17話【可愛いとは】
お泊りをすることになり寝室に皆で布団を敷きその日はもう眠ることになった。長時間歩いてもう疲れ果てていた。花菜は布団に入って十分程で眠りに落ちもうほぼ気絶状態だ。
「敦己は布団かけないんだ?やっぱ暑い?」
「布団いらないくらいあったかいよ〜まひるもそうでしょ?」
まひるも普段はかけていない。毛皮があると常に温かいのだろうか。
「うん。布団いらない。……おやすみ」
それだけ言うとまひるは寝返りを打ち視線をそらしてしまう。
男女同じ部屋だが別に問題はないというのは信頼関係あってこそだろうか。ランバはちょうど男女の間の隙間に敷かれた布団に潜っている。
ぽつりぽつりと雑談をしていた双や敦己も次第に口数が少なくなり眠りに落ちていく。
慣れない布団や場所で眠るのに警戒心や緊張があると思われ時間がかかると思ったのに今は疲労困憊が強くランバも初めてあけぼのクラブに来た時のようにすぐに適応してしまった。
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何ヶ月もかけてようやくここまで来た。あと数週間、あと2日。…あと一日。
理論上可能なのではと思い立ち始めた実験。
機械なんてまるで理解できなかった。だが遺漏を手に入れた。あらゆる機械を理解できる、作ることもできる。それなら人造生命体を作り出せるのでは?と思い立ち始めた実験。バグみたいな遺漏の使い方。人造生命体。それも人間ではなくオミッション。人工的に人間を作ったり生物のDNAを改造したり…そんな話はよく聞く。なら現代科学と遺漏を組み合わせれば出来るはず。
ようやく此処まで来た。オミッションを作って0を1に前進させてやる。
前を留められた黒衣に触れて僅かに微笑む。人と話すのは久し振りだった。カクさんはずっと国々を行き来しているし陋能転国の人達とはあまり仲良くないし。
いやそれよりもだ。オミッションは遺漏と同じく集合的無意識から生まれる。神話、オカルト、社会通念が形を持ち模倣示生まれる。今回わえが作るオミッションは『可愛い』という概念を模倣して作り出す。きっとこれが世界の真実を明かす鍵になってくれると信じて。
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翌朝
朝ご飯にパンや甘い卵焼き、フルーツという健康的なメニューを花菜が冷蔵庫から許可をもらい見繕った食材で作り食べている。しかしアズメは食事もせず多分徹夜で機械を弄っていた。
「少しは休めよ。そんなんじゃ早死にするぞ?」
花菜が声をかけても返事はなかった。
「そんな生活サイクルでは脆弱になって身体が自壊しますよ?」
ランバが声を掛けても「んー」という間延びした返事しか無かった。
「駄目だねこりゃ」
双はもぐもぐとリンゴを丸かじりしながら肩をすくめた。一度決めたらほかの人の声に耳を貸さない。うちにもいる。石黒シズという堅物が。もう諦めることにした。
昼になり、一度カロリーバーと水を口にすると再び夜になるまで作業に没頭している。
「今夜風呂に入らなかったら無理矢理風呂にぶっこもうか」
風呂を勝手に掃除して勝手に沸かし勝手に入った花菜が髪の毛を拭きながら悪どく笑う。
「御手柔らかにしないと追い出されるかもよ」
ランバは配られた寝間着の裾を指で弄りながら軽口を叩く。ランバが冗談を言えるようになったのを双は内心嬉しそうに笑う。
「そろそろ夕餉の準備を…」
することもなく夕飯を作ろうとランバが立ち上がった瞬間
「よっしゃあああっ!わやの努力の結晶!!!」
と叫ぶアズメの声。
椅子から転げ落ちたのか重い音といくつかの器具が地面に転がる音が同時に響いた。
「何、完成?努力の結晶なら完成だよね??」
敦己はドタドタと足音を立てて部屋に入り込んだ。それに続きランバ達も部屋を覗き見てみる。
そこにはカラフルで色鮮やかな服装を身にまとう異形の頭をした女性らしきオミッションが佇んでいた。
下半身が無くロングスカートのみ。頭はリボンを着けたケーキの模様をした入れ物でハチミツが髪の毛のように垂れている。そして何より身長が大きい。2メートルはありそうだ。
「おわぁ、おわぁ…わやのやっていたことは無駄じゃないと証明された…!これはなんとも『可愛い』オミッション!名前はそうだなァ…0から1になるから『レヰチ』だ!」
オミッションの周りをぐるぐる回りながら観察していると気恥ずかしそうな仕草を見せる。
「あの、…わだし…」
オミッションは言葉を話し始める。
「わやはお前を作り出した星場アズメ!オミッションとかこの世界のこととか自分の事は話せるよね?ね!?」
と詰め寄る。しかし返答はそうはいかなかった。
「…すみません。わかりません。ただこの世界に生まれたなぁとしか感じなくて…」
「知れると思ったんだけれど…無理だったかぁ…」
「あの、ごめんなさい…」
長身を傾けて謝罪の意を示している。
「…………いやいや!別に良いんだよ〜!!」
アズメは3秒ほど溜めの後声を出した。
「今の間は何?」
花菜が首を傾げた。ずっと追い求めていた真実が既の所で手に入らず無理矢理納得したようなそんな不安定さが見える。
アズメはため息の後頷いた。
「約束通り修理はするから…」
「あ、それなら良かった」
ランバから記憶を甦らせる機械を受け取り観察した。
「あぁ、こんな感じね…ほうほう…」
遺漏の効果で機械に万能な彼は直ぐ様大量の道具を取り出し修理に取り掛かろうとする。
「時間はかかるけれど…5、…いや3日で終わらせるから!」
そう言い再び椅子に座ろうとした所を花菜が襟を引っ張る。
「風呂入れ」
花菜に引っ張られ無理矢理脱衣所に放り投げられてドアを閉められたアズメは観念したように「はぁい…」と扉越しに返事をした。
待つ時間が増えたことでしばらく泊まり込みになりそうだ。それならばとランバは色々話をしてみようと思った。自分が何者か分からない恐怖への共感。生まれたばかりで放り捨てられた彼女の孤独感。
(わだしは世界の真実を知るための道具として作られたの?)
「あの」
「え?」
ランバは生まれたばかりの彼女を見上げた。
「私も自分の事がわからないんですよ」
「一緒にお互いの事話しませんか?」




