第三十二話 頭痛
「ブモウ!」
開戦の合図はオークのメイスのぶん回しだった。
陽毬さんはその攻撃に持っている盾を投げつけ、メイスを弾く。
「ブモッ、タテ、ステル、オンナ、アタマワルイ!」
「ハッどうだか......あんた日本語上手くないし頭悪いんじゃないの!?」
私がそう挑発すると、オークは怒りに震える。
「オレ゛、アタマイイ!アンタ、ジャナイ!オレ゛『ゲルウダ』!」
そうオーク———ゲルウダは名乗り、私に向かって来る。そのままメイスを振るうゲルウダ。私はその一撃を避ける。
「ぐっ......!」
しかし私のすぐそばを通ったゲルウダのメイスから発せられた衝撃波により私は吹き飛ばされる。
「ガハッ!!」
痛い。背中が痛く、顔も痛い。
「紗綾香ぁ!よくも.......!」
美幸は私の方を見て、その次にゲルウダを見る。その顔は憤怒で彩られている。
「美幸は援護!前に出ない!」
しかしそう叫びながら拾った盾でゲルウダに殴りかかった陽毬さんによって、美幸はハッと気づいた。
「は、はい!」
「落ち着いてやる!倒せない相手ではない!」
「ブゥモォォォ!オンナ、ナメルナ!土槍!」
ゲルウダがそう唱えると、地面から細い土の槍が噴き上がった。
「......な......!」
ゲルウダは魔法も使えるのか。いや待て、その前に何か言っていなかったか?何か......詠唱のような......
鈍い頭痛がする。しかし動けないほどではない。そのまま立ち上がった私は落とした短剣を拾いに行く。
私はそこから始まったゲルウダと陽毬さんの戦いを眺める。
陽毬さんは土槍を避け、そのまま大盾で殴りかかる。ゲルウダはそれを腕で受ける。大したダメージにはなっておらず、少しいやそうに顔を顰めただけだ。
「ブゥモウ!」
メイスを振るうゲルウダ。その先にいる陽毬さんはメイスを盾で受け止める。その時衝撃を受け流していたが、
「ぐぅっ......!」
そのまま体を一回転しながら転がっていく。
「ブゥ......オンナ、ナマイキ。オマエ、オカサナイ。ナブル、コロス!」
オカス。犯す。陽毬さんはそうではない。殺される。それはいけない。ダメ。犯す。なんだ?何かある。何をだ?何があった?なんだ?何か忘れている?何が、何を、違う。助けに行かなきゃ。
「マズ、ミギウデ!」
そのままゲルウダは陽毬さんの右腕にメイスを叩きつけた。
「ぐ......ああああああああああ!」
陽毬さんの叫びが木霊する。しかしそれに私は反応できずにいた。
右腕、右腕、それで何かあったはずだ。何を私は忘れている?何が起きている?
「ツギ、ヒダリウデ!」
ゲルウダは陽毬さんの左腕を踏み砕く。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
左腕の骨をバラバラに折られた陽毬さんは苦しげだ。この光景を私は見たことがある?
......いや、違う。私はこの光景を体験したことがある。何でこんな光景を体験している?
その時、ゲルウダは美幸の方を向く。美幸は青い顔をしながら震えている。
「ヒッ......!」
「オンナ......オマエ、オレ゛、ブジョク、ナイ。コロスナイ。オカス。ソノママ、ナケ!」
パキン。
そこで、私の頭にかかっていた枷が解き放たれた。
§
「と、まあこれが私の〔伝心〕スキルなのよ〜。」
この時、私はこのスキルを凄いと思った。そして同時に危険だとも。
しかし対処法がほとんど存在しない。殺そうと近づけば察知される。そのまま騙そうとしても認識される。私がゾンビ、つまり魔物である事がバレてしまう。
そう無意識に考えた私は一つのスキルを私に施した。
———〔偽装〕。
このスキルは〔解析〕を騙す効果もある。だが、そちらは副次的な効果で本来の効果は偽装行動を補正する事だ。
私はこのスキルを使って自分の知識、経験、そしてステータスを偽装した。こうすればバレずに済む。
事実そのまま監査期間の一週間を超えることができ、私は隠し通すことに成功したのだった。
......誤算だったのは、私自身が偽装した事すら偽装したため何をしたのかさっぱり覚えていなかった事だが。
§
———そして、今。私は自分でその偽装を解いた。
そのまま立ち上がる。そしてゲルウダに近づく。
「ブモ......?オンナ!オマエ、オレ゛、ナメタ!オマエ、コロス!」
ゲルウダはそう言いながら私の頭に向けてメイスを振るう。
......遅い。こんなにも遅いメイスを、私は受けてしまったのか。
そう思いつつ私はメイスを掻い潜る。そしてゲルウダの腹に短剣を差し込む。
「ブ、ブウモ!!?」
ゲルウダは驚いている。さすがは魔物素材由来の短剣だ。切れ味が違う。
とはいえ届いたのはせいぜい大腸までだろう。これでは致命傷にならない。
「ブ、ブゥゥゥ!!」
ゲルウダは私にメイスを持っていない手で殴りかかる。それを受ければ私でも頭が吹き飛ぶだろう。
「......光矢。」
そこで私は第Ⅱ階梯の魔法であるライトアローを詠唱しつつ、〔偽装〕で制限していた魔力を半分注ぎ込む。
直後、ゲルウダの上半身と下半身は分離した。
「ブゥ......!?」
ゲルウダは上半身を転がせる。そのまま倒れて、訳の分からない顔をしている。
......ああ、もっと早く起きれれば、私は陽毬さんを救えただろうに。
陽毬さんを見る。ゲルウダに潰された両腕からは大量の血が出てる。私はゾンビだったから出血多量=死ではないが、陽毬さんは違うはずだ。
「ブ、ブウウウウ!」
と、ここでゲルウダが何とメイスを投げてきた。まだ生きていたのか、しぶとい。
私はそのメイスを、
「美幸の授けし盾。」
と唱えて防ぐ。そのまま陽毬さんの銃剣を持ち、
「ブ!?ウゥ......」
ゲルウダの喉に突き刺す。そのままゲルウダは灰となり爆散。その灰の集まった場所には魔石の代わりにゲルウダのものであろう骨が何本も遺されていた。これがドロップアイテムの現象なのか......
<[豚人族]ゲルウダを殺害しました。経験値を獲得します。>
<経験値の獲得により、lvが4上がりました。>
<lvが上限に達しました。進化が可能です。>
<〔信仰術〕のレベルが上がりました。>
< 獲得条件を達成したため、称号〔名付きの殺害者〕を獲得いたします。>
私の頭にアナウンスが響く。別に今は必要ないかな......
「さ、紗綾香......?」
美幸がこちらを見る。そんな美幸に対して私は、
「大丈夫だった?」
と声をかける。ごめんね?こんな月並みの言葉しか掛けられなくて。
「〜〜〜!!紗綾香ぁ!」
そのまま美幸は抱きついて来る。
「ちょ......美幸、抱きつくのはやめてよ。まだ陽毬さんの治療が残ってる。」
「あ......うん、ごめん。」
「あ、それと美幸?ちょっと陽毬さんとの治療は二人きりでやりたいから、失礼するね?」
「え?う、うんわかった。」
そのまま私は意識を失っている陽毬さんを連れて曲がり角に行った。ここから先は、美幸に見せたくないからね......
というわけでこれまで言ってきた意味のあるものとは?の答えがこれです。




