19.勇者村
通称、『勇者村』を目指して、出発する。
予定どおり二人と合流して、僕は都市を出た。
都市から目的地は以外にも近く、日帰りが可能な距離。ピクニック気分で道路上を歩く。
自動車を使わなかったのは、免許、保険、燃料。何れもが高額で、都市外の使用条件が厳しかったためだ。
もちろん、運転手は募集した。
しかし、その悉くが目的地を聞くなり即答したのだった。
回答は拒否。
モンスターが徘徊する土地を突き抜け、友好的な関係ではない『勇者』に会いに行く行為は、自殺と同じだと断言された。
僕は、今でも『勇者』が人類と敵対している事実を、信じられなかった。
情報収集の際、怯えた様子の人達を見て、真実を知りたいといても立ってもいられなくなった。
「レグナリアより、モンスターの動きが活発的ですね」
仮面を外して王女に戻った少女。
「だが、下級モンスターなど、数のうちには入らんだろう」
「そんなこと言えるのは、貴方だけだと思いますよ、ヴァルドール」
本日の天気は快晴。
徘徊するモンスターが次々と頭を地面に擦り付けジャパニーズ土下座をする。
それは、謝罪の強要。
抗うことの出来ない、威圧感が作り出した奥義。
道中は静かだった。モンスターが頭を垂れているせいか、奇襲はなく、近寄ろうとせずに逃げ去っていく。
勇者村に向かう道中、人っ子ひとり、すれ違うことはなかった。ここは本当に、聞いていた華々しい『勇者』の故郷なのか。
「地図によると、後少しで到着するようです」
頑丈そうな扉と、岩を積み重ねて出来た壁を視界の隅に認め、近寄って扉を叩いた。
「セラフィナ・アルヴェール学園に招かれて来ました。開けてくださぁい!」
そうして扉が開かれ、村中へと招かれる。
村内の活気は失われていて...死んだ目をした『勇者』達が所々に座っていた。
「何か、あったようだな?」
「いつも自信に満ち溢れていた『勇者』とは思えないですね」
「しかし、『恩恵』の刻印が刻まれている以上、私達の知る『勇者』で間違いないのでしょうね」
「まずは、我々を呼んだ主催者に会って見ぬことには、何もわからんな」
「そうですね...」
一際立派な建物に入ると、会いたかった人物に遭遇する。
「リク!」
「マルス...無事だったのか」
やはり、生気は失われていたが、記憶を失った訳では無いようで、一安心した。
「リク。何があったのか説明出来るか?」
「ヴァルドール、さん。それは学園長が答えてくれるんじゃないか?」
一応、合流したリクと一緒に学園長に会いに向かった。書斎には、約束通りの人物が待ち構えていた。
「来たか、ヴァルドール。この状況を見たお前の感想を聞かせておくれ」
開口一番。質問に即答するヴァルドール。
「元の世界に帰りたがっていた勇者はバーンアウト状態。いえ、無気力症候群の方が近いかもしれません。此処が彼らの求めた世界じゃなかったか、或いは帰れない何かしらの理由がある。と言ったところでしょうか?」
「ここは『勇者』の故郷で間違いないぞ、どちらかと言うと後者じゃな。それについて説明出来るかな? 勇者リク君」
「...俺達は、『記憶』を、取戻したんだ」
「よかったね!」
「ッ良くなんかねぇ! いっそのこと、忘れたままの方が、幸せだったんだ...」
「リク。もう少し詳しく、聞かせては貰えないかな?」
「俺達『勇者』は、この世界で生け贄に捧げられたんだ。この世界にとって、いらない存在だったんだよ」
「─ッ!」
「だが、それでも家族に会いに行った。この世界に戻ることが、家族の元へ帰ることが、皆の夢だったから。...けど、俺達は帰るべきじゃ無かった」
「...何か、あったの?」
「仲間が殺されたのさ、『生贄』としての義務を全うしなかった者として、地獄から舞い戻り復讐に来た亡霊として、家族にな」
「...」
言葉を失った。目標が叶うことが必ずしも幸せに繋がる訳では無いのだと、現実を叩き付けられた。
仲間を殺したのは仲間の家族。
復讐すら、選択肢に入れることが出来なかったのだろう。
「だから、俺達は集落を作った。仲間が逃げ込める、安全な居場所を確保するために」
「では、仲間を救いに向かった人もいるのですか?」
「そうだ、だがそれだけじゃない。動ける者は、自身が生贄に捧げられた理由『ネームド』モンスターを討伐しようと、情報収集に励んでいるよ」
「...なるほど、生贄で鎮めていたモンスターを討伐してみせることで、生贄などという馬鹿げたことを止めさせるつもりか」
「そんな崇高な話じゃないさ。ただ単に、ムカついたものをボコす、それだけだよ」
「いや、怒りの矛先が人類に向かわなかったこと自体、私は誇るべきだと思うがね」
「僕たちも、何か協力出来ないでしょうか?」
「...さて、協力の前に話さないと行けないことがある。ワシは罪を犯した」
そう言って、学園長は話を切った。
真剣な表情で、クラヴィスを見つめ返す。
「ワシの罪は二つ、レグナリアでクラヴィス王女の誘拐を手助けしたこと、この世界で生贄システムを考えた糞共を断罪していることじゃ。
君たちに判断して貰いたいのは、それでもこちら側に協力するか、否かじゃよ」
「あの、何故私を誘拐したのでしょうか?」
控えめに手を上げたクラヴィスが確認する、当然の疑問。
「レグナリア王の意志。は他責じゃな。実はレグナリア王が目指したのはこの異世界ではない。もっと別の、崇高な世界だと聞いている」
「それと誘拐と、どんな関係が...」
「これはワシの推測じゃが、クラヴィス王女の『スキル』が何かしらの鍵になっている。真相は、レグナリア王に聞かないと分からんが...」
「父はいま、どこに居るんですか!?」
「ここにはいない。だが、ワシも情報を集めておる。遠方に、レグナリア人が集結しているとの噂も聞く。そこなら、あるいは...」
「場所は、場所はどこなんです!?」
「まだ分かっとらんよ。噂が事実であれば公表しよう」
「...分かりました。ありがとうございます」
「他に質問はないかの?」
「はい! 何で僕を襲ったんですか?」
「残念ながら減点じゃ、マルス。生贄発案者を襲うと説明したじゃろう。あ奴がその、生贄発案者のひとりじゃ」
「オグリは殺さなくてはいけないのですか?」
「場合によってはそうなるやもしれん」
「『ネームド』モンスターに無理矢理やらされていた可能性もあると思うんです。モンスターに話は聞けないんでしょうか?」
「ふふっ、相変わらず面白いことを言うなお主は。ワシらがモンスターの言葉を理解出来るはず無かろう」
「僕なら『翻訳』出来るかもしれません」
「そうか、『スキル』...試して見る価値は、あるのか?」
「まぁ、モンスターに話を聞いても無駄だとは思いますが、新しい試みではあります」
「うむ、では此処より北に『粉砕の祠』がある。そこで、一度対話を試みてみようかの?」
「了解です!」
重苦しい空気の中、言葉数少なく一夜を過ごした。そうして明朝、足早に「勇者村」を出立し、たどり着いた『粉砕の祠』。
『うふふふふふふふふふっ』
「あはははははははははっ」
「これは、一体?」
鬼と少女が、笑ながら得物を交差し合う。
衝撃で発する轟音は、鐘を叩いたかのような爆音。
「待って。トウカはいま、過去の因縁に決着を付けようとしています。少しだけ、待って貰えませんか?」
決闘を見守っていたのはフタバ。
彼女は、横槍が入ることを嫌がった。
『もっと、もっとだ!
血の滾るままに剥き出せ、本能を!
狂喜の先を忘れるな!
お前は、血の呪縛から逃れられない!
感情は力だ!
己の宿望を、報復を果たすのだ!』
それは、鬼の言葉。
戦いを求める、熱き言葉。
死を望む、醜い悪鬼の言葉。
その感情が届いているのか─少女の笑い声が、止まった。




