30話【子と親】
空間に入ったランバ、バグシィ、双、千春、ブレナン、鈴彦、シズ、荒見、まひる、敦己、一樹、咲弥、レヰチ、人見。
空間の穴を抜けると白い草原が広がっていた。空も草木も全てが白い。
ランバの周りにいる人達はその奥で椅子に座りテーブルの上に乗ったカップを持ち飲み物を飲んでいるその姿を見るまでもなく(…あぁ、あれは神なんだ)と理解する。
目を凝らしその姿を見てみる。
ほんの僅かに赤味がかった黒髪を結い瞳は逢魔が時のような日の落ちたような色味。右目元にホクロが一つ。黒いヴィクトリアンコートを纏う高身長。しかし一番目を引いたのは…その腕が六本あることだ。上中下で中の部分だけに黒い手袋を身に着けており椅子から立ち上がるその脚はガラスのように透明な針の形をしている。
「あぁ、此処に来ましたか。」とそんな言葉を語りかけられた。口調はゆったりとしているのに拘束力が凄まじい。逃げようとすら思えない。
「困りました。お帰りください。貴方達は此処にいるべきではないのです」
「一度くらい話を聞いて下さいよ」
「あぁ、あぁ、わかりました。私に如何にしてこの様な出来事が起こったのか聞きたいのですね?」
ランバの言葉にその神は簡潔に言葉を放つ。
「貴方は天から落ちてしまいました」
「そして私はそれを観ていた」
その言葉は正しくない。この神は回りくどい言い回しをしがちなのだ。ランバはよく理解している。大方ルシファーか何かで比喩したかったのだろう。しかし比喩表現にこだわりすぎて意味を履き違えてしまっている。
「皆さんのことは…非常に良く見ていましたが…初めまして…そしてお久しぶりですカグライ…いやランバ」
「私の名前は『アンガシャ』です」
後ろからランバにバグシィを預けたあの異形頭が現れる。
「…トモシビ」
ランバもこのトモシビもこのアンガシャに創られた。
アンガシャはランバがミスを犯した後ほったらかしにした、そして世界が生きた結界により国を阻まれた。それらはランバの意図することではない。
「どうして私をほったらかしたんですか?あの結界はなんなんですか?」
ランバは一歩歩み詰め寄る。この神は何時も何時も周りから観れば素っ頓狂な振る舞いをする。ユーモアに富んでいる訳ではない。周りには理解の及ばない上に創造神らしくない不合理的な振る舞いをする。
「先ずは後ろの方々に一から説明をしましょうか」
トモシビとカグライはアンガシャの手足として働く存在。
「生命を作るプログラマー『ライフコーダー』のウツシビ」
「そしてこの世界の不具合を修整する『造化デバッガー』のカグライ」
「…二人とも私の側近として働いてくれていました」
「そしてカグライがミスを犯し世界が混乱したので好機と思い観察していました」
シズはそれを聞きため息を吐く。
「何が好機なんだ…?」
ブレナンは
「俺等が共通して言葉を解せるのは?必要なの?」
「まずはおかけください」
アンガシャが人差し指を動かすと各々の為に椅子が現れた。
各々が黙って座る中花菜とランバ、敦己、鈴彦は座らなかった。
「ランバには必要ありませんが別々の言葉では他国との人間同士はコミュニケーションは取れないでしょう?便利、そして結界は活動場所を狭める事により観察しやすく、そして人間の間でのグループが狭まります」
「要は箱庭として見やすくしたいってことかよ」
シズが靴を地面で鳴らす。
「生きたバベルの党じゃん。どっちかって言うと崩す側だろアンタは」
花菜は鼻で笑う。
「私は一神教の神ではありませんよ」
花菜の皮肉に真面目に答えるアンガシャ。どうにも相性が悪そうだ。
「おっと危うく両手で中指立てそうになったよ。両足だけで済んだ」
(器用ですね…)
アンガシャは花菜の言葉に内心感心した。罵倒用語が何処から生まれたのか鑑賞への興味を沸かせた。
「…あの、何故その様な回りくどいことをしてまで観察したいのですか……?」
「それは私のせいでしょう。すべてを知り尽くしていると退屈になるんです。私もトモシビの様に情緒が無ければこの様な事にはならなかったのですがね」
「そして私と同じくデバッカーが完璧なら……世界全てが完璧になり大変残念なことに成長というものがなくなるんですよ。人の営みが必要なくなるんですよ」
「アンタも完璧じゃないってならアンタが作る世界なんだからそりゃこんなハチャメチャな世界になるだろうよ」
こんな奴の為に玩具にされるのは我慢ならない。
花菜は自分の分の椅子を蹴り飛ばした。
「創造神の癖に全知全能じゃないんだ。要は自分が知らないエンタメが欲しいから現実世界を利用したってだけだろ」
「その通りです。私の瑕疵かも知れませんが…如何せん興味を持ってしまったものですから」
「そいで世界が壊れちゃこんな世界は世話ねぇべや」
荒見が椅子に肩をもたれかからせている。
他人を巻き込んでも平然としているアンガシャに業を煮やした花菜は遺漏のホースを取り出した。
「一発浄化してやりたいが良いか?」
「無意味だとは思われますが良いですね」
水掛け論に水を掛けてやろうと花菜はホースを向けた。
「…終わりですか」
水を一滴も被っていないアンガシャ。その手には花菜の生首を持っていた。




