14.導かれる恩恵
何かが起こりそうだった。
何が待ち受けているかは、分からない。
何を授かるか判別不能のスクロール。
何も得られないこともある。しかし、何かが得られるという確信に近い予感。
いつも不思議に思っていた。
いつもの努力が恩恵として定着した時、どういう変化が訪れるのか、純粋な疑問。
いつも感覚は曖昧で、明確な答えは未だでない。
言うなれば恩恵は体の一部。
体に刻印された時、昇華された行動は変化という違和感を感じなくなる。
同じことが出来ていた気もするし、そうでない可能性もある。
唯、息を吐くように恩恵を使いこなすことが出来る。
きっと、それは検証不可能な奇跡。
それが短期間、続けて獲得出来たという奇跡。
もちろん、反対意見はあった。
貴重なスクロール。安易に渡すわけには行かないのだろう。
しかし、それは脅威から街を守った功績によって封殺された。
名誉の報奨。
それを断る選択肢は無かった。
守られてばかりの自分には、力が必要だった。
意を決して、クロールを開いた瞬間。
脈動。それが、手のひらを伝わって鼓動と同期する。
一度目とは違った感覚。
ありったけの魔力が吸い込まれ、光に変わった。
それは、煌めく文様。
それは、恩恵を獲得した証。
「レアスキル...か?」
「ほほっ、こりゃ珍しいね」
重鎮たちの呟きが稀な現象であることを実感させ、期待に胸が膨らんだ。
刻まれた、新たな『恩恵』を読み上げる。
「...【神託】」
「ほほっ」
「...」
「うーむ」
三者三様。喜び、諦め、悩み、それぞれが違った表情を見せた。
「あの...僕は凄く嬉しいんですけど、何か問題があるでしょうか?」
「問題なんてないよっ、マルスちゃん。教会学校に転入しない?」
「そりゃ、教会には必須なレアスキルだろうさ。だけど、一日一回限定の神託だと、戦力としては、どうかねぇ?」
「まぁ、教皇さまの穴埋めにはなるのではないか?」
僕のスキルについて、始まる討論。
しかし、内容が頭に入ってこなかった。
脳内は、絶えず流れる異音で満たされていた。
【霑比コ九r縺ェ縺輔>】
【閨槭%縺医※縺�k縺ョ縺ァ縺吶°縲∝錐蜑阪�縺ェ繧薙〒縺吶°縲∫ュ斐∴縺ェ縺輔>縲�】
【霑比コ�をしなさい】
【返事をしなさい】
「はいっ、何でしょうか!」
脳内の異音が、声に変わり、思わず大きな声で返事をしてしまった。
集まる視線。
訝しげな一同に、「すいませんっ」と謝罪をする。しかし、明らかな異常を誰もが感じ取っていた。
「まさか、スキルを使ったのか?」
「いや、詠唱は無かったぞ?」
「神託を授けて下さる神の名は分かりますか?」
「ちょっと待ってください!」
質問責めに混乱。脳内の声は未だに呼び掛けを続け、集中を乱す。そこに、質問が加わって脳内はてんやわんや状態。
一呼吸して、状況整理。
先ずは、脳内の声を何とかしよう。
「あの、あなたは誰ですか?」
【私はクロ...お前を.導く者だ】
「なるほど、クロさんよろしくお願いします!」
【...その礼儀正しさは尊きことだ、励みなさい】
「はいっ、恐縮ですが、急ぎで導かないといけないことはございますですか?」
【魔王が復活した。遺物の奪還を優先せよ】
「はいっ、わかりました!」
「あのっ、魔王は復活して、遺物を奪還しないといけないみたいです」
「...」
「......」
「.........」
「教皇さま、神託とはこのような形で下されるのでしょうか?」
「う~むっ、私とはちょっぴり違うね。それに、マルスちゃんは神語を理解出来るのかな?」
「出来ません!」
「確か、マルスが授かったもうひとつのスキルは『翻訳』。それが神語を訳してくれているのかもしれません」
「ほほっ、まさか『翻訳』がそんな便利スキルだったなんてね。マルスちゃん、教師になってみない?」
「いつか、なってみたいと思います!」
「良い返事じゃ、しかし、神託が本物なら、時間が無さそうな感じだね」
「遺物奪還、ですか?」
「確か、教会の遺物もひとつ盗まれたんだっけ?」
「はい、その通りです」
「僕の遺物も紛失しちゃいました...」
「ほほっ神託の信憑性が増してきたねぇ。明日、明朝には出立しようか?」
「承知しました」
その日、いちもつの不安を胸に、会議は終了した。帰り支度をして、エリシアを迎えに行く途中、兵士さんに呼び止められる。
─それを聞いて、いたたまれない気持ちで思わず駆け出した。
鼓動が高鳴る。
クロさんが、情報をくれる。
しかし、この目で見るまでは信じられなかった。
いや、信じたくなかったのだ。
見慣れた場所の変わり果てた姿。
それを見て、膝を付き、頬を伝う涙。
『孤児院』、帰るべき我が家。
それが、跡形もなく破壊されていた。
これでは立て直す前に、建て直さなくてはいけない。
崩壊は、モンスター襲撃の弊害。
寧ろ、死傷者が出ていないこの状況が奇跡とわかっていても、納得するのは難しかった。
─この惨劇を巻き起こしたものに罰を与える。
─孤児院を建て直す。
その為に、全力を尽くすと心に決めた。
Ж
翌朝、出発する団体に、神託を伝える。
「【闇から逃れよ。光は、必ず道を照らすだろう】、だそうです。気を付けてくださいねっ!」
「ほほっ、見送りありがとうねマルスちゃん」
「念のため、ランプを買い足しておこうか」
「マルスも怪我しないように気を付けるんだぞ」
笑顔で手を降り、目指すは次の目的地。
全力を尽くすと決めたのだ、休んでなどいられない。
「モンスターは日没と共に現れるでしょう」
警備隊は怪訝な顔で、少年を追い返そうとする。しかし、『神託』の刺青を掲示すると、慌てて上司の元へ駆け出した。
...。
......。
「君が、情報の出所だな?」
「はい、そうです」
「少し見ないうちに、成長したみたいだな」
「えっと?」
「ごほん...嘘を付いたら即逮捕! 分かったか!」
「ひぇ、あのときの警備員さん!」
「がははははっ、まさか君が本当に『神託』スキルを授かるなんて微塵も思わなんだよ。助言、承った。感謝する!」
敬礼する警備員さんに一礼して、王城へ向かう。
道中、自身の能力について分析する。
まず『翻訳』、これは常時発動型で、石板がない今、効果が薄くなってしまったスキル。
次に『神託』。本来、操作発動型のである助言は、一日一回の回数限定。
しかし、今のところ僕の神託に回数制限は無さそうだ。これはまだ検証が必要。
攻撃手段はひとつ、それは魔法。
【クエイク】、【ファイア】は発動可能で、それ以外の自信はない。
やはり、心許ない攻撃力。
クロさんに聞いてみたけど、強力な魔法は教えてくれなかった。
ドラゴンさんの行方も、未だ不明。
...やることは、山積みだ。
扉を開ける。そこは、間借り中の客間。
少女が二人、じゃれ合う室内。
「お帰りなさい、マルス」
「ただいま...あれ? 王女様?」
「あら、私のことはクラヴィスと呼んで下さって結構ですよ」
「クラヴィス、なんでここに?」
「ふふっ、おかしいですか? ここは私のお家ですよ」
そりゃそうだ。王城に王女様がいるのは当然。
居候は、僕の方だった。
「実は、マルスに用があって来たのです」
「僕に、ですか?」
「そうです! 明日、父の捜索を手伝って貰えないかと思いまして」
「明日、ですか」
「駄目ですか?」
「駄目じゃない、ですけど...」
「けど?」
「今夜の戦闘は大規模になるので、ちょっとだけ心配なんです」
カンカンカンカンカンカンッ!
「!!」
市民薄明。見惚れるほど美しい空模様と醜い地平。
鐘の音が鳴り響く街並み、警戒する人々。
大切な人達を守るために、僕は戦場に向かった。




