閑話その6 行動
<『特対課』6係>
「......」
係長は冷や汗を垂らしながら目の前にいる部下を見る。部下は手に持った資料を眺めて微動だにしない。
———受けてくれるだろうか?
係長の頭の中はそれだけでいっぱいだ。部下———三条院は上司の言うことに耳を貸さない事が多い。
今回のような政権闘争が関わる仕事など『面倒です、帰らせていただきますわ。』と言ってよくバックれるのが常だ。
「......受けさせていただきます。」
「ん......?」
しかし今日この日、係長は自分の耳を疑った。
「聞こえませんでしたか?受ける、とわたくしは言わせていただいたのですよ。その耳を交換した方がよろしいのでは?」
「い、いえいえ!滅相もない!」
係長はすぐに返答する。この少女の気が変わらないうちに早く準備に取り掛からせた方がいい。
「そ、それでは志野 紗綾香の引き込みを受けてくださることを......」
「ああ、申し訳ございません。わたくしが受けると言ったのはそちらではありませんことよ?」
係長は「は......?」という顔をする。だが同時に納得もする。
———ああ、やっぱりそうだよな......
元より、目の前の少女が素直に受けるとは思えなかった。係長はそう思い、なんでも受け入れられる気分になった。
「では、何を受けていただけるので......?」
「私が受けるのはこちらの少女の引き入れです。」
そうやって指したのは紗綾香の幼馴染の美幸の写真だ。
三条院 セレナは常々思う。
———この世の中は、魔法こそ至高である。
どのようなスキルも、どのような武具も、魔法の前には敵わない。
そう考える彼女は自らの魔法を強化することのできる『魔力貯蔵』の持ち主である美幸に眼をつけた。
———欲しい。
もしも魔力を移譲する方法を手に入れられたら?その時この少女が近くにいれば?自分の魔法はさらに大躍進を遂げるだろう。
彼女は犬猿の仲である天音に準えるならば『魔法至上主義』である。それゆえに、スキルに頼ってばかりの天音のことが大嫌いなのだ。
皮算用をしながら、三条院は自分の胸を期待に膨らませた。
———彼女は動く、自分を馬鹿にしたもの達への復讐を夢見て。
<『特研課』>
「おーい、華名木ー?」
「はいっすー!『室長』、なんか用っすかー?」
研究室に華名木を呼ぶ声が響く。華名木はゲルウダの骨を調べる手を止め、快く返事をする。
「あー、華名木。お前......学校に行ってくれんか?」
しかし、華名木のその気持ちは『室長』の言葉で吹き飛んだ。
「......嫌っす。」
「あー......まあ、そうだよなぁ......」
『室長』は呻く。親としては今の華名木の状態を良くは思わないが、一人の人間としては華名木の境遇は十分に学校に行きたくなくなる理由だ。
「それでも......頼めんか?」
「嫌っす!『室長』、アタシが学校にどんだけ行きたくないか知ってるっすよね!?」
華名木は豊満な胸の持ち主だ。それ故に中学生でありながら、いやむしろ中学生だからこそ男子からは下卑た視線を向けられ、女子からは嫉妬の眼差しで見られていた。
「頼む!この通りだ!二週間くらいでいいからさ!頼むよー!」
「嫌っすー!」
この後何時間も『室長』が粘り、そしてようやく華名木は折れた。
———彼女は動く、何処までも嫌でありながら。
<『特攻課』>
「ふー......」
あたしは仕事を終える。壁掛け時計の時間を見るともう10時だ。
(パパもママも心配してるだろうなー......)
しかしやらねばならないことはまだまだある。だがあまり心配させすぎてもアレなのであたしは帰宅準備を進める。
———もし......もし、私が八千代課長にあった何かを解決できたとしたら、八千代課長はどうしたいですか?———
あたしはふと、その言葉を思い出し手を止める。
何かを解決する、つまり『皐月』に殺された仁を甦らせるとでもいうのだろうか?
「......ばっかみたい......そんなのあたしは望んでねーっつーの。」
うるさく、仕事を押し付けていた仁。彼が生き返ってきたら課長職についたあたしに何を知ったとか聞いてくるだろう。
「それよりも......あたしは......」
あたしは頭によぎったその言葉を振り払う。どうかしている、本当に。
そしてあたしは今度こそ、帰宅した。
(多分、殆どの係が動く。志野さんの確保に向けて......)
(決定的なのが、いつになるのかはわからないけれど......)
(その時は、きっと......)
———彼女は動く、もう二度と後悔の無いように。




