されている中国。
梦は非遺漏者を騙るが見た目のせいでどうにも上手くいかなかった。白い長髪に赤い目でありどうしても目立ってしまい訝しまれてしまう。ずっと拠点を転々とし隠れ過ごしていた。限界がきそうになった時結界が壊れた。その時国を飛び出してしまった。ただ国に迷惑かけたくなかった。その概要を知ると発動してしまう遺漏。だから誰にも話すことは出来ない。誰かを傷つけないか常に気を配るのは遺漏のせいだけじゃない。この強迫観念はいつになったら消えてくれるのか。
今現在ヨーロッパのスロバキアに逃げていた。かなりの距離を移動したが結界が壊れ多くの人が移動をしようと乗り物を使っており便乗させてもらった。
人から逃げられてもオミッションはそんなのは関係無しに近づいてくる。スロバキアには城が沢山ある。それはオミッションの目を引き城を塒にする個体が多く見られる。逆に言えば強力なオミッションは態々城に行かなければ出会うことはないということだが。
しかしそんな事はスロバキアに来たばかりの梦には分からなかった。何かすごく大きな中世ヨーロッパのお城がある。凄い豪華だし誰も住んでないし少し休もうかと考えて入ってしまった。しかし運が良かったようだ。オミッションがいる気配は無い。
少し気を緩めて中に入る。
ぽてぽてと60センチ程のぬいぐるみの見た目をした生き物が歩いている。
「き、きょ……ぉっ」
「きお?どうしたの?」
「ぅ、……啊啊啊啊啊!!!!」
大絶叫が広い城に響いた。
――――
曇った記憶と混乱の最中自由を目指した。
結界が壊れた後人々は自国から外へ出る人が増えた。混乱が極まりたくさんの人が他国へなだれ込んだり貿易ががあれよあれよと再会したりこんがらがったりそれはもうめちゃくちゃだった。
メタはぬいぐるみのふりをして
「あらまぁ、なんて可愛いの」
ふくよかなお姉さん(ポーランド語だけれど理解できたのはたぶん世界が『そういうこと』になっているからだろう)が拾って優しく土を払ってくれて日の当たるところまで運んでくれた。
ぬいぐるみを装うと皆気を緩めるから移動するものにあまり苦労はしなかった。
「此処らへんは危険なオミッションがいたんだよ」
――――
スロバキアという国にやってきた時大きなお城にはしゃいで中に入った。煙たいのを除けば安全っぽそうだった。人が何人か行き来していた。前はオミッションがいたらしい。そんな中中出会ったのは絶叫をあげたあとぐすぐすと泣いている長髪の白い人。
「びっくりしたんだね?ごめんね?」
髪の毛を引っ張りアピールする。
「は、はい…」
「メタはメタ・ルトカウスカスだよ。リトアニアから」
「俺は…牟梦…」
「も、む…じゃあモモだ」
愛称を付けて気軽に呼んでくれるなって顔をしている。リトアニアでは愛称は普通なんだけれどな。
「モモ…」
モモと言えば日本語で桃の呼び方だった。今すべての言語が理解できるから分かるが。…桃子かぁ。中国では不老不死とか子孫繁栄と縁起がとても良いし悪い気はしない。
「ちょっと笑った?モモは優しいんだね!」
「ねーねねねー」
「そのふわふわなお口を謹んでください」
少し反応を見せると構って欲しいとアピールをしてくる。口を噤んでも次は俺の髪の毛を引っ張る力を強くしてくる。
「さっきまで泣いてたのにすぐツンツンするー」
「髪の毛引っ張らんでください」
「だって引っ張らないと足速くなるんだもん」
「声を出せばいいでしょうに」
「口慎んでって言ったのはモモでしょ?」
数十分に1回はこの会話を繰り返している。
今は持病の為の薬をどう確保するべきか考えているのに。
――――
城を出てまともに生活できるようにしないといけない。隠れるのなら良いと思ってたけれど…生活が不便だ。そもそも城は観光地で他国から流れてきた自分たちのような人達が見学に来るのだ。
ボランティアで生活を補助してくれる人達を探しに2人で歩いた。
人のいない平地に辿り着いた瞬間太陽が眩しく光った気がする。それともこの視界だけがおかしくなったのか。自分だけかと思っていたらメタも光が見えたようだ。
「まぶしっ」
見えたのは宙に浮いた帯化したひまわりを纏った男。
「身はヤザタのミフル也や」「日が昇る場所がある」と囁く。
「なにそれ…秘密の暗号?」
メタは首を傾げる。
「ヤサダ?」
と梦もわからないまま首を傾げる。オミッションであるが敵対的ではない。それがまた不可解であった。
「日本の宮城からリトアニアへ舞い戻るが最適解也」
「リトアニア!?」
「『あけぼのクラブ』に鍵がいる」
それだけ伝えると消えてしまった。
神話の神のオミッションか…。人の集合的無意識から生まれた存在は人に敵意を持たない者もいるということになるのだろうか。
よく考えれば神のオミッションが暴れたらすぐ人類は終わるだろう。なぜ姿を見せないと考えてみたのだが人のいざこざなど気にもとめず空の上にいたりするかもしれない。
「さて…私達は日本の…えっと宮城の『あけぼのクラブ』へ向かわないといけないようです…準備をしてくださいな」
「あいあいさ」
しかし梦はずっと内心不安でいっぱいだった。あのミフルという神の名を冠する存在を前に失礼な考えが脳裏に浮かんでしまったら祟られないだろうか。そんな強迫観念が浮かぶ。こんな時でも強迫性障害は関係無しに人生の邪魔をする。
「ねーねーつまりどういうこと?あの人は何が言いたかったの?」
「オミッションにも穏やかな穏健派もいる…ということになりますね…それを知れということか…」
それが意味するのは一体何なのか。
(オミッションにもある程度の社会性がある…?)
城を塒にしたというオミッションもその例だったということだろうか。




