34話【最初の天災】
「何?何のようです?」
「おぉ、東京にいた在日米軍と自衛隊員の人達…生で見るの初めてだ」
戸惑うブレナンに対し人見は遺漏のラジオ放送で何度か報道したことがある為知っているようだ。
「身内が失礼しました。私は『在日アメリカ軍人連隊長大佐』のデレック・オルティスです」
そう言ったのはメンフクロウの怪人の姿をした男。見かけによらず理性的で肩書きからもリーダー的立ち位置だと分かる。
「私めは在日軍人のタニア・キャンベルです」
「俺はただの一般兵のウェズ・アップルゲイトだよ〜」
「私は陸軍自衛隊員の陸士の鷹林松実です…」
各々が自己紹介をする。
(堅苦しいの嫌なんだよな…うちはもっとフランクにいきたい…)
松実は内心そう考えていた。するとシズが手を小さく挙げて質問する。
「デレック・オルティス。アメリカ軍全体の意思で決めたわけじゃないだろ?」
「…そうです」
「もう格式張った話し方やめてくれ。それに…何を考えているのか分かりづらい」
「…わかった」
一同はあけぼのクラブのリビングの机に座り重苦しい空気が広がる。
「茶飲めっ茶ぁ」
花菜がわざと軽薄な態度を取り一人ずつお茶を置いていく。その中で各自はどんなことを話すべきか迷っているようだ。
「それで何しに来た?何でお前らは独断で動いている?」
デレックはわかりやすい言葉を選んで話し始める。
「噛み砕いて話すと上の人達は皇居とか首相官邸とか国の維持する為の施設や御用人を守るのに精一杯。断腸の思いで市民が後回しにされている。それを俺達は独断で市民の救出に向かった」
「防衛省も警察庁に警視庁も市民優先だったんだけれど…東京がやばすぎて殆ど死んでしまってるんだよね…」
松実はそう言うと石を蹴った。遺漏を持たない者も派遣され市民の避難を率先したが文字通り肉盾になってまで市民を守って死んだという人が多い。しかしそれでも多くの人間の命を救えた。陋能転国が設立してからも限界まで生活の補助も行っていた。
「それでだ。人見という人物のラジオで東北から様々な物資を提供している陋能転国の悪事を広め、止めたという人達が気になった。」
「ただの一般人しかいないでばさ」
荒見はお茶を飲みながら話す。荒見からすれば何処出身だも同じ釜の飯を食べれば日常に溶け込んだ人しかいない。
「異形頭の人外と創造神の眷属がいるけどね」
まひるがそれを口にした瞬間ぴくりと松実が反応する。
「創造神の眷属?どの宗教の?新興宗教?」
松実は懐疑的だ。
「神なんてどの宗教でも碌な事しないしヤバい思想もって…ぐぉえっ」
ウェズが余計なことを言うとデレックに襟を掴まれ引っ張られた。
「あの、失礼だけれどウェズってなんでそんな見た目?遺漏は何?」
敦己は羽毛でもふもふなウェズに無意識に対抗心を燃やしているようだ。メンフクロウの怪人の姿はとてもふわふわしている。
「八意思兼命」
八意思兼命。それは日本神話で天照大御神が天岩戸から出る為に神々に知恵を貸した知恵の神の名前だ。
「なんで日本の神の!?」
「いや…結子も日本人ですけれどギリシャ神話のアパテーを遺漏として持っていましたよ」
国や性別は関係無いようだ。持つ遺漏もランダムで持たざる者も存在する。改めて不思議だ。
(何かごめん…)
ランバは自分の瑕疵だと心のなかで謝った。
「それよりなんでフクロウ?」
「八意思兼命の知恵をフクロウと結びつけられてるらしいね」
双の質問に千春はすかさず日本神話の本を本棚から取り出し読み解説した。
「ほぇ」
レヰチは間の抜けた声を出した。
「話を戻すがこの建物は信仰対象と同居するための施設かい?」
「話すと長くなりますが宜しいですか?」
「ティータイムが終わるまでにして頂戴」
ウェズはあまり長話をしたがらない。トモシビの言葉にカップを持ったまま背もたれにもたれかかる。
「…私のせいなんだよなぁ…」
ランバが罪悪感に耐えきれず声を漏らした。自嘲的な「へはは」と笑みを出してあけぼのクラブの人達は居た堪れなくなった。
「私がミスをしたから…私がミスさえしなければ空間は維持できた…この災厄は私のせいだ…」
「ワンオペか?創造神とやらは日本の労働基準法を知らないみたいだな」
ランバは日本にいるのに日本の労働基準法に沿って仕事してないと笑い始める。
(これ絶対アンガシャ聞いてるよね…?)
アンガシャが見ているなら…とちょっと怖くなった。
「良い上司はアーカンソー州の農業のようにもっと人を増やせる人だ」
「はぁ…?」
荒見はアーカンソー州など知らないのでよくわかっていない。再び話題が停滞してきた所でトモシビは話を戻す。
「ワタクシとランバは創造神の側近でありレヰチは人工的に作られたオミッションです。そしてその作成者のアズメは殺されました。犯人は不明です。以上」
「殺人?こんなご時世に人が人を殺すなんて遺漏関係でしかないのに?もしかして力を狙われた?」
松実の質問にブレナンは今ある情報を素直に話した。果たして話しても良いものかと一瞬迷ったが隠す必要もないと考え直す。
「俺はそう踏んでいるよ。もしかしたらカクって奴の仕業かも。あ、アズメの上司?らしいけど」
「その創造神はどの宗教だ?」
「どの宗教にも属しません。語られていませんので」
デレックの質問にトモシビはそう答えるしかできない。
「犯人の手掛かりすらないです」
人見はそう言いながらお茶の無くなったコップを揺らしている。
「一言言うと創造神は力を貸してくれないぽいってことは言っておくな。顔だけ見せて何もしないとか邪魔くせぇよ」
花菜は自身の座る椅子に逆さまに座りだした。はしたないと荒見に言われたがズボン履いてるしと直す気配もない。
「…まぁ陋能転国は無事存続しているし東京も何とか治安は回復した。結界が壊れて今海を渡って何か来るかもしれないからお互い協力して日本の治安維持とアメリカ合衆国国防総との連絡方法の確立、状況把握をしたい」
「はは、俺らの正義の執行に燃えるだろうね。燃えるのは彼奴等だけど」
勝手な行いは軍の規律に反する。しかし自分達は正義であるとウェズは信じている。
そこまで話をすると天井が突然壊れた。
「ぎゃっ」
花菜が姿勢のせいでひっくり返った。
壊れた瓦礫の上にいたのは蛭町兄弟を間接的に殺し町の人々を皆殺しにし咲弥と一樹に癒えない傷を付けたクラゲのような頭を持つオミッション。そして─
「翠嵐海…っ!」
最初に生まれたオミッション。ランバの記憶喪失の原因でもあるオミッションが目の前に現れた。




