23話【旧支配者と地獄の悪魔】
人間の新しい側面が見えてあの御方は満足そうだ。
これの為に態々此処まで放っておくなんて。
レヰチ、旬、エラー因子。
世界が変わると人の動きもそれに合わせて新しい研究を始める。
「邪魔になりそうなオミッションはもう片付けたと思っていたのですが…」
まさかソロモン72柱の序列1位の悪魔が残っていたとは。鑑賞の邪魔になりそうなオミッションはあらかた潰した筈だったが。流石に位の高い悪魔は狡猾だ。ワタクシでも骨が折れる。もしかしたらそれすらもあの御方は鑑賞して楽しんでいるのかもしれない。
(あの御方はワタクシを見て楽しめるのですかね?)
少しの間を起き納得した。
「……嗚呼、今此処でということですか」
――――
翼を羽ばたかせバエルを見下ろす燈矢。
「バグシィを攫ったバエルって奴は随分と怨みを買っているみたいだな」
地鳴りが響く。
バエルのいた地面から海水が噴き出た。
「っ!」
クトゥルフは海面が浮上する。そして海水と共に大きな建物が姿を現した。
『ルルイエ』だ。クトゥルフが封印されているとされる海底都市。これが出現している間対象に自殺したくなるほどの悪夢を見せ事ができる。
それは悪魔であっても例外ではない。
「これだから宇宙のゴミは…」
バエルは自身から眷属の悪魔を引き抜き肩代わりさせると超スピードで接近してきた。
燈矢から見れば体格的に不利だ。しかし彼の遺漏は海を操る。海水を武器にトリッキーに動き回り近づけさせなければいい。
水というのは高速で噴射すれば強力な武器になる。
無論そんなことは相手も知っているからさけるために離れるしか無い。
旧支配者と地獄の悪魔の攻撃がお互いを近づけさせまいと遠距離攻撃が続く。それが周りの地面を破壊していく。
「おあ……巻き込まれたら堪らないや」
まひるは神と悪魔の力を持つ二人の戦いを見て間には入れないと感じた。
「本体はあの子に任せておこうかね」
「こっちの被害とかあんまり考える余裕もなさそー」
二人の戦いが激しすぎる。
「えっどうする…?弱点を探るとか…?」
双も燈矢を感電させる可能性から戦いを止めるしかない。今は何もできない。
「クソ…燈矢に先越される…」
双は戦いを中断をせざるを得なく悔しがっている。
「確かに…先に弱点見つけられるかも…」
「ランバは何で偶にズレたこというんだよ」
花菜はランバの頭を軽く小突いた。
一箇所に集まったのが悪かった。バエルが裂けた口の端を上げて笑う。
首を燈矢から遠ざけ逃げ首から残った全ての悪魔の軍団を出し一つの悪魔にした。それはあけぼのクラブにいた悪魔が巨大な姿になったものだ。
それが足で踏みつけようと落ちてくる。
レヰチがレースをスカートの中から出しそれを巻き付け皆を引っ張り踏まれることはなかった。
燈矢は焦っていた。
(もう一度ルルイエを使ってもあの眷属に移るだろう。しかしそれだと遺漏の力が尽きてしまう。)
(それに2回分もルルイエを使う力は残っていない。
人間なら致命傷の怪我でもアイツには効かない。どうすれば殺せる?)
「っなぁっ!?」
燈矢に攻撃をしたのは眷属の方だった。翼へ魔力を放ち飛行能力を奪おうとした。幸い翼は破れなかったがランバ達の近くへ地面に墜落してしまった。
燈矢が墜落した大きな音が響く中バエルの方はレヰチに首無しの姿のまま腹へ強烈なパンチをのめり込ませ吹き飛ばした。
バエルへの対策も無い。相手は2体だけなのに人数では圧倒しているのに勝てない悔しさ、焦りが増える。
そんな中眷属が燈矢の頭を潰そうとした瞬間眷属の頭が破裂した。
「ワタクシの名前は…『トモシビ』です」
そう自己紹介したのはランバにバグシィを与えた異形頭だった。その異形頭は瓦礫に埋もれたレヰチを優しく起き上がらせて壁にもたれ掛からせた。
バエルは一番警戒していたトモシビが現れ戦いの手を止めた。
「どいつもこいつも気軽に首無しの姿だな…」
けはは、と敦己は笑っている。
しかし他の人々はこの異形頭の目的がわからず警戒するしかなかった。
ヘラジカが燈矢を乗せてやってきたと思うとランバの隣にゆっくり寝かせるように消えた。燈矢は気絶していた。
日本にヘラジカはいないはず。それにヘラジカがそんな動きをするはずない。
「トモシビさん…バグシィを私にくれた人…」
「そうです。覚えててくれたのですね」
表情は分からないが声色は優しい。
「ワタクシが此処にいる意味もないので手短に話すことだけ話しますね」
「…バエル、貴方はそこで話し終わるまですこ、」
バエルがトモシビの頭を殴りつけた。
浮遊する燃える頭だが身体が頭に合わせて吹き飛んだ。
「…あぁ、あっつい…楽観的になれない」
バエルは自身の焼けた手が再生しないのを見て自嘲的に笑う。
「だがまぁ…普通に殴れるし吹き飛ぶってことは殺せるってわかって無駄じゃなかったよ」
花菜は吹き飛んだウツシビに駆け寄る。助け起こすというよりは逃げないようする目的だが。
その間バエルはランバに向かい足で毒を注入しようと向かってきた。
「お前も普通に殺せるよな?」
「人もどき」
ランバは目の前の空間を咄嗟にバエルの真後ろ後ろに繋ぎ自身の背中を刺させる。
「…自分の毒は効かないけれど痛いな…これ」
バリバリと電気がバエルを追撃する。しかしやはり効かない。
「…おや、まぁ…ありがとうございま、」
「いや別に助けるつもりじゃないから。ありがたくないから」
「…そうでしたか…」
少し残念そうに俯いている。しかしすぐに顔を上げて話すべきことを話し始めた。
「バエルに一番効くのはやはりユダヤ教やキリスト教系統の悪魔祓いが効くのですが…『そういう系』は無いですよね」
「まぁ一番今やりやすいのは脳みそを潰す事です」
「それではごきげんよう」
ウツシビは一礼した。しかし
「おい待て」
花菜が逃がすまいとウツシビにしがみついた。
「ごきげんようすんじゃねぶぶぶぶぶぶっ…」
突如しがみついたウツシビの腰からウサギが現れ両手で花菜の顔を高速で叩き始め思わず両手で顔を抑えて離れてしまう。
気が付いた時にはウサギもウツシビも消えてしまっていた。
「助言だけして帰るとかねーわ!高飛車がよ!!」
花菜は地団駄を踏んでいる。それにランバは苦情した。
「高飛車というか…高尚では?」
「お高く止まってるって言いたいんじゃないの?」
レヰチがそう言うと敦己もトモシビに肯定的だった。
「うん。それにあっちの悪魔殺して助けてくれたじゃん」
双はそれを聞き流しながら再び臨戦態勢をとる。
「じゃあ今度こそ親の仇ぶっ殺すか」
それを聞きバエルは笑う。嘲笑う。
「ぎぃははははっ!!!」
「ようやく一握りの希望が見えただけだ!!」
「殺してやるよ!!全員!!」
――――
アクリエイティの建物にて
カチャカチャと『記憶の雫』を修理する音だけが響く。
(わやが出来るのは頼まれた物を作る、直すこと)
もし、もしも今カクが此処に帰って来たら文字通り『首』にされるかもしれない。まぁそれよりも自分自身がやりたいことを優先してしまうのだが。
カクは自身の知りたい真実を第一に優先する。しかしそれを蔑ろにしている今の様子を見られれば邪魔者に見えてしまうかもしれない。
オミッションに襲われていたところを救われたのが始まりで恩を返す為に付き添っていた。
元々陋能転国に所属していたが差別されていたから所属したわけではなかった。ただカクさんの付き添いで所属して、カクさんがやり方がぬるいと言って抜けたからわやも抜けた。それからカクさんにスカウトされた人達が集まりアクリエイティが出来上がった。他の人達はカクさんの命令で動いているから顔を合わせる事は滅多に無い。
(陋能転国がぬるいってのはわかるけれど)
いつまでも真実がわからないなんてもやもやするし。
部屋には陋能転国にいた頃撮った写真を幾つか飾っている。そういえばいつもカクさんは笑ってなかったな。
「わやも戦いに貢献しないと…カクさんがいないし丁度良いや」
陋能転国に所属していた頃作った兵器。しかし使う機会が無かった。
自動追尾式小型ミサイル。
「数日かかるとか言ったけれど…今日中に完成させないと」
外で派手に戦っているのが此処からでも見える。
「足止め程度にはなるかな」
ミサイルのスイッチを発動し直ぐ様修理に戻る。
機械修理の為に遺漏を全力で発動し目眩がするが今この時間を無駄にしたら邪魔されてしまうだろう。早く1秒でも早く完成させないと。




