第三十三話 陽毬
「陽毬ー!こっちこっちー!」
「あ、うん。ごめんね華?」
私は親友の佐々木 華に謝る。約束の時間に遅れてしまったからだ。
「いいっていいって!ほら、早くいくよ!」
「うん、ごめんね?ほんとに。」
私は華についていく。今日公開の映画を見るためだ。
「謝んなくていいって!ほらほらいくよー!?」
「あ、うん......」
私はダメな女だ。野暮ったい眼鏡をかけ、約束の時間に遅れ、背は高いから巨人と言われ、髪は切るのが面倒というだけで切らなかった結果目が隠れてしまう程になった。
好きなものだって落語という他人とは共有しづらい趣味だ。そんな陰険な女と付き合う人もおらず、私は即座に大学で孤立した。
『どうしたのあんた?もしかして一人?じゃあ私と友達になろうよ!一人より二人の方が楽しいでしょ!』
そんな私に声かけて来たのが華だ。
染めた金髪、耳に開いたピアス。ハリのある肌に、派手な服装、小さくて愛嬌のあると思える身長、そして大きく開いたおでこ。
何もかもが私とは正反対だった。華は私とは生きる世界が違う、そんな存在だった。
それでも、華は私に声をかけた。
『え......でも......』
『いいからいいから!早速駅内のカフェ行こうよ!ほら早く!』
華は私をいつも振り回してくれる。私が見たことのない景色、聞いたことのない音楽、試したことのない体験を私に与えてくれる。
私はそれが心地よく、華に甘えていた。
<適格者を確認......能力解放パッチを起動します。>
「え......?」
それが聞こえたのは大学で華と喋っている時、そのあと色々なことを教えられた。
曰く、盾持人になったとか、ふんばりがついたとか、私にはよく分からなかった。
「ん?どうしたの陽毬?」
華がそういう。だが私は反応できなかった。
『嘘』『優越感』『嘲笑』『辟易』
そう言った言葉が華の周りに浮かんでいたからだ。
「おーい、陽毬ー?」
華がそう言う時に、『不審』の文字が生まれる。
......そんな、嘘だ。
「あ......うん、なんでもないよ......?なんでも......」
私はこの時うまく笑えていただろうか?ただ、その時は誤魔化せていたのかそれ以上華は追求しなかった。
その日、私は先に帰るフリをして華を見ていた。
「佐々木ぃ、まだ『親友ゲーム』続けてんの?キメー。」
「はー?あんなのでも一応オモチャとしての使い道はあんの、わかる?」
「悪趣味ー、華もうちょっと性格良くしたら?」
「あたしと陽毬の友情ごっこ笑ってるあんたらも似たようなもんでしょ?人のこと言えないじゃん。」
......
「で、いつドッキリ大成功!って言うの?俺あの瞬間一番好きなんだよねー。」
「うわ、嫌なやつだぁ。でもそろそろネタバレしたいと思ってるよ?思い立ったは吉日だし明日とかにしとく?」
「おっいいね、その後に始まる乱交パーティー!終わった後の顔サイコーなんだよねぇ!」
私はその場を離れた。そのまま家に帰ることにした。
もう、二度と大学には行かないと考えた。
そのあと家に帰ると役人がいた。曰く、この力を世間で賑わっているダンジョンのために使いたいとのことだ。
『欺瞞』『疲労』『辟易』『欲情』
私は大学に行かないための口実が欲しかった。そしてちょうど口実を持ってきた人がいたので、その口実に乗った。
その後は美容院に行った。
「髪を染めてください。」
これまでの自分とはおさらばだ。もう今までの私を捨てて、新しく変わると決めた。
何も言わないなんて嫌だ。隠すなんて嫌だ。私は自分の思ったことをすぐに口にするようにする。
眼鏡を辞めて母さんの使ってるコンタクトにした。母さんは私の髪を見て心配していたが、私は気分転換と門出のためにと言った。
その時母さんに『安堵』が見えたので、母さんも私のこの姿をよく思っていないことがわかった。
私は変わる。もう昔に戻らない。
もう、誰にも甘えない。
§
「......ぉきてください、陽毬さん。」
私は目を覚ます。今のは夢か......
瞬間私の両腕から漂う激痛。
「ん......」
しかし、声を出すのも億劫だ。
「あ、陽毬さん起きました?よかった。」
声が聞こえる。この声は......紗綾香か。
私の視界に影が映る。ぼやけてて見えないが、『安心』『不安』『罪悪感』と言った感情が見える。
「ああ......」
そういえばゲルウダに私は致命傷にされたのだったか。であれば私はそろそろ死ぬのか。
そうとだけ思う、恐怖はない。不思議だった。
「えーと、陽毬さん。貴女には二つの道があります。」
しかし、紗綾香は話し始めた。
「一つは、このまま人間として死ぬこと。もう一つは人を辞めてでも生きることです。」
......なんだ?紗綾香は何かを話す。『安心』が消え、『恐怖』が生まれる。
「私は......尊厳ある死を選んでほしいと思います。それが陽毬さんのためだから。でも、私のためならば......陽毬さんにはどうなっても生きていてほしい。」
......
「陽毬さん、どちらか選んでほしい。どっちか選んでください。」
それっきり、紗綾香の声は聞こえなくなった。
......まったく、私にそういうことを聞かずとも、勝手に蘇らせることも出来ただろうに。
そう私は思った。
私はこの拾えるかもしれない命をどう使えばいいのだろう。
......決まっている。この不器用な子が、私を尊重して尊厳ある死を提示してくれている。この子は結構頭がいいのに、何処か抜けている。
私が、それを支えてあげなきゃ。
......もう、二人目の『私』を作り出さないために。
「ぃ......き、たぃ......」
私は掠れる声で言う。次の週間、紗綾香は『罪悪感』『安心』の二つの感情を大きくさせた。
「......わかりました。今しばらく眠っていてください。起きれば、すぐに終わりますから......」
紗綾香の声が聞こえる。口に冷たい液体が注がれる。味はわからない。
そのまま、私は意識を手放した。




