第三十話 濁流
「......しっ!」
私は近寄ってきた猫を切り裂く。この猫、可愛い顔をしながら俊敏に動くのでかなり厄介なのだ。
「ふう、お疲れ。」
陽毬さんは私が猫を倒したのを見ると声をかけてきた。ちなみのその陽毬さんは膝ぐらいまでの猪2頭を倒していた。
「お疲れ様です......しかし凄いですね......」
「ん。魔物の数が段違いに多い。これはキツい。」
魔物は階段を上がってこない。基本的にそういう習性を持っているため前線基地には1Fの魔物しか来ない。よって2Fには結構いると思ったのだが......
「まさか、10分おきに出会うとは......」
おそらくこれがダンジョンの平常なのだろう。今までは何度か間引かれていただけだ。
「まあ、取り敢えず進みましょうよ、まだ入ってばっかりですし。」
「ん。まあその通り。」
私たちがそう話していると———
「ブゴォォォ!」
「ブギッ、ブギッ!」
と曲がり角から二匹の猪が飛び出してきた。
「......またですか。というかでっか......」
「ん。もしかして親猪かな......」
そのまま私たちの方へ来る。
「ん......ぐぅ.....!」
陽毬さんが受け止める。なかなか強い突進だったが、陽毬さんも食い止めている。ただ、両手なので銃剣で攻撃できていない。
私たちは陽毬さんを援護しようとする。その時、ふと気づいた。
(あの眼......焦り?いや、恐怖?)
(紗綾香ちゃん?何を感じて———)
私が猪の眼を不審に思っていると、急に紗枝さんの通信が切れた。
……やばい。
「紗綾香!早く......!」
「陽毬さん!そいつらなんかおかしい!後紗枝さんの通信切れた!」
「な......!」
まずいことが起きている。ここは即座に倒すかすぐに逃げるか。そのどちらかにしなければ......
「ね、ねー紗綾香?何か聞こえない......?」
「?美幸、何言って......?」
何か聞こえる。地面を踏み鳴らすような、マラソンの日に大勢が走る時に起きるアスファルトを叩くような音が。
その、直後。
ドドドドドドドドッ!
「ギィ!ギィ!」
「キュー!」
「シャアアア!!」
「ハッハッハッハッ!」
「ブルルルルル!」
魔物の濁流が、流れ込んできた。
「「「なっ.....!?」」」
数は見えるだけで30以上。かなり多く、その速度は早い。
「〔能力変容〕!〔魔力変換〕!」
陽毬さんは即座にスキルを発動する。能力変容はスキルlv×10%分のステータスを別のステータスに変えるスキル。魔力変換は魔力を(スキルlv×10%)×10を体力に一時変換するスキルだ。おそらく力と硬に振ったのだろう。
「〔踏ん張り〕!......!」
さらに専用スキル〔踏ん張り〕。これは脚をその地面に固定する技だ。ただし、それは何があっても力を後ろに逃せないということでもある。
案の定30体の力の総合算を食らった陽毬さんはその脚に悲鳴を———
「癒しを!」
ここで私は〔聖魔法〕を使い、陽毬さんを回復する。
「紗綾香!これ陽毬さんに!後紗綾香の分!」
そう言って美幸は二つのポーションを渡してくる。一つは体力回復、もう一つは魔力回復だ。
「陽毬さん!」
私は陽毬さんに回復をかけながら近寄り、その口に体力回復を入れる。その後私も魔力回復を飲む。
「助かった。排除を。」
陽毬さんの口数が少ない。これは私たちの中では陽毬さんに余裕がないことの証だ。
2Fに突入した私たち。そこで、私たちは予想もしなかった事態に陥ったのだった。




