11話【咲弥の遺漏】
卯木は慣れた動きでシズに箒を武器として振るう。シズはそれを手で裁き回し蹴りをする。しかしお互いの攻撃が当たらず拮抗状態が続く。
「おっっっま、マジで許さねぇ…っ」
灯月は恨めしげに卯木に触手を伸ばす。しかしその触手を渡りシズの攻撃を躱すために使った。
シズもその後を追う。
「のぼ、登ってくんな…!?」
「裏切り者!!アタシを騙したな!?」
「裏切ってねぇし!!」
「そうなのか!?」
「騙されるな!」
「あっ…」
ミノカワの遺漏を持つ夜吹沙知が羽から鉄の針を飛ばし再生した羽で切裂こうと飛び上がる。
沙知はすぐに他者を信じる。騙されやすいのも生きづらさの一つだった。
針とともに俊敏に動く沙知。対象は灯月ではなく千春だった。
それを熱したお化け提灯の舌で絡め取る。じわじわと熱くなるが沙知は鉄部分は感覚がなさそうで何も反応しない。
「埒あかねぇしクソだるいし疲れる…!」
千春はギチギチとお化け提灯の舌をノコギリのように切られていきだんだん追い込まれていく。
赤いドラゴンに金髪の姿の手島歩は大きな翼で空を飛び冷たい星を大量に吐き出した。
鈴彦はそれを圧縮し足場に替え後ろに回り込み首を両手足で絞め上げる。
「ギュッ、やめ、やめろ!」
「先に仕掛けたのは貴方達です」
苦しそうに星を吐き、それが地面や壁に刺さる。
千春のお化け提灯がそれにより消滅し千春は間一髪沙知から距離を置けた。
沙知が追いかけようとすると電車が突っ込んできた。
「あぶねっ」
沙知は飛び上がり躱す。電車はそのままどこにもぶつからず消えた。
「チッ……反応だけは過敏だな」
吐き捨てる一樹に鈴彦が「離れてください!!」と叫ぶ。
歩が息を切らし落下してきた。
「お怪我は?」
「なぁんも」
良かった…と安堵するが歩はまだ息がある。
「なにぶすくれてんだべか。わらわらおぎろってばさ」
ずっと端っこにいる結子に荒見が話しかけ続けている。
「結子!!もうこれ以上何をしても意味ない!!」
ランバは攻撃を避けながら蹲る結子に近づいた。
「ランバ、しずね」
手を掴んでも振り振り払われる。結子は腕を振り誰かを操った。
瞬間灯月が体を硬直させた。
「が、かぁ、…」
灯月は触手に貫かれ体内に海水を大量に注ぎ込まれ溺れて息ができなくなった。
そして間もなく大量に海水を吐いて息絶えた。
「…」
そこにいたのはあのエラーの、旬の兄の永海燈矢だった。
「誰だべ…」
「知らない…前来た時会わなかった」
結子はもう何も希望がないようにぐったりしている。代わりに別の人に戦わせているのだろう。
鈴彦がミノカワを一樹、千春と戦っている際卯木が荒見とランバに近づく。
「結子様に近づくなぁあ!!」
「っ…やめろ!!」
ランバは向けられた箒を手で受け止めへし折り折れ目を肩に突き刺す。
「……もう、動けないで、…っぐ」
卯木は痛みを無視して足で攻撃してくる。
「何だべ、このじょっこちゃん何がしたいんだべか」
荒見が足払いで卯木を転ばせた。
「っ!?この…」
卯木は二人に押さえつけられジタバタしている。
部屋に入らず隠れていた咲弥。知らない人に囲まれ戦いに連れてこられた。一樹には沢山謝られた。でも、今此処で遺漏を使わないと皆死ぬかもしれない状況。
ずっと様子を伺っていた。もし説得に失敗したら物理的に抑え込む役割を担っていた。
「……もういい?」
その声に返事は無かった。なら自分で判断するしかない。咲弥は一歩ずつゆっくり歩き出す。
神話とファンタジーへの対抗手段に選ばれたのは
無慈悲な現実である『第二次世界大戦』だった。
「みんな…離れて!!」
予め聞いていた合図に反応し一樹達は沙知や歩、卯木から離れる。
咲弥は両手を向けて対象を確認する。最低限すでに気絶している歩には羽根だけ、抵抗の無い結子は軽傷で済むように沙知と卯木、燈矢をメインにした。
第二次世界大戦への人間が抱く畏怖が遺漏として現れた。飢餓、差別、殺人、崩壊、核兵器…ありとあらゆる負の感情が力となり救いである宗教と人を楽しませるフィクション作品を蹂躙していく。
第二次世界大戦の遺漏の能力は『銃、飢餓、差別、核』
銃は基本的な攻撃、飢餓は相手を極度の飢餓状態にして体を動かしにくくする、差別は能力の一次的な封印…核は自身の命を代償に核兵器を顕現させる最悪の切り札。無論核を使うという選択肢などない。彼女が自身の遺漏を一番忌み嫌っていた要因である。
『飢餓』で動けなくした所を『差別』で能力を封じる。
そして銃撃が陋能転国を瓦解させていく。
四方八方に銃撃が繰り返され伏せているランバ達は飛び交う銃弾に恐れおののくしか無い。
しかし咲弥は遺漏で疲れ果てている。
「も…無理……もう良い…よね?」
へたり込んだ咲弥を一樹は抱きかかえた。
「よくやった。もう休め」
一樹は遺漏で咲弥をあけぼのクラブに送り届ける。消えていく電車を見届けて周りを見渡す。
沙知は死んでいた。燈矢は躱し損ねたのか両足が千切れている。しかし息はある。卯木は遺漏の影響ですぐに傷が再生していた。銃撃で吹き飛んだ結子は頭をぶつけて気絶している。
「ふ、うう…」
鈴彦は恐怖で息が荒い。
「……痛い」
歩は千切れた羽を見て痛みを訴えている。
「これだけやった…」「黙れ」
「え?」
一樹の言葉を遮る千春。「フラグ建てんな」と言ったが崩れた壁が耐久力を越し壊れる。
そこには待機していたかのように黄衣のエラーがいた。
それを見て燈矢が正気に戻る。
「あ、旬…」
それは暴風で壁を更に砕き無差別に人触手と風で人を攻撃し始めた。
「アレは何処に向かっているんだ…?」
ランバがそう言う。旬は攻撃はしたものの移動の中誰の元へと向かわない。たどり着いたのは一つの目立つ飾りだった。陋能転国の紋章だ。それを全力で破壊した。
物音を聞き気絶から回復した結子は旬が暴れ陋能転国の紋章を破壊した事に
「私が刺激したせいか…?」
と呟いた。
「私はいつも最善を尽くそうと…」
「結子…」
鈴彦は止血し介抱していた燈矢から結子に目を向ける。
「私、…こんなっ、だって何も違わないっ!あんたら全員おんなじでしょ!?」
「あんたらも自分達の為に私の仲間を…それに訳わかんない奴を引き連れて…!」
ランバというあの人…人間味を感じない。人間の試作品のように思えるくらいだ。…遺漏の気配が薄い。しかしオミッションやエラーでは無い。
ランバを不思議に思いながら考えを中断した。
同じ居場所作りなのになんでこんなに違うんだろう。
私は壊れてしまっていたのか…。




