25.目指せ! 異世界ダンジョン
あの日、情報を貰った。
僕はレグリア集落の牢獄で、女性の拘束を外した。それは、裏切りと勘違いされる背信行為。
(これって、犯罪じゃあ...)
そうわかっているのに、体が動いてしまう。
僕が脱獄を手伝ったのは、神託の影響だった。
過去の経験と、モンスターが押し寄せる状況を鑑みて、交渉することを選んだ。敵だったあの人が、協力してくれるとは思っていなかった。
そう、まさか協力してくれるとは思っていなかったのだ。
結果的に、僕は立派な裏切り者。
お礼として、王様の情報まで貰っちゃった。
やばい、やばい!!
と鼓動が高鳴る僕とは裏腹に、冷静な女性は、一瞬で姿を消した。
(バレたら、捕まっちゃう!?)
そんな思いとは裏腹に、女性は皆を救った。
あの真っ黒な『暗闇』が逆らう全てを飲み込んだのだ。
─僕は裏切り者の烙印を押されることから逃れることが出来た。
口には出せないけれど、ホッとした自分がいる。
それが、ついこの間のこと。
そうしていま、情報をつたえる時がきた。
可憐な少女が、不思議そうに首を傾げ僕に問いかける。
「どうかしましたか?」
「うん、実は君のお父さん。国王様の情報をどう伝えれば良いか、悩んでいて」
「えっ?」
「確証がないんだ。勘違いさせてもいけないし、でも、早く伝えた方がいいなと思っていて」
「...私は貴方を信じています。ありのままを教えてください」
「じゃあ、聞いたままを話すね。国王様は生きている。けど、この世界にはいないらしいんだ」
「...お父様は、生きている」
クラヴィスの頬を、一筋の涙が伝った。
僕は慌てて謝ると、クラヴィスは涙を拭い、笑顔へと変わる。
「ごめんなさい。私、嬉しくて」
泣かせてしまったと思ったけど違うようだ。
「無事で良かったね。早く再会出来るように、サクッとダンジョン攻略して、元の世界に帰ろう!」
「はいっ!」
僕の手をそっと握って喜ぶ少女に、笑いかけた。
家族を心配するのは、当然のことだ。
「......ありがとう。──」
囁くような呟きは、バスのブレーキ音で聞こえなかった。
徐々に速度を緩めるバスが、目的地到着を知らせている。
最初の目的地は、オグリの家だ。
Ж
「やぁ、パートナー。今日の要件はなんだい?」
「パートナーマルス、契約に従い参上した。これを見て欲しい」
キリッとした表情で魔法のステッキを差し出し、オグリが手を伸ばしたところで、杖を引っ込めた。
これは、学園長の指示である。
「危ないので、触れないでください」
「まさか、まだ約束を守ってくれていたのかい?」
「約束は、約束ですからね。それに、僕も思うとこがあるので、やり遂げたいんです」
「なら、私も約束を守らないといけないな。約束は帰還の手掛かりだったね。なら『ピラミッド』を調べるべきだ。あそこは、『召還』の魔方陣が出土されている。『生贄』の方は古墳、王墓から得た情報だけど、正直、役に立ちそうではないかな」
「ピラミッドって、ダンジョンですか?」
「君は、ダンジョンを知っているのかい?」
「はい、今ダンジョンを探してるんです」
「それはちょうど良かった。君の言う通りダンジョンだよ。正確にはモンスターが住み着いて、そう呼ばれだしたんだけどね」
「そうなんですか。でもそんな情報、簡単に教えて貰っちゃって良いんですか?」
「そうだね...思いのほか『勇者達』が頑張ってくれているんだ。いま、この世界の脅威は順調に取り除かれている。だから、契約はほぼ完了しているんだよ」
恥ずかしそうに笑うオグリから地図を受け取った僕らは、そのままの足で『コスプレショップモモ』に向かった。
「はぁ!? わざわざ完璧な杖に、制限を付けろっていうの!!」
「モモちゃん、落ち着いて...」
「これが、落ち着いてなんて!」
「ちょっとだけ待って欲しいんだ。この武器には『呪文』が無いんだよ。...『プリマ・トリプルスクリュー』!!」
特大の砲撃が壁を貫いた。
...またやってしまった。噴煙舞うなか、二人から驚愕の声があがる。
「「なっ...!?」」
「...あぁ、私としたことが、何てことを!?」
膝を付くモモを支えるクラヴィス。
「モモちゃん、これは『正規品』ではありません。大丈夫、まだ間に合いますっ!!」
「ラヴィッ!!」
抱き合う二人。
「あの、ごめんなさい」
自責の念に耐えられなくなった僕は、謝罪を口にしていた。
「ふふっ、謝ることはありませんよ?」
「え、壁を壊したのに?」
「実はモモちゃん、防犯の都合上で勇者村にお引っ越しすることになったのです!」
嬉しそうな声音に、僕はほっとした。この件で怒られることは無さそうだった。
その後は、荷物を纏めて、勇者村行きのトラックに積み込み開始。
作業を終えた時には、辺りはすっかり暗くなっていた。
月夜が綺麗に見える部屋で『魔法武器』の構想について、三人で話し合い、一晩を過ごした。
そうして、僕らは都市を出発する。
二人は、新しい新居の話で、盛り上がっていた。
Ж
「『ピラミッド』、遠いな」
地図に記された場所は二つ。
近場と、遠方の二ヶ所だった。
しかし、問題があった。近場の方でさえ800kmもの距離が離れている。
つまり、決して近くはないのだ。
地図を見下ろしていた僕は、異変に気付く。
神託の石板が、淡い光を放っていた。
石板に記されたのは『転移』の魔法。
あの日以来、使うことが出来なかった魔法だ。
「あの、転移の魔法が使えるかもしれません」
「それは本当か!?」
勇者村の一室、そこで行われている会議。
議題は『ダンジョンに向かう移動手段』。
遠すぎる陸路は、燃料の問題を含めて、悩みの種だった。
そこに、ぽっと出た僕の提案はまさに渡りに船。
最善の方法かに思えた。
しかし、転移魔法はリスクがある。
大勢を転移させ失敗しようものなら大惨事。
取り返しはつかないのだ。
そこで、班を分けて移動することになった。
一班、リク。
二班、トウカ。フタバ。
三班、クラヴィス。ヴァルドール。
最初は僕を入れて二人一組で移動することになる。徐々に数を増やして行くのだ。
因みにリクは、一番危険な初手を立候補してくれた。意外と優しい一面がある。
異論はない。後は、ダンジョンに到着してから、臨機応変に対応していく。
「まずは一班、行ってみようか」
「頼むぜ、マルス」
僕を信頼してくれる友達に、答えるように頷いた。
「では行きます! 空間干渉、位相修正。『テレポテーション』」
目を開けると、山があった。不気味な山。
四角錐を模した山は頂点が尖っていて、周辺が砂漠化している。
そこには、『鯨』が泳いでいた。
茶色く、巨大な鯨が、『砂』を吹き、大量の砂が舞った。
「っ......!?」
「リク?」
「マルス、出来れば一刻も早く二班を連れてきてくれないか?」
普段リクが口にするとは思えない言葉に戸惑いつつ、その『呪文』を口にする。
「空間干渉、位相修正。【テレポテーション】......あれ?」
「...」
「テレポテーション!」
「まじか...」
「ごめんなさい!!」
テレポテーションが、使えない。
失望の声を覚悟する。帰ることさえ、出来ないのだ。
「...いや、これはお前のせいじゃないかもしれない」
「え?」
「スノーノイズ。砂嵐は電波障害を引き起こすんだ。この砂が転移を阻害している可能性が高い」
「ずいぶん詳しいね?」
「当然だ、あれは『土鯨』。俺が、生贄に捧げられた『神獣』と呼ばれるモンスターなんだから」
『ウゥーーー…ォォォォオオオオオオオオン!!』
驚いている僕の前で、咆哮をあげる土鯨。
それは、まるでリクの言葉に答えているようだった。
舞い落ちる砂ぼこりが視界を悪化させる。
─状況は、すこぶる悪い。
準備は十全でないにせよ、敵は待ってくれない。
砂嵐の向こうで、真紅の双眸がこちらに向いた。
戦闘が、始まる。




