18.文明の力
モンスターの脅威。
それは何処へ行っても変わらないのだと思い知った。
そこには無数のモンスターがいた。モンスターは人に抗う存在であり、共存は難しい存在だった。
人々もそんなことは考えていないようで、モンスターに容赦はしていなかった。
ミサイルで爆殺し、銃器で蜂の巣にし、鋭利な刃物で切り裂いた。
そして、再生するモンスターに『絶望』した。
転機が訪れたのは、突如、魔法を扱う人類が登場した時だった。
それは、人ではなく、人に似た『何か』。
言葉では形容できない戦力が、人種と言う壁を隔てた。
モンスターの脅威から街を救った自称『勇者』達は人類にひとときの平穏と安寧を与えてくれた。
『勇者』は都合の良い存在だった。
彼らは博識であり、モンスターの知識を分け与えてくれた。
だが、『勇者』は言った。これ以上、協力は出来ないと。
何故かは良くわからなかったが、蔑むような冷たい目をしていたことを覚えている。
それから、『勇者』や『モンスター』の研究を始めた。それが、人類のためになるのだと信じていた。
片時も休むことなく研究を続けると、魔法、魔力、魔方陣と言った『奇跡』に出会った。
未知の発見が、人類の未来を変えるのだと研究に没頭した。
─失敗。これも駄目だ。
行き着いた先は残酷な真実。
人類には、魔力が無かったのだ。『勇者』はこの世界にない『魔力』を所持していることになる。
そうして、『異世界召還』に行き着いた。
魔力が無いなら、魔力のある世界から助っ人を呼べば良いのだと、研究に身を投じた。
そうして、いつからか命を狙われるようになった。
自らの命を守るために、研究を加速する。
狙われると言うことは、正解に近付いていると言うことだろう。
独学で学び、完成した魔方陣。
理論上起動するはずのない、最高の駄作。
─そこに、光が灯る。
薄暗い部屋、魔力のない魔方陣の上で、一人の少年と出会った。
Ж
「来ます」
「様子を見よう。直に自衛隊が到着する」
街中を闊歩するモンスター。
場所は街の外れに並んだ商店街。
街中にモンスターが侵入するのは想定内のようで、一瞬の内にシャッター街へと変貌する。
攻撃の手段が十全ではないにしても防衛に徹することによって、街の様相を保っているのだ。
正確には、シャッターで防げるほどモンスターの攻撃は甘くないだろうが。
街を守る組織、『自衛隊』。
モンスターを撃退する『自衛隊』の到着を待つ時間稼ぎとしては、それなりに効力があるようだ。
「来たぞ」
ブラックバック─真っ白な体毛に覆われた筋肉質のモンスターは、動物の変異体のような外見。
異様に太い二の腕が特徴的で、圧倒的な握力を誇る。捕まれれば、二度と逃れることは出来ない。
「行くぞ!!」
始まった。
迷彩服の集団が銃器を構え突撃する。商店街に発砲音と硝煙の匂いが広がった。
『ゲエエエエエエエエエエッ!』
咆哮をあげ、地面を粉砕しながら怒り狂うブラックバック。体毛が鉛玉を弾き、決定打を与えることは不可能。
それでも、攻撃の手は止まない。
「現在プランB遂行中。商店街を抜けた後、プランCへと移行する」
「「サー イエッサー」」
命懸けの追いかけっこ。着かず離れずの距離を維持しながら誘導を行う自衛隊員。
そして、特大の攻撃が放たれた。
「総員、衝撃に備えよ!」
鉄の鳥、戦闘機が落とした爆弾が一寸の狂いもなく背中に直撃し、粉々に弾け飛ぶモンスター。
「あれが『科学』の力ですか?」
「その通り、魔法みたいだろう?」
「ええ、魔法のようでした。これだけ強ければ『魔法』なんて必要ないと思うんですけど?」
「確かに威力は充分だ。しかし、毎回あのような攻撃を続けては、いずれ資源が枯渇する」
「うーん、でも魔力が使え無いんですよね」
「残念ながらね。人類には魔力が無かったよ」
「やっぱり、『勇者』と協力は出来ないんでしょうか?」
「難しいね。彼らは、こちらを拒絶している」
勇者は、元の世界に帰りたがっていた筈だ。もしかしたら、この世界の『勇者』は僕の知る勇者じゃないのかも知れない。
「魔物の素材は使わないんですか?」
「使えない、が正しいかな。見ての通り、素材は爆撃に耐えられない。耐久力が低すぎて、研究対象にすらなっていないよ」
「確かに、あれは使えなそうですね」
粉々で焦げ焦げなモンスターの遺体。
素材というにはあまりに小さく、黒く、そして歪すぎた。それはまさに、ごみ屑だった。
モンスターは存在自体が脅威。
手加減などしようものなら返り討ちに遭うのがオチ。
使えるかわからない素材を集めるために、命を賭ける者はいない。まずは、素材を集めて有用性を示す必要がありそうだ。
そうして新たな防衛手段が確立すれば、異世界召還の情報が得られる。
そういう契約。
─早く、帰らなければ。
討伐が完了して帰還準備中の自衛隊。
彼等は、一瞬にして炎に包まれた。
「うわあああああああっ!」
「まったく、護衛を雇うなど面倒なことをしてくれるわい」
あれは『襲撃者』。
状況の把握も儘ならないまま、駆け出した。
今ならまだ、助けられる!
「【バブル】」
水の泡が、延焼する兵士を包み込んだ。
「...はあっ!」
振り向き様。
何の確証もなく、神託の石板をひと降振りした。
「なんじゃと!?」
不意討ちを受けた経験が、生死を分けた。
─訂正、実際には神託があった。
「【ファイヤーボール】」
「その程度の魔法、効かぬと、まだわからんのかっ」
瞬間。フードの襲撃者が消える。
『テレポート』。それ以外説明がつかない奇妙な動き。遠くで発動した火の玉が、突然目の前で弾け点滅した。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
凄まじい衝撃に、地面を転がり壁にぶち当たった。
駄目だ、まともに戦っても勝ち目はない!
見上げた空。そこに襲撃者の姿はなく、まるで雪のように火の粉が降り注いでいた。
「これで、終わりじゃ」
「お待ちなさい!!」
大きく響いた声に、視線が集まる。
そこにいたのは、舞踏会用の仮面を付けた少女。
「愛と勇気のプリティー戦士、プリンセス仮面見参!」
「お前はっ、クラヴィス!!」
「良かった、クラヴィス。無事だったんだね」
「違いますぅ~。私はプリンセス仮面ですぅ~。クラヴィスなんて、知りません!」
決めポーズ姿で固まるクラヴィス、改めプリンセス仮面がちょっとだけ不機嫌そうに、二人の間に割って入る。
「何故、私達を攻撃するのですか? セラフィナ・アルヴェール学園」
「そうか、あなたは学園長だ!」
「違いますぅ~、通りすがりの襲撃者ですぅ~。学園長など、等の昔に辞めたのじゃ!」
「...転職したとは初耳ですね、学園長。何があったかはわかりませんが、一旦、話し合いの場を設けるというのはどうでしょうか?」
「ヴァルドールさん!!」
「無事そうで何よりだ。お前達」
「貴様までこちら側に飛ばされたのかヴァルドール」
「その様子では現状を知ってらっしゃるご様子。教鞭を執る者として、是非ともご教授願いたい」
「ふんっ、良かろう。ならば明日、勇者村に来い。そこで、待っとるよ」
視界から消失した学園長。
その言葉を信じるなら、今日は襲われることのない休戦期間。
「勇者村って、何処にあるのでしょうか?」
「知らんな。生憎、私もここに来て日が浅い。だが、その男は何か知っていそうだな?」
「ひぃっ!? 分かった教える、いや、教えさせてください!」
震えながら地図を差し出すオグリは、ヴァルドールに丁寧な口調で説明を始めた。
筋骨粒々な肉体。滲み出る威圧感。
筋肉こそが、文明を越えたコミュニケーション能力。
そう確信した。




