19話【不倶戴天の悪魔】
「やっぱり自分の事が何もないと不安…か」
「私もね自分の名前すらわからくて…それで記憶を取り戻す為に機械を直してもらいに来たんだ」
ランバは自身の身の上話をしてレヰチに共感を得てもらい心を開いてもらった。お互い人と違う部分がある。しかし心はある。
「私が記憶喪失にならなければレヰチがアズメから引き離されることはなかったのに…瑕疵だ」
ランバ達は生まれてすぐに放り出されるような悲しみを抱かせてしまった側だ。だから少し複雑な心境だが今彼女の手を取らなければ彼女は孤立してしまう。それだけは避けたかった。
「レヰチは生まれたばかりだから…自分の事はこれから作っていけば良い…私は、それを失った側だから少し違うけれどね」
はは、とランバは笑いレヰチの大きな手を見つめた。彼女が何を好きになり何をしていくのか。それはまだ右も左も分からないから周りが支えないといけないだろう。
それにしてもオミッションにしては随分と大人しい。元になった概念が恐ろしくなければ凶暴にはならないのだろうか。
――――
風呂から上がったアズメは陋能転国についてふと疑問に思った事を口にする。
「ラジオ途中で止まったんだけれど…あれ結局結子死んだんだよね?どうやって?」
そういえばエラーについては放送していなかった。
「…わかるかな『エラー』ってやつ」
「あぁ、エラーね。カクさんが調べてるやつの一つだよ」
カクという人物はエラーについても見識があるようだ。
アズメはソファにボスン、と座り水を飲み始める。
「面白い事を言ってたよ。カクさんがね、『エラー化の症例を集めたら変なズレがある』ってさ」
「そこから得た発見を『エラー因子』って名付けてた。」
機械に取り掛かる前に彼は全部話してしまおうとレヰチとランバも集めた。
「つまりそれはどういうこと?何かあったらエラー化するって?」
まひるは先を急かす。
「そうだね…『双子』『兄弟』だとね?片方しかエラー化しないんだよ」
血の繋がった片割れしかエラー化しない。カクはその症例を幾つも見てきたことになる。
「本当に?嘘じゃなくて?」
「あの人は嘘をつくとは思えないけれどハッキリとした証拠は見てないんだよね…話半分で良いよ」
カクはあまり話したがらないとアズメは一言添えた。
「………」
双は一樹に陋能転国の一件後教えてもらった過去の真実を聞いていた。
彩斗が絶望したのに何故か彰がエラー化したと。謎だった出来事がこの話なら辻褄が合ってしまう。
「……兄弟…」
双には幼い頃亡くした弟がいた。それにまひると敦己どちらかがエラー因子を持っていることになる。
「…まぁだから何だって話だけどさ」
そろそろ機械修理するよとアズメは部屋へ入り込み機械を弄り始める。
「……あぁ、レヰチ。ほっといてごめんね…?」
気まずそうにしている。彼なりに何か声はかけたかったが不器用なのだろう。
――――
「掃討の異常検知」
「……何か、大きな歪み、一箇所、固まってる」
「辺鄙な人のいない場所に…」
そこから少し離れた場所にも一匹。一つの異形の影が移動を開始した。
四本の針のような足で高速で蠢き夜の街を駆けていく。
翌日の夕方
『あけぼのクラブ』の窓が突き破られ旬の側にいたバグシィが消えた。
本当に一瞬の出来事であり物音に気がついた時にはもうバグシィも異形も見当たらなかった。
――――
その日の夜
アクリエイティの玄関のドアが突如壊され異形が姿を見せる。
その音に玄関に全員が集まる。
4つの猫耳、カエルのような緑色をした瞳、小さな王冠。皮膚がつながり鋭い牙の歯が見え隠れしている。そして何より脚が四本ありそれが蜘蛛の脚をしている。どう見ても人間ではなくオミッション。
「バグシィ!?」
ランバが首裏を掴まれて怯えているバグシィを見て冷や汗を流す。
「ランバ、あんまり前に出ないで」
敦己が警戒してランバを後ろに下がらせる。
「これはバエルのオミッションか…?」
アズメがその外見の特徴から正体を考察する。
「腐った目ン玉大正解」
「名称72の1」
「バエル」
ソロモン72柱の頂点に立つ悪魔であるバエルは嗤う。しかしそれよりも双の反応が凄まじかった。いつも軽薄でニコニコしている双が激情を隠さず怒気を放っている。
「テメェ…」
双にとっては不倶戴天の敵だった。
オミッションや遺漏の天災が起きてすぐオミッションに両親を殺された。その犯人がこのバエルだった。忘れるはずもない。そのニヤニヤとした気色の悪い笑み。蜘蛛の四本の足。意味の分からない言葉遣い。間違いない。
両親の仇だ。
「このっ…悪魔っ!!」
「このっ…この人間!」
からかっている。わざと真似して『人間に人間というようなものだと』暗喩している。
「うるせぇ悪魔になりきれないオミッション如きがよっ…!」
双はバリバリと電流を流し今にも飛びかかりそうだ。
しかしこの建物には電子機器がある。そしてバエルには猫質のバグシィが。
「双!!」
「……わかってる!!!」
双はバエルの懐に飛び込み外に飛び出ていく。
全力で突進して体を圧迫して様子を伺う。
「嘲笑してしまう」
「あ?なら腹ぶち抜いてやる!!死んでしまえぇっ!!」
ぐるん、と双の背中に体を回し込み蜘蛛のような鋭い脚で首を跳ね飛ばそうとバエルは脚を動かした。
しかしそれはランバにより止められる。手前に瞬間移動しバエルの足を掴み引きずり下ろした。
「……」
「お前……」
「……やっぱりこの世の理と…違う」
そう言われたランバは眉を顰める。
「それは貴方でしょう」
しかし返事もなくバエルは姿を消した。
「ば、バグシィッ…」
追いかけ用にも早すぎて目で追えなかった。
――――
『そっちにも来てたんだ』
千春は双の怒りを感じて声を少し小さくして縮こまっている。
「マジで頭の悪そうな話し方してたんだよ。猫攫い悪魔らしい悪行しやがってよ。次会ったら体の中水で満たしてやる」
花菜はイライラして足を揺らしている。
全員が負の感情に飲まれまともな思考が出来ていなさそうに思えたが敦己が周りの空気を和ませる。
「どうせまた来るでしょ?」
「こうやって焦らしてるのも相手の思う壺でしょ」
「なら、準備してやろうよ」
その言葉に少し落ち着いて双は深呼吸して息を吐いた。
「分かった。ありがとう…迎え撃つ準備をしようか」




