第三十八話 強化
ちょっと休みます。
「......ただいま。」
家に帰った私は挨拶をする。そこに返事はない。
当然だ、父さんがいない。......もう帰ってこないかもしれない。
「......」
しかし不思議と八千代課長の時のように心が痛むことはなかった。......私があの人を嫌っているからだろうか。
「あ......母さんのお墓参りしなきゃ......もう死人の私が墓を参るなんて、ほんと皮肉。」
母さんの記憶は少ない。小さい頃に死んでしまったから顔も朧げだ。それでもあの時の私たち家族は確かに幸せだったと思う。
『......気は済んだ?じゃあ、そろそろ確かめよう。』
「私」が私に問いかける。それもそうだと思い、切り替えた。
「〔分身〕」
私は唱える。すると光が集まりそこから自分と瓜二つの人が生まれた。
「......」
私はこういうもの特有の「右手を振ってみる」を試した。すると目の前の「私」も手を振る。
「えーっと......君は「私」でいいんだよね?」
「そうだね、私は「私」から生まれた私だ。」
自分と同じ声が目の前から聞こえる。録画から聞こえる電子音とは違う自分の声に私はむずむずした。
「しかし、まさかうまくいくとは......いやー、本当に世の中は不思議だねぇ。」
「......少なくとも、私が数ヶ月前に生きた世界はこんなのじゃなかったけどね。」
ほんとどうしてこうなったのやら。世の中にはダンジョンが溢れ、そしてステータスが溢れた。私はそれに巻き込まれ、ゾンビになった。
「......そういえば。」
「ん?どうした「私」?」
私は少し気になっていたことを思い出した。
「いや、なんで私は勧誘されたんだろうって思ってさ。」
『特対課』の勧誘方法は単純明快。魔力を発する人間を判別し、その人間の元に直行するのだ。魔物の捜索方法も又同じであり、魔力を発する生物を判別、『特対課』職員が急行する形になる。
よくわからないが魔物と人の発する魔力は違いがあるらしい。前に華名木が教えてくれた。
実際このシステムによって私はクソその一とクソその二に見つかってしまい、痛手を負わされた。また、八千代課長とその相棒だった仁という男子学生も同じ方法で私を見つけた。
「でも......」
そのあとのアップデート後、私は勧誘された。魔物としてではなく、人間として。そこに私は引っかかった。
「......まるで、アップデートの時に誰かが私の魔力反応を偽装したみたい。」
私はステータスを呼び出す。そこにあるのは聖典スキル:〔安息 lv3〕の文字。
アップデートは聖典スキルの所有者が発生することで行われた。発生タイミングからして恐らく私だ。その時......今回の件の黒幕に目をつけられたのだろうか。
「......成程ね、でも今考えても仕方ないことだと思うよ?だって、こんなことできる黒幕に対して何かしようって考えても多分それもモニタリングされてるんだろうし。」
「それもそっか。あ、そうだ。報酬受け取らなきゃ。」
私は「私」の言葉に頷き、やらなきゃいけないことを思い出す。ミッション画面を開き、汎用スキル〔身体強化〕を受け取る。
「......んん?」
しかしそこで前回とは違うことが発生した。ミッション更新されなかったのだ。
「なんで更新されないんだろう......」
「多分、(lock)と同じでここまでしか行けないって意味だと思うよ。私たちの強さってβテスト期間の最高峰な訳だし。」
「ああ......」
つまり、最後のミッションを受け取るまでは更新なしか。弱ったな......
「まあ、βテストにしてはよく行った方だと思うよ?それより〔身体強化〕試さなきゃ。どれくらいの効力か感じてみなきゃだし......」
「私」は身体強化を発動する。「私」の周りをほのかに水色のオーラが揺らぎながら纏う。
「......どう?」
「ドカンって強くなった感じはしないかな......確かに強くなったけど、そこまでって感じ?」
私も身体強化を発動する。そしてステータスを見ると体力と魔力を除いた全能力値が1.1倍されていた。
「......これは、つまりそういうこと?」
「じゃないかな......汎用スキルだからきっと低レベルのうちはそこまでなんだよ。」
私たちは同じ結論に達する。つまりそういうことなのだろう。
「とりあえずlv上げからかな......〔闇魔法〕を強くしておきたいし、それ以外にも近接戦闘を頑張りたい。」
「じゃあ、手分けしてやろうか。私が近接、「私」が魔法って感じで。」
「それで行こう。」
「そうだね。」
私たちは頷き合う。そして両方共に冷蔵庫に向かう。
「「とりあえず、今日はトンカツ食べよう!」」
私たちは互いに頷き合った。
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