27.迫る! ダンジョン探索
「マルスが帰ってきた?」
航空機の申請書を確認しながら、ヴァルドールは帰還した少年の元へ向かった。
「怪我は無いのか?」
「ボロボロですが、命に別状は無いようです」
それでは、と引き返す伝令役に礼を言って、階段を駆け上がる。
『勇者村』の学長室。そこはもはや目を瞑っていてもたどり着ける場所になっていた。
「...マルス、無事か?」
「あっ、ヴァルドールさん...」
「俺の心配はしないのかよ!」
報告よりも軽傷そうな二人に、ヴァルドールは安堵する。実は、初回に名乗りでなかったことを後悔すらしていた。
「心配の必要はないだろう。と言いたい所だが、二人とも無事で良かった」
「それで、何があった?」
状況説明を促す学園長に一部始終を報告していく。『神獣』の戦闘は無視出来ない事柄のようで、二人の顔付きが変わる。
「本当に、『神獣』を倒したのか?」
「はい、でも殺してはいませんよ」
「それは朗報じゃ、『神獣』はこの世界で『神』の使いと敬われておる。その消滅が、必ずしも平和な解決にはならんじゃろうからな」
「神の使い、ですか?」
『神獣』なんてただの言葉遊びだと思っていたけど、違うようだ。
「ほれ、この世界の『王』の書庫にあった書類じゃ。『神獣』についても書かれておるよ」
「えっと『神獣は他のモンスターを寄せ付けない』、これ本当ですか?」
「『神』の獣と言われる由縁はそこじゃな。モンスターを恐れさせる存在。神と呼ぶのも分からんではない」
「でも、普通のモンスターですよ?」
『キュピ?』
「「!!」」
マルスが取り出した茶色の『スライム』に学園長達は驚愕の表情を浮かべ、ヴァルドールさんは臨戦態勢をとる。
「あ、安心してください! 襲ってくることはありませんから」
『キュイ!』
「それは、本当に『神獣』か? なんか、こう、神々しくはないな」
やはり、第一印象はただのスライム。とても『神』と言い難い、どちらかといえば真逆の存在。
だが、このモンスターの真骨頂は纏ったときに発揮する。『スライム』だからといって舐めてはいけない。
「なぁ、マルスは元々『テイマー』だったし、これだけ懐いてれば警戒する必要はないんじゃないか?」
預けた本人が、無責任な後押しをする。
「そういえば、そうじゃったな」
過去の実績もあり、『神獣』の処遇は一旦、僕に預けられることになった。
そうしてようやく、本題に移行する。
議題は当然『ピラミッドダンジョン』。計画の変更点についてである。
「『転移』は温存する。魔力の消耗が激しいようだし、何より今回は『移動手段』がある」
「移動手段?」
「お前達の救援用に航空機を手配した。当日キャンセルは全額負担。ならば、使用した方が得策だろう」
「空の旅ですか!?」
「そうだ。しかし、道中に飛行モンスター出現ポイントがある。討伐しなければ先に進むことが出来ない点に注意しなさい」
空の旅は、決して『安全』ではないようだ。
「目的のダンジョン攻略は『神獣』討伐した今、安易に感じる可能性が高い。かといって、気は抜かないようにな」
「「はい!」」
航空機は村の近くに停泊中。
船内で『ダンジョン捜索隊』メンバーとばったり鉢合わせする。
「お二人とも、無事で良かったです」
「心配かけてごめんね。クラヴィス」
「私は心配していなかった。だが、無事で安心したよ」
「トウカは素直じゃないな」
「...リク。お前は少し痛い目をみた方がよさそうだな?」
「あれ? 他のメンバーはまだ来てないの?」
「メンバーは私たちだけですよ?」
「「えっ?」」
「当然だろう。二人の救出を目的とした航空機だ。二人増えれば、二人減らさなければならない」
あのとき、ヴァルドールさんの言い方がなんか他人事っぽい気はしていた。そこで気付くべきだったのだ。
「帰りはどうする気だったんだろう?」
「この便は空輸便でね。行きはわざわざ荷物を減らしているんだ。帰りは二人の分の荷物を減らしたんだけど、無駄になっちゃったかな。あ、わたしはこの便の副機長の前田です。よろしくね」
僕の疑問に答えたのは、ひょろっとした男性。
ただの挨拶にしては計ったようなタイミング。
もしかすると、僕らのことを待っていたのかもしれない。
「なんか、すいません」
「いや。気にしなくて良いんだ。『神獣』を倒すほどの護衛なんて、そうそう雇えないだろうからね」
「知ってるんですか?」
「巷はその噂で持ちきりなんだ。おっと、そろそろ離陸するから準備しよう」
シートベルトを閉めて準備完了。
航空機が振動を始める。いよいよ、飛び立つ時が来た。
「すごい、飛んでる!」
鉄の鳥が人を乗せて大空を駆け抜ける。
凄いスピード。地上が見えないほどの高度。
そう思ったとき、高度が急激に下がった。
「皆さん、予定より早くワイバーンの群れに遭遇します。準備してください」
やはり、楽しい空の旅とは行かないようだ。
空を飛び回るワイバーンの大群。
接近戦を仕掛ける上で、空を飛ぶ敵は一番厄介と言える。理由は単純、攻撃が届きにくいのだ。
では何故魔法を仕掛けないのか?
そう聞くのは素人。遠く離れた敵を狙うことは魔法使いでも困難である。
魔法は本来切り札。命中しない魔法を無闇矢鱈に放つのは好ましくない。
では、魔法使いはどう戦うべきか?
答えはとっくに出ている。
射程を伸ばすか、近寄るかの二択。
僕は、後者を選択した。
「『アース』おいで」
『キュ!』
スライムに『アース』と名付けた。
協力する上で名前があった方が便利。
いや、正直前の相棒に名付けなかったことを後悔していたといった方が正しい心情。
ちょうど、契約に名前が必要だったということも決断を後押しさせた要因。
「アース・アーマーリンク」
どくん、と。
鼓動が重なった。
スライムが体を侵食する。
「マルスッ!」
『僕は、大丈夫』
褐色の膜が凹凸を作り、鎧となる。
その姿はまるで太古の『守護者』。
『神獣』の力を纏う強化形態。
その能力を試すときが来た。ワイバーンを見上げ、告げる。
『僕が様子見してくるね』
跳び上がり、驚愕する。桁違いの強化。
まるで、翼を授かったかのように軽く、宙を舞った。
風を切り裂き、接敵する。
問題は『射程距離』。どこまで行けるかが重要。
いくら近付いても届かなければ意味はない。
そう思って伸ばした手が、『竜が如く』伸びた。
『─!?』
ワイバーンの首もとに食らい付いた腕が、シュルシュル音を立て戻ってくる。
射程距離─問題ナシ!
その後は、一方的とも呼べる『狩り』が始まった。
『『グェエ!!』』
『ギャッ』
『『グワッ!』』
両腕が何度も伸縮を繰り返し、モンスターを捕らえる。ときに噛みつき、叩き、引き千切る。
逃げることさえ許されず、ワイバーンの群れは次々と地面に沈んでいった。
『終わっちゃいました』
積み重なった亡骸の上で、変身を解く。
「では、先を急ぎましょうか?」
「...は、はひ」
見届け役の副機長は何故か、震えていた。
垣間見えるのは恐怖に近い感情。
仲間達の反応は正反対。
僕の強化を見て喜び、迎えてくれた。
「凄な。今度手合わせしようぜ」
「火力はいまいちだが、機動力が素晴らしいな」
「変身、羨ましいです...」
若干名。変な感想があった気がするが、きっと気のせいだろう。
航空機は快適な旅を提供した。
急な方向転換、ブレーキのない素晴らしい操作。
そして、空からでも分かる異変に目を細めた。
そして、はっきりとそれを見た。
大小問わず。
蠢く異形。
逃げ出す人々はなく。
荒れ果てた街は廃墟へと成り果てる。
それは、ひとりの心を動かした。
望郷の思いを打ち震わせた。
「悪い、ちょっと行ってくる」
リクが飛び降りた。




