31.三層世界
底へ。
底へ、底へ。
底へ、底へ、底へ。
底へ、底へ、底へ、底へ、底へ、底へ、底へ、底へ、底へ、底へ、底へ、底へ。
地面の隙間を通っても、空がある。ここは、『牧場』と呼ばれた『世界』。
目指すはもっと下。この世界の底にある異世界。
二度目の亀裂。
大地を切り裂いて尚、止まらず、二度目の大地を穿った斬撃に今更ながら恐怖を覚えた。
強化状態を解いた。
凄く熱い世界だった。
大丈夫と分かっていても。咄嗟に目を瞑ってしまった。
ぽよんっとスライムが跳ねる。
なんとか、衝撃は吸収出来たようだ。『神気』が『アース』の能力をあげる事実が確認出来た。
地の底。熱波に包まれた世界の名は『インフェルヌス』と教わった。『魂』の行き着く場所だそうだ。
『貴様ぁ、天人か?』
後ろを振り返った。そこには、
赤い肌の人間が立っていた。
「僕はマルス。鍛冶屋さんを探してここまで来ました!」
『鍛冶屋ってぇとガルデルだろうが、奴が天人の依頼を受けるとは思えんなぁ』
付いてこい。そう背中で語る男は歩き出し、慌てて追いかける。
炎の川を平気な顔をして渡る男に、急いで『強化状態』に移行して川を飛び越えた。
『ここだ。後は好きにやんなぁ』
『ありがとうございます!』
案内された先は洞穴。そこから炎の川より熱い、熱気が一定の感覚で溢れてくる。
何かを叩く音を頼りに『ガルデル』なる人物を探した。そして、音の招待に行き着いた。
『なぁに!? 今日はもう依頼は受けなぁい!』
「貴方がガルデルさんですか?」
『あぁあ、そうだ』
男は、自分の右腕を粉砕している最中だった。
『あの、武器の製作をお願いしたくて』
『帰んなぁ! 俺の腕は見てのとぉり。武器は愚か、石ころひとつ握れない有り様だぁ』
理解が出来た。これは『修行』。
ならば、効果的な魔法があると両腕を構えた。
『ヒール』
『ぐわわわわわわわわわわぁっ!?』
『話を、聞いて欲しいんだ』
『断ぁる』
『お願いヒール』
『あばばばばばばばばばばばぼぁ!?』
そしてついに、酩酊状態に陥った。
『なるほどぉ、『神気』を弾く石ねぇ。かしてみなさぁい』
ガルデルは受け取った石板に謎の物質をふりかける。
なんだか、見た覚えがある。
それは、光の玉。
でも、それよりは小さくて。
光も控えめだった。
「それは、いったい?」
『魂さぁ、供給されたものを、こうして作り直すのに使ってるぅ。主食にする奴もいるがぁ、俺は好かんねぇ』
左手が叩きつけた金槌が、音を立てず止まった。
『無理だぁ』
たった一度。
それだけで上がった白旗。
それだけ、加工は難しいという事実。
─でも、諦められない。
『なんとかなりませんかねぇ』
『やってみるかぁ?』
加工が不可能な石板。
それを、『闇』が包み込んだ。
『闇』は石板を包み、鋭利な剣へと姿を変える。
それは、一瞬。
ポンッと、吐き出されるように元に戻った。
『これを、僕が習得できますか?』
『習得ぅ? 出来るわけないだろぉ』
『ですよねぇ』
『あぁ、身体に直接刻み込めば誰でも使えるからなぁ。但しぃ、8割が耐えきれなぁい。覚悟しろぉ』
『え??????』
暗闇が、身体を侵食して、全ての感覚がシャットダウンする。
そして、闇に残ったのは『痛覚』だけ。
『ぐわあああああ──────・・─・─!?』
掘られている。
心の臓。
大事な場所。
体の中心から響くような痛みが駆け巡り、口から悲鳴が漏れては、すぐにかき消された。
無限に感じる時間が終わりを告げ、胸に刺青が入る。それは、銅貨を受け取ったときに少し見た、『スキル』完成形。
『使ってみなさぁい』
暗黒が、石板を包み込んで、剣の形を成した。
『出来た』
『さらばだぁ、名も知らぬ子供ぉ』
『僕の名前は─』
『興味なぁい。『神』に負けるなよ』
『え?』
そうして、再び座り込んで、左手を潰し始めた。話を続けるつもりはないようだ。
お礼を言って、元来た道を戻る。
そこには、始めと同じように、赤い肌の男がいた。
『まさかぁ、あいつが『スキル』を掘るなんてぇ、何年ぶりだぁ?』
『そんなに珍しいんですか?』
『ああぁ、掘った娘ぇが死んでいらぁい、聞いたことぉ、ねぇな』
『僕、この『刺青』を持った女性を知っているんです』
『なぁに?』
『けれど、体は僕と同じで、赤くはありませんでした』
『そらぁ、初耳だなぁ。俺の方でぇガルデェルに伝えとくわぁ』
赤い男は、手に持った灘をホルダーに戻すと、炎の海へ向かった。
『僕を、殺さないんですか?』
『報酬は貰ったぁ。帰るなりぃ何なりぃ好きにするといいぃ』
彼は、夜空さんと関わりがあったのか、聞く間もなく、存在を見失った。
気になるけれど、早くクラヴィスを助けることが優先。
そう決意して、手を天に伸ばした。
果てしなく遠い空。
そこに、舞い上がる土竜。
目指すは『浮島』。
最戦の時は近い。
Ж
「わざわざ死に戻ったのか、それとも─」
その騎士は待ち受けていた。
焦燥感が押さえきれない僕のことなど露知らず、余裕綽々な『白亜』の騎士。
『僕は死にません!!』
「ならば、示しなさい」
光速で迫る騎士の動きを今回は『アース』の補助によって察知出来る。攻撃は『石板剣』で弾く。
そして、初めて最強の騎士の顔が曇った。
「それはっ!?」
白と黒は相性が悪いのか、攻撃頻度が低下したことを肌で感じる。
加えて、今回は『アース』の補助がある。
前回のように、負けるわけはない!
今回は、簡単に勝たせてもらうぞっ!
そう思ってた時期が僕にもありました。
騎士は本気を出していなかった。
光に包まれた騎士はそのどれもが『必殺』の一撃で、耐えるのがやっとの状況。
土竜で目眩ましを試みて、『石板剣』を突き刺した。土竜は『色』を奪ったのに『石板剣』は明確な意志を持って『回避』を選択している。
それが、唯一の勝機。
出来得る限り大量の土竜を解き放つ。
物量で攻めるそれは、もはや土砂の波。
「失望だな。無意味だと気づけないのかい?」
本命は最後。
特大の土竜が、騎士に食らい付き、しかし色を失って、その中身を晒け出す。
「これは、みごと!!」
膨張した騎士は闇に包まれた『石板剣』の刃先を指で挟み、その技法を称賛した。
しかし『黒』を奪取した体が、倍に膨れ上がっている。
「それじゃあ、もとに戻して貰ってもかまわないよ」
『えっ?』
「ん?」
「マルス、きみはわたしの言葉のいみを理解したのではないのか?」
『意味?』
「召還されたわたしは、召還ぬしに逆うことができない。それに私よりつよいであろう神にかつには、わたしをこえるひつようがあった」
『はい─?』
「きみに足りなかったのは『攻撃力』。それを手にしたからこそ、帰ってきたのだと思っていたんだが─ちがったようだね」
『はい!』
玉座の間。そこに君臨する『神』は当然激おこぷんぷん丸である。
『貴様、私を裏切るとは何事か!!!!』
「きょうこうさまからお話はうかがっていました。わたしたちは追放されたいちぞくの末裔であると」
『それが、どうした!?』
「さいしょから、わたしに信仰はなかったと言うことです」
怒りが最高潮に達した神は、『白亜』のBIG騎士が纏う『白』を吸い込むように吸収する。
『はあっ!!!』
計算通り...!!!
漆黒の刃が神へと投げ付けられ───────────神は太った。
『ぬぅ、なんだこれは!?』
途中で『奪取』を止めたクロムとは異なり、10倍に膨れた神は、それでも光輝いていた。
「黒のとりすぎには注意したほうがよろしいですよ?」
『おそいわ、たわけめっ』
お膳立ては終わった。
石板に戻った『石板剣』を再び『剣』に変え、BIGな光の玉に向ける。
『た、たすけてぇ~』
─決着の時が来た。




