29話【日が沈む時】
「そうだよっ!ランバが…!なんか…グニャってこう…なったぁ!!」
花菜が野球の投手のように素晴らしいフォームを魅せスライムのオミッションをランバの口に投げ入れた。
「くねくねぇええっ…!」
悲鳴も虚しく口の中に収まった。
スライムが牙に刺さりモゴモゴと巨大な口が開閉しづらいのか開かなくなった。これで食べられる心配はないといった様子だ。
その瞬間体力の触手が空間を裂いて展開される。
本体も瞬間移動し先ほどのスライムを置いて食品サンプルの盾の背後に回り込んでくる。
鈴彦が地面を圧縮し落とし穴の要領で地面に落とした。
「鈴彦!触手潰せ!」
「はい!」
花菜はレヰチの頭をホースで庇い鈴彦に指示を出す。
咲弥も遺漏で銃撃で触手の動きを防いだ。全員をランバの本体から逃がし煙幕弾で目眩ましをする。双は建物の中で燈矢と共に仲間を守っている。今は此処にいるメンバーで戦わなくてはいけない。
銃弾が発射され迫りくる触手を弾く音後響く中荒見は半纏の中にしまっていた折り畳み傘を取り出した。折り畳み傘を伸ばすと剣のように振りかざす。荒見の遺漏『幼い頃の思い込みを具現化する』の権能により子供が傘を振りかざして戦いごっこをするという遊びの効果により本物の剣として機能する。遺漏を持つ者のの身体能力は向上する。それに伴い荒見は老いを全く感じさせない素早い動きで触手を切り落としランバの背に乗った。
「おいにはなんもわがんねぇし無駄におがすいしおがってなにしたいがもわがんねってばさ」
話しかけても返事などなかった。一体どうすれば満足するんだべかと荒見は頭を悩ませレヰチに話しかける。
「あんだ、なんかしらねか?」
レヰチは人造オミッション。遺漏者よりはランバの事を知っているかもしれない。曖昧な理由だが縋るしかない。その歯痒さを感じながらも荒見は
「アズメさんならわかったかもしれない。でもあだしは…」
『おわぁ、おわぁ…わえのやっていたことは無駄じゃないと証明された…!これはなんとも【可愛い】オミッション!名前はそうだなァ…0から1になるから【レヰチ】だ!』
『わえはお前を作り出した星場アズメ!オミッションとかこの世界のこととか自分の事は話せるよね?ね!?』
『ずっとほっぽっていたわえより自分の事大事にしなよ』
思い出すのは自分よりずっと背の小さい『父親』の姿。
『かわいい』ものを作ることしか出来ない自分よりも器用な彼が生きていれば…。
そう思ってしまった。でも、変えることもできないしこの考えは間違っている。
今、此処で…どうすればランバを戻せる?
思いつく限り始まったばかりの人生で得た知恵を絞る。
トモシビ、パンケーキ、リボン、バグシィ、神話、カレー。
ドス、と腹の中から触手が出ていた。
空間を操るランバは厄介すぎる。もしこれが頭だったら…。
(わざと死なない様にしている…)
触手を引き千切り抜き取る。
「あんだってそんなあっぺなことしかしねんだべか」
どの様にアプローチすれば戻る?
考えないと。
「…そうだ」
アズメさん…いや父さんがお風呂に引っ張られたのを思い出した。
「花菜さんの水なら…!花菜さん!」
たしか毒などの身体に害のあるものも洗えるはず。
「…っはぁ!?それで来たら苦労は…いや、洗剤はまだ使ってないな…」
洗剤を出現させ投げつけホースで水を浴びせてみる。
口の中に大量の水が入り咳込んでいる。
「ごぶっ……っ!ごふぅっ…!」
体が変形し元のランバの姿に戻っていた。
「ぁああっああっ…!」
ランバは水に濡れながら涙を流していた。
――――
「ぁあ、ぅううッ…ぁ゙ーっあぁ…!」
「ゔぇ、えっ…ごめんなさい…ごめんなさい!」
「ごめんなさぃ…っ」
リビングのソファに座らせてからもずっとこの調子だ。異形になっていた時のことは覚えていないらしい。
ランバ曰く
『全て私のせいだ。私が情緒を持って些細なミスを犯したから世界がめちゃくちゃになった』
『現実と虚構の境界が曖昧になり集合的無意識と現実が繋がった』
『私がミスをしなければ皆の家族も死ななかった』
『アズメが誰かに殺されたのもアズメが遺漏を持っていなければ起こらなかったのに』
とのことらしい。
「…ミスで?」
ランバが失敗したせいでと言うのか?陋能転国は人間の業だ。ランバ自身は意図していない。
双もシズもランバを攻める気にはなれなかった。
「……」
千春は迷っていた。確かにランバが間違わなければ遺漏者に父親は殺されなかった。
「私は…ランバを責めるのは間違っているとは思うけれど…もやもやする」
「もふもふはうれしいけどねぇ?…あ、僕の話な?」
けはは、と敦己は笑っている。彼なりの励ましとも捉えられるがたぶん本気でそう言っている。彼は言葉は殆ど飾らない。
それからもランバに温かいお茶を飲ませたり背中を撫でたりと落ち着かせるために試行錯誤した。
それに私はとても最低なことを考えている…。
ランバは自身の名前の由来になったオダマキの造花をぼんやりと眺めながら自己嫌悪に陥っていた。自身の欲望と守るべき秩序に挟まれている。
「…会わなきゃいけない存在がいる」
ランバはバグシィを見た。
「みゃあお」
ランバのしたいことを理解したのか尻尾の包帯が解け大きな円を描いた。
「…私を創った創造神と会いに行ってくる…皆は」
「行くに決まってる」
満場一致だった。文句、真実、好奇心。各々の考えの元ランバの後ろをついて歩く。
あけぼのクラブの皆と一樹、咲弥を含み空間を潜った。




