第三十五話 休暇
「お、お帰りなさい、っす!?」
前線基地に帰ってきた時、柏田はギョッとした目でこちらを見つめていた。
「な、何があったっすか!?そんなボロボロで!」
今の私たちは確かにボロボロだ。
陽毬さんは盾が大幅に損傷、もう使えるとは思えないほど凹んでいる。衣服もかなりボロボロでゲルウダに潰された両腕の部分は素の肌が丸々露出している。
美幸はそれといった傷はないがリュックサックは別だ。そこにあったポーション群は全て空だ。そしてその代わりにとでも言うのか、リュックサックの中身はパンパンに膨らんでいた。
私も顔の部分がいくらか傷がついている。背中はまだかなり痛い。半減されていると言うのにここまで痛いのはなかなかやばいのではないだろうか。
「大丈夫大丈夫......いや、全然大丈夫じゃないけどさ。」
「そうっすよね!?早くこっちに入るっす!」
そう言って柏田は扉を開ける。その中には蜂蜜色が満たされていた。
この扉は『訓練室』に直通の扉だ。ここ以外には『室長』の部屋、『特対課』、『特装課』、そして『特攻課』だそうだ。ウチの扉以外は見たことがないが.......
その後私たちは処置を受ける。そこでようやく、私は本当に終わったのだと思った。
「今日は散々だったな......」
『特研課』の仮眠スペースのベッドに倒れながら私は呟く。.......本当に散々だった。
今日は初めての2F挑戦だった。そこでは結構戦闘した。でもそれはただの前座で、その後に来る濁流、そしてゲルウダとの戦い、陽毬さんの[不死族]化。
「どうして、こんなことに......」
本当に、そう思った。
「どうも、お疲れ様です。」
その後、八千代課長が来てくれた。
「あ......八千代課長......」
「どうも、お帰りなさい。今回はよく生きてくれました。......本当に。」
八千代課長は苦しげに顔を歪める。きっと彼女は私が殺したあの男子中学生を思っているのだろう。
そう考えれば全てわかる。何度かあった遠くを見る機会は私との———『皐月』との邂逅を思い返していたのだろう。
「滑稽だな......」
「?」
声が漏れてしまった。私はもう少し気をつけるべきだと思った。そういえば『皐月』もそろそろ活躍させなきゃな......
『皐月』は私に向いた矛先を逸らすための生贄だ。だがこれは何度も出してその存在を知覚させなければ意味がない。
「いえ、何でもありません。......それで?何の用ですか?」
「あー、えっとですね、貴女達に休暇が与えられることになりました。」
私は飛びかけた思考を引き戻し、用件を聞く。すると八千代課長の口から信じられない様な言葉が聞こえた。......休暇?
「そんなの、この仕事にあったんですか?」
「あったんですよそれが、不思議なことに。」
私の返答に八千代課長はさもありなんといった風に返す。
「休暇期間は未定、対象は貴女達3人......『特殊地下構築物攻略課』1係。どうかゆっくりと休んでください。」
そう言ってから暫く迷った顔をする八千代課長。しかし、諦めた様に言う。
「......それと、休暇とは言っていますが、学校......『都立櫂然高校』には通ってもらうことになります。こちらも期間は未定、人数は......言わなくてもわかりますよね。」
「はい。」
私は首肯する。でもそれのどこに迷う要素があっただろう?
「......あの場所は課長、係長の代理戦争場です。誰しもが弱点を探し、裏切らせようとし、罠に嵌めようとします。」
......あそこは、そんな場所だったのか。
「貴女の話は聞きました、陽毬さんを致死状態から〔信仰術〕を使って復活させたと本人から......それに間違いはないですね?」
陽毬さんはどうやらそう言うことにしてくれたらしい。私はそれに合わせる。
私の首肯を見て、八千代課長は溜息を吐く。
「致死状態からの復活......その力は、権力者も一般人も全て分け隔てなく手に入れようとします。いくら口止めしても噂になるのは止められず、そこに真実があると聡いものは気づくでしょう。」
......確かに、死にかけの状態から復活させた......しかも両腕を無くすという大怪我からの快復は誰しも欲しいだろう。
「確実に、裏切りや異動の誘いがあります......それも執拗なほどに。課長係長の干渉は何とか防ぎます。しかし、学生や、教師からの干渉は......ごめんなさい。」
そう言って頭を下げる八千代課長。
「もし貴女が耐えてくれるならばウチの課としても助かります。でも......もし異動したいならば、私に隠すことなく伝えてください、手続きをしますので。」
......異動なんて、できるものか。
「異動はしませんよ......それより、大丈夫なんですか?私たちが抜けて。」
「ありがとうございます......そうですね、大きな痛手にはなりますが、問題はないです。新規の職員が来るので、そちらでなんとかしますよ。」
八千代課長はそう言うが、なるべく早く復帰したいものだ。
「......そろそろ、仕事があるので。ここで失礼させていただきます。」
八千代課長は立ち上がり、扉に向かう。
「八千代課長!」
私は去っていく八千代課長の背に声をかける。
「ん......?」
「もし......もし、私が八千代課長にあった何かを解決できたとしたら、八千代課長はどうしたいですか?」
......私は、これを聞かなければいけなかった。私がやったことだ。私が最後まで責任を持たなくてはいけない。救えるならば、救ってやらなければいけない。
「.....ごめん、あたし、そういうの考えたくない。」
八千代課長は嬉し泣きの様な顔をして、去っていった。




