21.過ちの責任
「ごめんなさぁあああああああああいっ!」
僕は、ジャパニーズ土下座をした。
そうして、『ネームドモンスター』討伐隊に加わる。
反応は二極化した。
裏切り者だと、警戒する人。
僕の協力があれば事態は終息すると、安堵する人。
討伐隊の殆どが後者。
壊滅した部隊に死亡者が出なかったことで、何とか首の皮ひとつ、信頼を損なわずに済んだ。
とはいえ、危険な『ネームドモンスター』を放置する訳にはいかない。
討伐隊は迅速に、かつ強力なメンバーが収集された。流石に全戦力とはいかなかった。
五人。少数精鋭。
しかし、必ず勝てると見込まれた人選。
それから僕らは街を出て、川沿いを進み、山岳を目指した。
「この戦い、俺に任せちゃくれないか?」
急な提案に、リーダーとして任命されたトウカが渋い顔をする。
「─10分、それ以上は加勢させて貰う。これが妥協案だな」
「サンキュー。意外と話が分かるな青髪」
「トウカだ。隊長の名くらい覚えなさい、リク」
「分かったよ、青髪」
「まったく。結果で示してくれると助かる。結果に期待しているよ」
彼女は少し笑みを浮かべながら夜営の準備を始めた。明日は、早い。
日の出と同時刻。足早に山頂を目指す。
道中モンスターの咆哮が、木々を揺らした。
─近い。
咆哮の主は、直ぐ側にいる。
意を決して坂を駆け上がり、一行は震え上がった。
「まったく、暫く見ないうちに成長したんじゃないか?」
「いや、あれが本来の姿だよ」
「まぁ、俺も成長したからな。これくらいの方が、手応えありそうだ」
山頂を支配する巨体。王者の鳴き声。
総身は黒く、良く見ると幾つもの文字が重なっていることが分かる。
頭部から放たれる赤く、鋭い眼光。それは、明確な敵意が籠っていた。
「ドラゴンさん...」
相棒の状態は、まさに野生のそれ。
久しぶりに再会した相棒の姿は、凶悪な『モンスター』だった。
もはや、言葉も届かない。
『吼吼吼吼吼吼吼吼吼吼吼吼!!』
「リク、十分だ! それ以上は待たない!」
「それで充分。見よ! 俺の最強のスキル【絶対地圏】」
周辺を真っ赤に照らし出す炎玉。
以前と比較にならないほど大きい炎球が土盾の表面を滑り、地を燃やした。
「ほぅ、芸が細かくなったな」
「強くなりましたね!」
必殺のブレスは、真正面から受ければひとたまりも無いほどの威力。
それを、角度を付けた盾で受け流し続けている。逸れた炎は岩を溶解させ、延焼した。
「小細工さえなければ、あの時、俺が勝っていた。行けっ! 【攻撃】」
主を守っていた盾が攻撃指示を受け、旋回しながらドラゴンを切り裂いた。
巨大なドラゴンは格好の的。
弾いても纏わりつく攻撃を受けることしか出来ないドラゴンは、苛立ちを隠さず巨大なブレスを解き放つ。
「【防御】。どんなに強力だろうと、馬鹿のひとつ覚えでは俺に届くことはないと思えっ!」
戦況は、好調な筈だった。
─ドドドドドドドドドドドドドッ
空を滞空する鉄の鳥。
それは、無防備に戦場を明るく照らした。
「ヘリコプターだと!? 何考えてんだよ!」
手信号で盾をヘリコプター周辺に飛ばし、ブレスの衝撃から機体を守る。流石に危機感を感じたのか、機体は距離を取り始めた。
「時間切れだ、リク」
「おい!?」
仲間に向けて渾身の飛び蹴りを放ったトウカは、土盾に弾かれ、神速になった。
「シッ─!」
一閃。
龍の全身が真っ二つに割れた瞬間、その隙を狙ってマルスが飛び込んだ。
「『核』を発見。お願いっプリティー仮面!」
「─【御供来臨】。ちなみに私は、プリンセス仮面ですっ! 間違えちゃ駄目ですからね!」
撮影の可能性を考え、クラヴィスはプリンセス仮面に変装していた。
そんな彼女が召還したのは、粉砕鬼の棍棒。
「─攻撃、開始」
とどめを差す。それが僕の役割。
掴み取った棍棒。それは、攻撃直前で、止まった。
『啾?』
「────、っ!」
声が、聞こえた。敵意の無い瞳が、僕を見詰めている。今の僕は、どう見えているだろうか?
─とどめを、差さなくては
「マルス! 再生するぞ!」
命の文字が、浮かび上がる。『核』だ。
それに、棍棒を、振り下ろした。
「──、────」
思い出があった。いつも側で、助けてくれた。
でも、『討伐』すると仲間に『約束』した。
討伐隊に加わっておいて、対象を逃がす。
─そんなこと、絶対に許されない。
僕は、選んだのだ。
相棒がこれ以上過ちを犯さないよう、責任を取ることを。
「───ありがとう。ドラゴンさん、何度も助けてくれて」
─ごめんなさい。
謝罪は心の内に秘め、感謝で終わらせると決めた。
頬を伝う一筋の涙。
文字龍の核は砕け散り、光へ変わる。
「...ドラゴンさん」
「マルス。あれを見ろ」
それは、素材。
用途不明の黒い球体。それを、大切そうに受け取った。
「あのドラゴンは様子がおかしかった。それを持っていれば、何かがわかるかもしれない」
戦闘後の余韻が、疲れた体を辛うじて動かしていた。
そんな僕たちに近付く二人の記者。
彼等から助けた恩を返したいと申し出を受け、勇者村まで送って貰うことになった。
快適な空の旅。
帰り道は、あっという間に到着する。
距離感の認知を歪ます現象の名は帰路効果。
初めてより、経験したことの方が心理的負荷が減る。その結果、短縮される体感時間。
モンスターとの戦闘も二度目の方が早く勝てるのだろうか?
到着早々、ヘリコプターを飛び降りた。
疲れた体でも、ゴブリン程度なら問題ないだろうと、交戦を開始する。
低級モンスターは魔力を纏ったパンチ一発でひしゃげ、沈んでしまうほど弱い。
流石に、強いモンスターに挑む体力は残っていない。大の字で、天を仰ぐように寝転がった。
「駄目だ、参考にならないや」
「何をしているんですか?」
僕の顔を覗き込む少女が、ニコリと笑う。
「この世界の人達は、魔力がないらしいよ」
「そうみたいですね」
「そんな人達がモンスターに対抗するために、魔力の必要ない魔法武器を作りたいと思ってるんだ」
「今でも、充分に対処していると思いますよ?」
「そうだね。『科学』も凄いし『勇者』も戦線復帰しそう、だけど」
「けど?」
「魔法の武器って格好いい、そう思ったんだ」
「...ッ」
「...?」
「分かりますっ! 魔法戦士に必要なのは、『魔法武器』ですよね!」
「う、うん、そうだね?」
「じゃあ、明日。一緒に都市に行きましょう。私に、心当たりがあります」
興奮冷めやらぬ様子のクラヴィスと交わした約束。ただ遊びに行くだけのような些細な約束が、何故だか妙に嬉しかった。
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「は? 帰んな。ここはお前のような男の来る場所じゃあないよ」
「え?」
「そこを何とかなりませんか? モモちゃん」
「ラヴィぢゃん! 元気してた?」
黒い三つ網の少女が、嬉しそうに厚底眼鏡を外した。それだけで印象がガラッと変わる。
それは、美人さんの顔立ち。
「う~ん。確かにウチも魔法武器は欲しいよ? けど、そんな素材希少すぎて仕入れられないかなぁ」
「モモちゃんは、魔法武器の素材になりそうな物を、知ってるんですか?」
「知ってるよ。でも、回収は無理」
モモの表情に影が落ちる。
聞きづらい、そんな空気。でも、クラヴィスは言い切った。
「映像さえあれば回収して見せます。何か、ありませんか?」
「写真はある。けど、きっと、見たら後悔するよ?」
「是非、見せて欲しいんです!」
室内に飾られた沢山の服飾。
なかには甲冑や、武器の類いもある。
「ここは、どんなお店何ですか?」
この世界で、甲冑を纏った戦士を見たことが無かった故の、純粋な疑問。
「この店? ここはね『コスプレショップ』だよ。しかも本格派のお店さ!」
クラヴィスのお面、その出所が分かった。




