閑話その4 反響
———確実に迎えるはずだった『死』を逆転させた『特攻課』の話題はさまざまな場所に広がっていた。
<『特対課』1係>
「なんすかなんすか〜?もしかして俺の凄さにようやく気づいちゃった感じ!?」
「違う、ふざけるな柏田伍長。貴官に発言の自由は許可していない。」
『特対課』1係は特殊な係だ。他の係とは違いこの係にはいざという時の国防戦力としての期待がされている。
その関係でこの係の所属の人間は自衛官としての立場と権限を非公式でありながら与えられていた。
しかし、柏田を咎めた1係課長、雨霧三尉はそれが気に食わなかった。
彼らは自衛隊として長時間の訓練と、それに耐えるほどの信念を持っている。雨霧三尉もそれは例外ではない。
故にこそ、数ヶ月のみの活動でここまで重宝され、彼らからしてみれば何の努力もなく強くなる『特異能力保有者』のことを彼は嫌っていた。
———このようなものを使わなければならないほど、国は切迫しているわけではない......!
雨霧三尉は常々思う。この者達は国防に必要ではない、と。
命令を聞かない訳ではない。成果を出さない訳ではない。
ただ、ステータスや魔法といったそれまでの努力を嘲笑うかのような超常の力とそれを操るものが気に食わなかった。
「え〜?じゃあ俺帰っていいっすか?いやまあ冗談なんすけど。」
特に、目の前にいる柏田栓仁伍長のことは何よりも嫌いだった。上司側を嘲るような言動が多すぎる。
一度教育的指導をして性根を叩き潰すべきか、と思ったがそれ以上にやらねばならないことを思い出しそれを伝える。
「冗談は程々にしろ。それより柏田伍長、貴官に任務を与える。」
「ほん?今外では魔物出てないでしょ?ならアレですか、ダンジョンの入場を認めろー!って言ってる奴らのデモ活動の鎮圧っすか?そんなことしたら自衛隊の信用失墜しますよ?」
「静かにしろ柏田伍長。そんなことはわかっている。貴官に命ずるのは『特殊地下構築物攻略課』からの人材確保だ。」
雨霧三尉は苛立ちを抑えながら用件を伝える。なぜ目の前の柏田伍長はこうも腹が立つのだ。
「えー?『特攻課』から人材引き抜いてこいって......誰引き抜いて来ればいいんすか?」
「『特攻課』などという課は存在しない。また略称であったとしてもそのような呼称は公式のものではない。」
「でも意味伝わってるじゃん。そもそも公式非公式引っ張り出したら特殊害獣対策課なんて非公式そのものじゃん。」
雨霧三尉は口をつぐむ。代わりに逃げるように対象の資料を手渡す。
「......志野 紗綾香、16歳。『特殊地下構築物攻略課』1係所属、この人物から死を逆転させるほどの『特異能力』が確認された。手に入れてこい。」
そう、思えばこの少女も気に食わない。この少女そのものが医者、医官に対する冒涜だ。生命に対する侮辱だ。
たった数秒で復活した?ふざけるな、そんなもの認められるものか。その後、被術者である五十嵐 陽毬は特に後遺症も見られていないという。
なんだそれは。確かに有用だ、だがそのような力はあまりにも命を軽くさせる。そのような力は認められん。我が係で管理しなければ......
と、雨霧三尉は考える。その思考に私怨や独占欲が混ざっていることに、彼は気付かない。
「ふーん?ま、いいっすけどね。でもなるべく努力はするっすけど、期待しないで下さいよ?どうせ他の係も狙ってんすから———」
「貴官の弟だが、」
そこで、柏田伍長は黙った。そして次に口を開いた時、軽薄そうな口調は失せていた。
「......テメェ、あのクソの事、バラすんじゃねえよ......!」
「......わかったのならさっさと取り掛かれ。人員はいくらでも使って構わない。話は以上だ。」
「......了解しました。柏田伍長、『特殊地下構築物攻略課』より『特異能力保有者』志野 紗綾香を引き抜かせて頂きます。それでは、失礼致します。」
柏田伍長の退室後、雨霧三尉は息を吐く。
......本当に、単純なやつだ。
やはり、この程度の脅しに屈する自衛官など必要はない。
「おかえりっす、柏田先輩......なんかあったっすか?」
柏田伍長の同僚の池 柳瀬二等兵が訪ねる。柏田の顔はヘラリとしていたが、その笑いには翳りが見える。
「ん?なになに?もしかして俺ちゃんのこと心配してんのー?あれ、お前らそういう感じだったっけ?」
「いや、クソ班長のことは嫌い。でもそれとは別に気になるし、私たちに何かあるようなら知っておきたい。」
そう美座和 真紀二等兵は言う。だがその顔は言葉とは裏腹に心配気だ。
「はー......ま、ほっといてよ。どうにでもなることだからな。それよりお前ら、任務だとよ。」
その言葉に1係6班の顔が引き締まる。そして、影崎 先夜一等兵が口を開けた。
「......我らの長は......何を望む......?」
「八千代ちゃんとこから引き抜いてこいって言ってたぞ。これ、資料な。」
そうして、彼らは合議を始めた。
———彼は動く、己の消してしまいたい歴史を消すために。
<『特対課』2係>
「えー、という訳でこれから貴女には引き抜きの準備を———」
「あら、貴方達の言葉を聞く気はありませんよ?私は私で勝手にやらせて頂きますので。」
そのまま天音は去っていく。
「はぁ......」
後に残された『特対課』2係の係長は溜め息を吐く。
———どうして、うちにはこんな問題児がいるんだ......
天音 雪は自由奔放が服を着て歩いている女だ。わざわざ着る必要のない和装に身を包み、やらなければならない事に背き、そして上司の命令を聞かない。
それでも彼女が在籍を許されているのは、その圧倒的戦闘能力故だ。2係は魔物の『狩猟』を主に担当するため、戦闘能力が何よりも重んじられる。
まぁ、資料を渡した時の反応からして勝手に動くだろう......
先程志野 紗綾香に関する資料を渡した時、天音は輝かんばかりの瞳をしていた。大方、最近魔物が出てこなくて燻っていたところにいい生贄が来たので喜んだのだろう。
「はぁ......」
2係係長は思う。
———全く、何故あいつに頼らなければならないのだ。
「ふふ......」
天音は上機嫌だった。その手元には数枚の資料、内容は『特攻課』1係の面々だった。
天音はその中の一枚、紗綾香についての資料を眺める......
———いいじゃない、この能力......!
天音は自由奔放という言葉がよく似合う、と思われているが実際は違う。彼女の中には明確にルールが存在しているのだ。
それは、名づけるのならば『スキル至上主義』。
自分が気に入ったスキルや単純に強いスキルを好み、それ以外の面、即ち人格や功績などは二の次にする性格だった。
故に、『スキル弱者』と揶揄される三条院の事が嫌いなのだが......
———八千代ちゃんを左遷した時は呆れたものだけど......まだまだ上も捨てたもんじゃないわね。
そして彼女は資料を眺め、いかに自分の係に入れるか考えを巡らせる......
———彼女は動く、自らの理論を証明するために。




