33話【歯車は止まらない】
燈矢は旬の筋肉が衰えないようにマッサージをしながら話しかけていた。
元気に振り回されていた腕を見失わない為に確かめるように優しく動かす。
旬は正元が医療器具の提供の為に沢山の道具を遺漏で作り出していた。それが役立っている。特に電気なしで動く沢山の機械が優秀で今も日本中で使われている。
旬は胃瘻、酸素濃縮器、経管栄養など沢山のチューブに繋がれバイタルモニターの無機質な音が響く。これは彼の鼓動の代弁者だ。
「早く起きてほしいけれどさ…旬は起きたくないのかな。それなら別にいいんだけれど」
俺が責任持つから。ともはや語尾になった償いの言葉。
「俺さー今沢山の友達ができたんだ…旬もきっと気に入るよ」
一人で話しかけ続ける。反応は無い。
ずっとずっと声を聞かないと忘れてしまう。
「お前の声を忘れたくないよ」
――――
あけぼのクラブに大きな翼の影が差し込む。その正体は陋能転国所属の赤いドラゴンの姿をした歩だ。地面に優雅に着地する。その手には献花の為の花と供え物がある。
「歩君どしたの?」
外で雑草毟りをしていた人見は自身の土や草で汚れた両手をハンカチで拭い歩の両手に持つ荷物覗き込んだ。
「結子と沙知と灯月の墓参り」
「皆先に逝っちゃったし…寂しくないように…俺が寂しいだけかもだけどね」
「…もう誰も置いて行かないでね…人見も」
「重いって」
仲間が死んだ。歩は元から他人に少し依存しやすい性格だった。その上ドラゴンになった自身を受け入れてくれた仲間。結子は確かに業を抱えていたが仲間への信頼は本物だった。旬への愛も本物だった。
「俺は誰かにもたれかかってないと駄目だなぁ…」
「重いって。2つの意味で」
人見は花を受け取り荷物を軽くしてやった。
「結子以外は皆家族と縁を切ってるけどおんなじ墓に入ってるから寂しくないよね?」
「寂しいって感じなさそうだけれど」
「こっちが寂しくなるからやめて」
「ごめんて」
軽口を叩きながらお墓へ歩いて向かっていった。
――――
「…む…煙たい」
「ものを置きすぎて埃が細かく溜まってるんですよね…」
鈴彦と咲弥はあけぼのクラブの物置部屋を漁っていた。掃除のついでに何か使えるものはないか探している所だ。
花菜は現在昼食を作っているので手が空いている鈴彦が担当していたが日光からセロトニンを効率よく摂取しようと散歩のついでにあけぼのクラブまで来た咲弥が手伝おうと手を貸してくれていた。
「おっすーこんなところで何してんの?」
「うわぁ変なガラクタ」
「咲弥さん来てたんだ」
双と千春、ランバが見回りから帰ってきた所だ。
「見てこれ、ブリキのロボット!昔なら高値で売れてそうなのに!」
高らかに双が掲げたのは昔のロボットアニメの玩具。
「それ誰のかもわからないんですけれど…」
昔老人ホームだった時の誰かが持ち込んだ玩具だろうか。
「ふっっるいエチケット袋!これ使える…?」
「…心情的に使いたくないかも」
咲弥は小さく首を横に降る。
千春の掴んだエチケット袋は包装がぼろぼろな上に砂のような汚れを纏っている。「うぇ」と言いながら千春は片方の手でハンカチを探している。
「……あら…かわいいですね」
「お?何?」
鈴彦が取り出したものをランバが除きその上から更に双が覗く。
「ぬいぐるみ!」
それはハートを抱いたうさぎのぬいぐるみだ。
「うーん…ここに押し込むのも可哀想だし…旬のところに置こうか」
「起きたら見てもらえるかも」
双の提案に咲弥も頷いた。
長い間日の目を見なかったぬいぐるみもきっと喜んでくれるはず。
寂しくないようにそばに置いてあげよう。
――――
翌日
唐突にあけぼのクラブに複数人の見慣れない来客がやってきた。
また、平穏が終わる。
「こんにちは」
自衛隊の服を着た女性が口を開く。後ろにはアメリカ軍の制服の人…一人メンフクロウの怪物のような人物がいるが。まひるは一歩前に出た。
「こ、こんにちは…自衛隊員と軍人さん…?」
金髪の軍人がわざとらしく肩を落とした。しかしすぐに笑顔で顔を上げる。
「此処にいる奴等が東北の秩序保ってたの?僕等の威信が凹むなぁ…素晴らしき団結力」
「それで…どの様なやり方で陋能転国を転覆させたの?イギリス人みたいに二…三枚舌で?」
その瞬間思いっきりメンフクロウの姿の人物に足でどつかれた。痛そうに横腹を抑えて笑ってる。
「どつくなら鋭利な肢じゃなくて立派なムキムキの腕にしてほしかったですよ…ふ、へへ」
国を守る人達が何故此処に来たのだろうか。




