32話【改めまして】
あけぼのクラブの前に戻った途端千春が花菜のエプロンをつかんでへたり込んでぽろぽろと涙を流し始めた。
「し、死んだかと思った…いき、てた…」
「おーおー大丈夫。ピンピンしてるから泣くなよ」
わしゃわしゃと花菜は千春の頭を撫でて小さく笑う。
「心配したんだから…っ!いつもいつも突っ込んで!心配するんだよ!!」
本格的に泣き始めてしまった。また大切な人が目の前で死んだのかと思うくらいにショックな光景だった。
燈矢が足音に気が付き奥の部屋の扉から顔を覗かせると泣いている千春を見てぎょっとして何があったのか問い詰めるが花菜は「嬉しい時も泣くもんだ」と笑っていた。
ランバの出生について一段落し日常に戻るがランバにとってはまた新しい新生活のようなものだ。
『私の本名はカグライで神の側近です。こっちはオミッションや遺漏などの名称を広めたトモシビで同じく側近です』
なんて一樹達、そして陋能転国の皆に馬鹿正直に説明する必要がある。
それに結界が代わり国際社会に戻る。これからの新しい目標についても話さないといけない。しかし今は日常生活を取り戻すのが先だ。トモシビという新しい仲間やこれからの計画の話し合いだ。
トモシビは情緒が無く無機質な印象を受けるが受け答えは丁寧で問題児の多いあけぼのクラブではすぐに馴染めたようだ。
また、ランバも記憶が戻り紆余曲折があったものの今は自身を受け入れ元の生活に戻ろうと切磋琢磨している。偶に変な言葉遣いをするのも意外と感情的なのも変わらない。それがランバの元からある個なのだろう。
花菜は自身の遺漏について考えていた。洗濯をするという能力。
そう言えばこの遺漏の元になったゲーム…都市伝説があったな。『スーパークリーンウォッシュマン』コアなファンがいる知る人ぞ知るゲーム。
そのミニゲームのなかに『汚れた服を洗う』作業ゲームがあるがそこに実際に起きた殺人事件の被害者の血まみれの服が使われているという噂がある。そしてこのゲームの開発時に被害者の霊が霊障を起こしたとか噂が絶えず検索してはいけない言葉としても紹介されてたな…。
「ランバ、トモシビ。このゲームなんだけれどなんだけれど都市伝説本当なの?神の側近ならわかるよな?」
ゲームのパッケージを見せて都市伝説について問い詰める。
「ごめん……わからない」
「え?」
「ちが、私の専門外だから!」
「別に神の眷属だからって万能じゃないですし…あれです。ワタクシとランバは鞄持ちとか二童子だか、腰巾着というか…」
自虐的な物言いのトモシビにランバは拗ねたように口を尖らせる。
「あの神が異常なだけでしょっ…!というかアレも言うほど万能ではないし…っふん!」
「お前って意外と負けん気強いな」
此処に来てランバの新しい一面が見れた気がする。
――――
数日後
「ただいま帰りました!!!」
人見が大きな声を上げながら玄関のドアを足で開く。両手に大きな荷物を持っていた。後ろから一樹も荷物を持って現れる。
「卯木さんから色々貰ってきちゃった」
陋能転国から物資を受け取りに向かっていた。
「ほらよ『ゴーダチーズ』だ」
「やった!ありがとうございます!」
一樹から好物のチーズを受け取りランバは目をキラキラと輝かせる。切れているものではなく丸々1個。一人だ食べようと思えば食べられるくらいチーズが好きなランバ。しかし此処は皆で分けて食べようとウキウキしながらキッチンへ足を運ぶ。
「そう言えばレヰチちゃんってどんな食べ物が好きなの?」
人見の質問に少し考え込んでから
「かわいいものなら何でも」
と答える。人見は仰け反りながら叫ぶ。
「可愛ぃぃ?味とかじゃなくて見た目ぇ〜!?」
(頭のカップの中に入れれば消えるんだよな…)
異形頭とは実に不思議だ。トモシビは近づけると燃えるように食べ物が消える。そもそも食べる必要もないが周りに合わせていると言っていたが。
――――
「そういえば今もアンガシャって奴は僕達を見てるのかな」
敦己は空に向かって両手でピースをした。無論返事はない。
「神に認められたアイドル…良いかもしれない」
「またそれ?飛躍しすぎでしょ」
もふもふアイドルを未だ諦めない敦己。このくらいポジティブで自己肯定感が高いのは長所として羨ましい。
「神、そういえばカクって奴は真実を追い求めてるって聞いたけれど」
「アンガシャの事を追ってるのかな」
人見は人伝いで聞いたカクという名前をアンガシャと整合させる。真実は創造神にある。ならばカクは最終目標はアンガシャになるかもしれない。
しかしこの2人が出会えば何が起こるのだろうか。人見は静かにその答えを考え込んだ。




