24.完成!? 魔法武器
それは『血液』に似ていた。
それは『呪い』の性質を持っていた。
まるで『夜空』のような漆黒の液体は、人体を蝕む『毒』であった。
「─呪いが、解けたのか?」
腹部から流れ出す『黒色』が地面を濡らし、増量の呪いを解き放つ。
呆然と立ち尽くす男の前で、ナナドは勢いよく吐き捨てた。
『良くやった、さぁこちらに来い!』
致命傷を負ったと勘違い、いや、女性が味方だと勘違いしたナナドは勝ち誇った顔をした。
呪いを解いた理由はひとつ。
─奴を倒せと言うことだ。
利害の一致、争うのをやめ手を組むために、ここまでやって来たのだ。
ならば、ここで本気を出さねば男が廃る。
「あれは、黒を隠し持っているかな?」
「無いわね。見た目通り生粋の赤よ」
「そうか、なら安心だ」
一瞬だった。理不尽じみた速度。
咄嗟に振り返ったナナドの頭を鷲掴みにして、それを告げた。
「【色彩奪取】」
『................なに、をッ..............!!』
「答える必要はあるかな。もう終わったというのに」
そう告げて、踵を返した。
『────────!』
言葉を失ったナナドは気付いた。自身の足が、つま先からうっすらと消えかけていることを。
力の入らぬ手が、色を失い、消えた。
「どうかな...処刑された気分は?」
その言葉は、既に届いていなかった。
「あなた、手加減していたわね?」
「そんなことはない。君はとても強かったよ」
「貴方が言うと嫌みに聞こえてしまうわ」
「それは失礼。だが、今は無駄話をする余裕はなさそうだ」
「いえ、あれは問題ないわ。もう手は打ってあるもの」
終焉のように暗く、終わりの見えない闇が遠く、街まで広がっていた。
それは流れ落ちた『スキル』。
何処までも続く闇の大海原が、モンスターを引きずり込み、水面に波紋を立てた。
それで終わり。
防衛に徹していた騎士も、上空を攻撃していた兵士も、今まさに襲われそうだった少年さえも戦う相手を失った。
「...彼は、まさか」
神託の少年。
暗闇のスキル。
─とんだ詐欺師だった。
不思議と笑みが零れる。まんまと騙された。暗闇に救われたのが自分ではなく、少年だったことに気が付いた。
ある意味神託通り。
彼はあの時、自身を守る『神託』を伝えていたのだ。
「銅貨の払い損ね、これは」
「銅貨? 食事なら私が奢ろう」
「あら、痩せてすぐに食べるとリバウンドするわよ?」
「今度は摂取するものを考えないといけないな。太ると、その、動き難いんだ。...それで、今度こそ君の名前を教えてくれないか?」
「名乗る名はないわ。...と言うと貴女は『なわな』とでも呼ぶのでしょうね」
「もちろんさ!」
「...。私のことは、夜空と読んで頂戴」
「そうか、よろしく夜空。俺はクロム・アイゼンロード。クロムと読んでくれ」
そうして、興奮した騎士団に迎えられながら。
『英雄』と『宿敵』が同時に帰還したのだった。
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「ほほっ、何でまた、気が変わったんだい?」
宿屋の一室。教皇の問いに、夜空の返答は簡潔だった。
「私は処分対象になった。理由なんてそれで充分でしょう?」
「奴は確かに夜空を狙っていた。それは私が保証しよう」
「まぁ、クロムちゃんの呪いを解いたと言うことは、敵意はないんだろうね。けど、どうしても疑っちゃうよ」
「私は信用が欲しい訳じゃないわ。知っていることを、話すだけよ」
「ひとまずは信用しようじゃないですか。責任は私が取ります」
「クロムちゃんがそこまで言うなら...この世界のダンジョンを捜索するとしようかね」
前もって夜空が提案したのはダンジョン探索。
ダンジョンは単なる塔ではない。
そう断言した夜空はダンジョンの元管理人。その役割を人々は『魔王』と呼び、恐れていた。
ダンジョンには種類があるようだった。
必要なのは転移のダンジョン。しかし、元管理人といえど、管轄外のダンジョンについては関与出来ない。そう宣言した。
つまり、場所は自分達で探せということだ。
「ヴァルドールちゃんなら、そこら辺詳しいんじゃないのかな?」
「私の専門はモンスターと構造学についてです。立地条件等は学園長の方が詳しいかと」
「なら、来てすぐのとこ申し訳ないけど、セラフィナちゃんに聞いてみて貰えるかな?」
「承知しました」
「了解ですっ!」
「気を付けてくださいね。マルス」
心配そうなシスターマリーにマルスは笑顔を返し、外に飛び出した。
そして、秒でその笑顔は凍り付いたのだった。
「早く乗りたまえ」
ブゥオン! ブゥオン! パァアアアアアン!
僕の脳内を支配するのは......二輪車に対する、恐怖心。
だが、冷静に思い返した。
今回は帰り道。ならば、帰路効果の出番である。
それに全信頼を寄せて、僕は二輪車に股がった。
「うわああああああおおおおおおおおおえっ!!」
─確定。
帰路効果は、必ずしも全ての状況や個人に現れるとは限らない。知覚の歪みは、発生しなかった。
それを実感したときには体の血流が逆転しそうな感覚に、意識が飛びそうになっていた。
...。
「大丈夫か?」
「はひ、らいじょうぶれす」
到着後、容態を聞かれて───僕はパタリッと倒れ伏した。
そして、目が覚めたとき、目の前にはいたのは天使─。
「わわっ!?」
「大丈夫ですか?」
「クラヴィス! どうしてここにいるの!?」
「ふふっそれはですね──」
慌てふためく僕を、冷静にさせるほどの吉報。
クラヴィスは、それを伝えに来たのだ。
「─魔法武器が、完成したんです!」
彼女の手元に目を向けると、魔法のステッキが
、確かにそこにあった。
「凄いね! 見ても良い!?」
「よいですけど、学園長が待っています。歩きながらで良いですか?」
そう言って、杖を受けとる。
そっと、軽く振って見ると、杖が光を放ち、壁が粉々に砕け散った。
「えっ?」
「まぁ!?」
やってしまった。嫌な予感が胸をよぎる。
─それは、すぐにやって来た。
「謀反か!? 逃げるな少年、逮捕する!!」
「違うんですぅううううう! ごめんなさぁあああああああいっ!!」
速攻で捕まった。連行されたのは、学園長室。
「やってくれたのぅ、だが、魔法武器の有用性は理解出来た。それと、安全装置の必要性もな?」
「すみません。まさか、こんなことになるなんて...」
「それについてはもう良い。して、ダンジョンについて、か。基本は『龍穴』、エネルギーの多い場所に建てるのじゃ」
「攻略前にダンジョンの機能を見分けることは出来ないでしょうか?」
「難しいじゃろな。そもそも、ダンジョンは全て同じだと思われておった。違うのは構造、モンスター、アーティファクトくらいって...んっ、待てよ?」
「何か分かったんですか?」
「アーティファクトじゃ。その性質で、判別出来るやも知れぬ。」
やはり、ダンジョンは攻略しないといけない。それが、確定した。
「『龍穴』ってどこにあるんでしょうか?」
「探せるが、時間が掛かるな。早々に知りたいなら、やはり地元の住民に聞くのが一番じゃろう」
「地元って、オグリですか?」
「その通り。ついでに試作品を見てもらうと良い。決して、渡さないようにな」
「分かりました! 行こう、クラヴィス!」
好戦的な勇者によって、都市周辺のモンスターは狩り尽くされていた。
そのお陰で、開通した都市間バス。
戦闘機を利用するより『勇者』をスカウトした方が効率が良く、安全だと噂話が広がり、今では一日一本、運航便が出ていると聞いた。
少し強引な噂は、きっとオグリが約束を守るため、頑張っているに違いない。
二輪車より快適なバスに揺られながら、都市に向かっていた。
窓際で景色を眺めるクラヴィス。
彼女に、話さなくてはいけないことがある。
彼女は、どう伝えれば、喜んでくれるだろうか?
─僕は悩んだ。




