17.異世界召還は突然に...
「待っていたぞ、教会騎士の諸君」
祭壇の先、玉座の間で待ち構えたいたのはレグナリア王と謎の女性。
場の空気が、一瞬にして張り詰める。
「レグナリア王よ、状況の説明を願えますか?」
「喜べ諸君。君達は選ばれた存在なのだ」
「それは、脅威に晒された自国を守ることより優先する事なのですか?」
「ほほっ、まさか、国民は裏切られちゃったのかな」
「ふっ、笑わせるな。裏切りも糞もない。我が国の存在意義は元々ひとつ、憎き同胞を召還し、我々があるべき場所へ帰ることだけだ」
「目的のために国民を犠牲にすると? あなたは、勇者を憎んでいるのですか?」
「はっ、あんな失敗作に興味はない。そんなもの、この女にくれてやる約束をした」
「どうも、皆さん。『この女』です。宜しくはしなくて結構よ」
「お前は、『魔王』なのか?」
「答えはNo。けど、『勇者』の魂を回収する役割としては同じ存在かも知れないわ」
「一体、何を言って...」
「心なさい。あなた達が向かう先は言葉では言い表せない厳しい世界。困難が、あなた達を待ち受けることでしょう」
「御託は良い。始めようか」
レグナリア王が詠唱を開始する。
それは、詠唱や魔方陣によって強化された王族の特別な恩恵。
「【我、理を越えし門を呼び、異界の扉を叩かん。
星の巡り、時の理。すべての均衡に抗い、命ずる。
選ばれし者よ。拒絶は許さぬ。我が声に応え、顕現せよ。
今ここに、異世界よ、来たれ。─異世界召還・遡行】」
王の元へ、莫大な魔力が投じられる。
供給源は、祭壇に捧げられた遺物。
遺物は、足りない魔力を補う為に用意された魔力供給装置。
臨海を突破した遺物は次々と砕け散り、塵芥へと成り果て行く。それは、無理矢理魔力を抜き取った故の弊害。
六つ目が砕けた時、ようやくそれに気が付いた。
─数が、ひとつ足りなかったのである。
「馬鹿なっ確かに7つ、遺物が用意されていた筈だ。まさか...クラヴィスか!?」
「落ち着いてください。既に手は打ってあります。召還人数を減らせば、何も問題ない筈だわ」
「そんなことが可能なのか!?」
「王都にリヴァイアサンを向かわせました。まもなく、王都は流され更地になるでしょう。...あら?」
「どうした!?」
「王都の魂が、全然減っていないわ...」
「なんだと!?」
「...じゃあ、私、ちょっとだけ様子を見てくるわ。じゃあね♡」
「おいっ、逃げる気か!?」
女性は、逃げるように暗闇と灯火の境界に姿を消した。
この世の終わりのように脈動する世界。
もはや、誰にも未来を予測することは叶わなかった。
魔力の渦が空を裂き、地が怒りに震える。
世界を呑み込むような『風』が産声をあげた。
まるで世紀末。この世の終わりのように暗く、先の見えない空洞が、雲を吸い込み、天を支配した。
人々の体が発光を初め、『風』に流される。
逃れることは許されず。
救いはなく。
『風』が全てを呑み込んだ。
Ж
風が強くなった。
雲が割れ、わずかな時間だけ空が見えた。
空は黒く染まり、風が雄叫びをあげる。
バルコニーの窓が割れ、天に吸い込まれて行く。
王都は惨状に包まれていた。
「街が、吸い込まれていく」
「助けに、行きましょう!」
「待って、直ぐ行くよ」
戻ってきた石板を抱えた瞬間。
視界の隅で
三度、光が弾けた。
一瞬の出来事。
「えっ─────?」
それは、唐突に。
魔法のように、仲間が姿を消した。
「みんなっ!!」
返事はなく、気配もない。
虚空に向けて、伸ばした手。掴んだ仄かな光の残渣が滑り落ち、ふわりと飛んだ。
それに続く光の束。
体が、指先から光の泡となって、溶けていた
─世界が、暗転する。
...。
......。
.........。
「問おう、君が私のパートナーか?」
─眩しい。
室内を橙に染める照明が、少年を照らしあげる。
問いかけるは、見知らぬ中年の男性。
しかし、一変した景色に頭が追い付かない。
室内に描かれた大量の魔方陣。
それは、『召還術』を目的とするものだと理解出来た。
つまり、僕は何処かに召還された可能性がある。
今必要なのは、情報。
「ここは王都レグナリアじゃないんですか?」
「王都レグナリア? 聞いたことが無いな。ここは日本、極東の島国さ」
「僕は、召還されたんですね?」
「恐らく、君は...」
「...待ってください。何かが、近付いています!」
「何っ、それは本当か?」
「はい、『神託』の石板に、そう記されてます」
「神託?」
ドォン!
強引に蹴破られたドアが、辛うじて繋がりを維持していた。─誰かがいる
しかし、視界の範囲内には誰もいない。
驚きと戸惑いを隠せずにいると、石板を持つ腕が意図せず勝手に動いた。
まるで、自身を守るように。
「なっ」
驚愕の視線が交差する。
それも一瞬。弾かれた石板が攻撃を防いだことを理解させ、そのまま後方に吹き飛んだ。
「くっ!」
恐れるより先に、腕が動いた。
魔力で練られた緋色の玉が、凄まじい熱を放出する。
「【ファイヤーボール】」
「...【ファイヤーボール】」
耳をつんざく爆発音。
火の玉が、爆薬の如く炸裂する。
同じ威力、同じ魔法。室内を暴回る爆風が深く被ったフードを揺らし。純白の髪が数本、靡いた。
その姿に強烈な既視感を覚えた。
この人に、僕は会っている気がする。
「もしかして、あなたは僕を知っていますか?」
「...お主のことなど、知らぬよ」
「それは知っている口調ですね。僕は、あなたを見たことがある」
「っ!」
ちょっとした嘘。
覚えはあるけど、思い出せない。けれど、相手はその言葉に怯み、一歩後退った。
「なんで、こんなことするんですか?」
一か八か、追い討ちを掛けるように問いかけると、フードの襲撃者は逃げるように部屋を後にした。
─作戦成功。
賭けに勝った僕は防衛に成功したのだ。
「君は、やはり『異世界人』なんだね?」
自称パートナーの男性の問いかけに、今度は答えることが出来た。
「分かりません。もう少し詳しく状況を教えてくれませんか?」
「ならば着いてきなさい。ここでは落ち着いて話が出来そうにないからね」
異世界。嫌でもそう、思い知らされた。
外は摩天楼のような建物が幾つも立ち並び、夜の街を明るく照らしていて。
鉄の鳥が空を舞い、爆音を奏でる。
それは、友達から聞いた故郷の憧憬。
─レグナリアにはない技術、それは異世界の証明。
僕は、本当に異世界召還されたのだ。
「こっちだ、離れないように注意してくれ」
「...わかりました」
王都では見たことない建物が建ち並ぶ。
友達のことは心配。だけど、この状況でかってに動くことは良くない気がした。
「さぁ、入ってくれ」
鉄の扉が勝手に開き、中へと案内される。
室内は何故か魚が泳ぎ、窓の向こうで戦士が命懸けの戦闘を繰り広げていた。
「好きに座ってくれ、私は小栗 博司。趣味で『研究者』をやっている者だ」
「僕はマルス。『翻訳』と『神託』、後は魔法を少し使えます!」
「魔法は分かるが、翻訳と神託とは何かな?」
「『スキル』を使えると言う意味です」
掲示した刺青を、興味深そうに眺める『研究者』。どうやら、ここでは『スキル』は珍しいようだ。
それから、近況について説明を受けこと小一時間。
「...現状は、このようになっている。分かったかな?」
「はいっ、七人の『異世界人』が、最後の一人になるまで殺し合う、それが、『聖杯戦争』なんですね!」
「...私が迂闊だった。どうやらテレビアニメとごっちゃになってしまったみたいだね」
ピッ。
テレビと言う魔具が消され、後ろ髪を引かれる思いだった。願いを叶える聖杯は、どこに行けば手に入るのだろうか。
「地球に『モンスター』が出現して以降、ほぼ同時に『異世界人』と呼ばれる人種が現れた。彼らはモンスターを討伐する力を持っていたけれど、我々と協力することを拒んだ。私は協力者を求めて、異世界召還を研究していたんだよ」
「ふむふむ?」
「君は、何か望みがあるかな?」
「元の世界に...戻りたいです!」
「分かった。情報を集めて見よう。代わりに、私の手伝いをお願いできるかな?」
そうして『期間限定』のパートナー契約が結ばれたのだった。




