27話【全ての瑕疵】
療養期間に入ってから1カ月が経過した。
家族を亡くした者、自身の体の一部を負傷、または欠損した者、そこから生まれた多くの心の傷は癒えることはなかった。しかし停滞しているわけにもいかない。道を歩き続けなければいけない。
今現在あけぼのクラブではランバ、双、千春、まひる、敦己、シズ、鈴彦、花菜、ブレナン、荒見が集まってテーブルを囲んでいる。
双も骨折は遺漏者のおかげかほとんど治っている。心も落ち着いて笑顔を見せるようになった。しかしそれも崩れた。アズメが死んだことによりまた顔に影が差した。
「それで…あけぼのクラブに入り込んで気がつかれないことってある?」
千春の言葉に敦己は更に付け足す。
「ここいらはアメトリンの人達も通るしさぁ〜夜だとしても…シズが外で筋トレしてるじゃん?感覚が鋭いし気が付かれるよね〜けはは」
シズはちらりと敦己に横目で見られて目を逸らした。人がいない時間に筋トレしているのにまさか気が付かれているとは思わなかった。場所を変えてしまおうか。
「…ノンデリ」
「本当のこと言ってるだけじゃ〜ん」
二人が一触即発になりそうな気配を察知した鈴彦が仲裁に入った。
「話を戻して下さい…」
軽く咳払いをしてランバは犯人の遺漏に着目する。
「姿を消すとか気配を遮断…みたいな暗殺向きな遺漏ならすぐに片付けられるけれど…納得いかない」
恐らくアズメの殺害に遺漏を使った。あんなに綺麗な断面を作り出すのだから。しかしそれならば気がつかれないのに説明が付かない。繋がりがない。
ランバは改めて自身の経験不足な部分、特に思慮の浅い思考に気を落とした。もっと社会経験が豊富であれば…。
「荒見さんは…何か思いつきますか…?」
「わがんね」
…人生経験でも最近の変化ばかりの世界ではわからないことはあるか。
「アズメを殺してレヰチは殺されなかった。それに他のあけぼのクラブのあたしらを殺さなかった。アズメだけ、何でだろうね?」
花菜は犯人はアズメの作り出したイレギュラーを恐れたのだと疑った。しかし手を出さなかった。『レヰチに手を出さなかった=レヰチというイレギュラー目的ではない』と考えを改めた。
しかし、考えても手がかりなんて無い。一人でいるのは危険だから常に二人以上で行動。後手に回るのが癪だが仕方ない。
――――
千春と双と共に見回りの仕事をするために外に出た。三人で横に並び歩いてなんとか日常をいつも通り行うことで心を表面だけでもいつもの日常を模倣させる。
私は身長が高めだから大人扱いだ。まだ未成年の二人の付き添いとして見回りを担当している。元々一人で見回るのだがアズメの一件から双と千春の見回りコースを合わせて私も付き添い3人で回る事になった。
「アメトリンの人達は何もなかったし…」
「………」
「そういや敦己昨日すげー荒見に叱かれてたけれど何したの?」
双は千春の話を遮り昨日のことを聞く。確かに敦己は問題行動が多いがものすごい怒声が響いていた。
「人見にお願いして自分をアイドルとして歌を歌う枠を作ろうとしたってさ…あんまり問題起こしたくないね」
それを聞いた千春はランバを睨みつける。
「ランバ。エメンタールチーズを摘み食いしたの見つかってばっぱにひっぱたかれてたの忘れてないから」
「ぐっ…それは…美味しすぎて私の自制心が減衰して理性が自壊してしまったんだ」
ランバは自身がチーズが好物だという事に気が付いた。そして美味しすぎるあまり理性を欠き放埒になり悪事に手を染めてしまった。
「意味わかんない言い回ししないで素直に『ごめんなさい』してよ〜」
双がランバの両頬を引っ張った。
「ご、めんなひゃ…いぃでぁ…!」
――――
その日の夕方。ランバは意を決して自身の記憶を取り戻そうと機械を手に持って外に立っていた。周りにはあけぼのクラブの仲間達がいる。
「私のメモリをメモリダンプする行為ってことかな…ちゃんと治るよね…?バグちゃんと修正され…いや、ゴーストバグじゃないよねぇ…?」
「メモとかゴーストなんちゃらとかまったくわからんて」
花菜は肩をすくめた。語彙がマニアックな方向に偏りすぎて何を話しているのかまるで理解できない。
「…どうであれ考えるのは後でいいよ」
ブレナンはマフラーで口元を隠しながら話す。
そう言われランバはとにかく記憶を取り戻そうと心に決めた。
今は亡き二人、正元が作りアズメが直してくれた機械のスイッチを押した。
――――
そうだった。
先ず最初に思い出したのは私という存在の正体。
私は人間ではなかった。
そして本当の名前『カグライ』…傀儡であり神楽の役目を持っているから『カグライ』
私が記憶を失う直前は世界中で大きな災害が続いていた。更には人々の鬱屈とした無意識で更地の部分に空間の歪みが出ていた。人々の集合的無意識と個人的無意識には人々の恐怖の記憶が染み付き現実世界に軋みが生まれた。
私自身の正体について、それはこの世界のそういった不具合を直す造化デバッガーだ。この宇宙の創造神に生み出され役割を全うしていた。
ただ一つ私には情緒があった。人間の営みを見て興味を抱くほどには。考え方に迷いが生まれるのは世界の均衡を保つ存在として致命的なのに、わざとだ。
そういった歪みを生み自身の予想に無いものを見て楽しむ創造神の掌の上ということ。
だが間違いを犯したのは間違いなく私だった。軋みから生まれたオミッションが現実世界に現れたのだ。
クラゲにコウモリ、サソリが融合したようなオミッションは連続する災害という存在が人々に根付いた結果生まれた存在だった。私はその生まれた大きな最初のオミッションの対処を迫られた。
先にこの大きなクラゲのような二足歩行のオミッションを屠るか軋みが大きくなる前に先に直すか。
即時の対応が出来ず歪みが世界中に広がりオミッションの対処も出来ず崩壊に巻き込まれ自身が持つ記憶を歪められ記憶喪失になった。
そして長い気絶から目が覚めた私はあの異形頭…トモシビを見ていた。
そうだ…私のせいだ。
私の…せいで…。私がっ!私が私がぁぁ…っ今思えば…私がもっと優秀であれば…っ私が…私のせいで犠牲者が出て世界が目茶苦茶になって。
旬が苦しみ抜いたのも。すべては私の瑕疵だっ!この世の惨憺な出来事は私のせいじゃないか…。瑕疵だ。私が…私がだ!!!
双達の家族が死んだのも…シズの母を救えたかもしれないのに。誰も人の道を踏み外さずに済んだ。こんな世界にならなければ欲しくもない力に翻弄もされずオミッションに家族を殺されることもオミッションを殺す事も人間同士で殺し合うこともエラー化も何も、何も無く平穏な生活が続いた。アズメが誰かに殺される事も…。
何で私がこんなに無能なんだ。情緒があるなら…あるなりにもっと正しい考え方が出来たはずなのに。
気息奄々だ。周りの人に助けられ生活を安定させてもらい楽しい日々を送っていたのに私が不幸の元凶だった。
自分に対するイメージが変わってしまう。それは今致命的だ。この世界は今心理が現実に反映される状況だ。私が私を強く負の感情で捉えたせいで姿が再構築されてしまう…ここでもまた私は瑕疵を犯した…。情緒があるなら気も落ちる。なのに私は自分の情緒をコントロールできない。神の使いの癖に。
――――
記憶が戻ったランバが第一声何を話すのか、どんな本名なのかどの様な人物だったのか聞きたかった。なのに目の前でランバがエラー化の様に異形に成り果てた。
異形のカグライが触手だらんと地面に置きヘビのような体を倒していた。




