第二十四話 入学
「き、緊張してきたねー紗綾香?」
「もう......美幸?今から緊張してたら保たないよ?」
私たちは御茶ノ水にある『都立櫂然高校』に来ていた。と言っても学校としての形はしておらず、建物の中の3フロアを公安局が買い取って学校として運用しているらしい。
「それに、このぐらい今までの訓練にくらべればなんともない!って考えれば多少気が晴れるよ。少なくとも私はそうだったから。」
「う......うん!」
そういった話をしながら私たちは建物の中に入っていく。
「えっと、どこの階だったかな......」
「確か受付が6階で、そこで入校証を受け取って7階の多目的ホールで入学式だったはずだよ。」
おお、流石は美幸だ。頭を撫でてやらねば。
「ちょ......紗綾香!?何してるの!?」
「んー?いいじゃん減るもんでもないんだし。」
私の乗せている手を美幸はペイッと払い除けた。もっと撫でていたかったのに。
「もう......でもありがとう。緊張ほぐれた。」
「そう?よかった。」
こういうやり方は紗枝さん———優希課長秘書がそう呼べと言った———が八千代課長に対してよくやっていることから学んだことだ。
『桜ちゃーん!お酒飲みましょうよー!大人の階段を登るわよ!』
『いやですよ!あたしは未成年って言ってるでしょ!?そもそも私はアルコールの匂いが大嫌いなんですよ!』
こう言ったやりとりをしょっちゅうするもんだから私たちも毎回苦笑しながらこの光景を眺めるのだ。
「しかし、私たちがお役所勤めかー。人生どうなるかわからないなぁ。」
「そうだねー?私としてはそこに紗綾香もいるってことがすごく驚いてるんだけどねー。」
私だってこの場に美幸がいることに驚いている。
「そういえばさ?なんで美幸は特殊地下構築物攻略課に来ようと思ったの?私は美幸が行くって言ってたらしいから来たんだけど......」
「えー?私は紗綾香が行くって聞いたから行くことにしたんだけどー?」
おや?何か誤解があるようだ。ん?待てよ?
(あいつら......)
恐らく厚生省の———何だったか?まあ何かムカつくやつは承諾も取れていないのに承諾してもらったと言っていたのだろう。いつか奴らとは決着をつけなければ......
「さ、紗綾香ー?割と怖いオーラ出てるよー?」
「大丈夫だよ美幸、何があっても美幸には累が及ばないようにするからさ。」
「それは大丈夫じゃないんだよー!?」
ぷりぷりと怒る美幸。可愛い。
「あ、着いたねー。」
「お、ほんとだ。」
私たちはエレベーターを降りる。そこはカーペットの敷かれたフロアだった。
「ようこそ都立櫂然高校へ。推薦はお持ちですか?」
入り口に待機している女性に茶色い封筒を渡す。ちなみに中は黄色いお菓子ではなく、八千代課長から渡された推薦だ。
「これは......『特殊地下構築物攻略課』ですか。わかりました。それではこちらをどうぞ。」
と言って渡されたのは縁が白色の入校証だ。
失礼しますと言いながら私たちは多目的ホールに進む。
そして多目的ホールに着いた時、
「もしかして今学期からの方かな?」
と声をかけられた。
「ん......?」
「すまない、急に声をかけちゃって。僕は夜弦 光流。この学校の......そうだね、一応上級生になるのかな?まあ皆入学した年は一緒なんだけどさ。」
そう言ったのは甘い顔立ちの男性だ。ぴっしりとした紺の制服を着ている。体つきはしなやかに見え、まるで猫のようだ。縁の緑色の入校証をつけている。
「あ、どうも。」
「......こんにちわ〜。」
世間でならキャーキャー言われる顔なのだが私の好みではない。美幸も頬を染めようものなら脳が破壊されかねなかったが、寧ろ嫌悪感が滲み出ている。
「ん?あ、いやなんでもない。とにかくこれからよろしくね?所属は......『特殊地下構築物攻略課』?どこだったかな......」
そう言って夜弦先輩は思い返している。
「あ、そうか。ひと月半くらい前に新設された課か。柳沢係長をギャフンと言わせたって有名だったな。」
「あ、それうちの課長です。その時の話すると悶えるのでもしあったら話してやったらどうです?」
「そりゃいいな。桜は僕たちの手の届かないとこに行ってしまったから、話せる時は思う存分弄ってやろう。」
夜弦先輩は快活な笑みを浮かべる。
「おいおい坊ちゃんヨ、なに無知な奴にいらねえこと吹き込んでんだヨ?」
しかしそこに荒っぽい声が現れた。
「......野洲川、少し黙っててくれないか?」
「おーおー嫌だねェ、坊ちゃん様の説教はウザいのなんノ。でも節操がないのがいけねえとこだなァ、彼女持ちさんよォ?」
髪型はブロックヘアーで眼は三白眼。そこに縁が青色の入校証をつけている。そして語尾が鼻につく高さの長袖を着た男性は夜弦先輩に突っかかる。彼女持ちだったのか......
「それは関係ないだろ。僕は彼女達に挨拶してただけだ。」
「ハンッ、そうかよそうかヨ、そいつは結構。だが程々じゃねえとまたヤキモチ焼かれるゼ?」
そう言った野洲川先輩はこっちに近づく。
「テメェラ、所属ハ......『特殊地下構築物攻略課』?おいおイ、うちの係長を負かしたとこかヨ!」
うちの係長?もしかして———
「野洲川先輩って......3係なんですか?」
「おうヨ、『特殊害獣対策課』3係の野洲川 五郎っていうんダ、うちの係長が世話になったみてえだナ。よろしく頼むぜェ?」
凶悪に笑う野洲川先輩。でも、五郎かぁ......
「あらあら、なかなか怖そうに振る舞うじゃない。ご・ろ・う・チャン♪」
今度は女の人の声が聞こえた。着物を着ている簪をつけた高身長の女性だ。顔はとても綺麗。つけているのは縁が黄色の入校証だ。
「おい天音ェ......テメェ何度も言ったよなァ?それをいうのをやめろっテ......」
「ふふふ、怖い怖い。ああ、新人さん達?『特殊害獣対策課』2係のエース、天音 雪と言います。よろしくね?」
天音先輩は私たちに向かってウインクしてくる。その所作の一つ一つがしっかりしている。
「天音さん......少しはしっかりした方がいい。そんな人を煽るような物言いは......」
「おや?確かに私は人を煽るけれど、貴方のカリスマもまた人を煽るものではないの?」
顔を顰める夜弦先輩に、飄々とした顔の天音先輩。またかという顔をする野洲川先輩の3人の間では火花が散っていた。
「その話、某も混ぜてほしいでござる!」
しかしその声が響いた瞬間、その場にいた3人は即座に警戒の視線を声の方向へ向けた。
「......おはようございます。金田チャン。」
「おはようでござる天音氏!某は天音氏の顔が見れて嬉しいでござるよ〜。」
独特な喋り方をするのは太った青いチェック柄の肩掛けバッグを身につけた男性。野暮ったい眼鏡をかけていて、バッグには大量のバッジとステッカーがついている。つけている入校証の色は橙色だ。
「おや?そこにいるのは見知らぬJK......つまり新入生でござるか?某は『特殊害獣対策課』4係の金田 工と申す!これからよろしくでござる〜。」
「あっは、はい。」
「よ、よろしくお願いしますー。」
私たちは戸惑いながら挨拶する。
「うんうん!やっぱりJKは元気なのが一番でござる!野洲川氏も夜弦氏も、皆仲良くするでござるよ〜?」
何?金田先輩が出てくるのは野洲川先輩と夜弦先輩の喧嘩から結構時間が経っている。聞き耳を立てていたのか、それとも、遠く離れていても聞こえたのか。
そのまま金田先輩は先に多目的ホール内に入った。そこで先輩方が詰めていた息を吐く。
「......金田が来ると生きた心地がしねぇナ。」
「五郎チャンと一緒なのは腹立つけど同意よ......」
「そんなこと言っちゃダメだろ......?」
そう言う夜弦先輩も疲弊した顔だ。
「何でも構いませんけれど、そこを退いてくださらない?後が控えていますのよ。」
するとお嬢様口調の女性がやって......いやこれお嬢様そのものだわ。
「あら?誰かと思えばエセお嬢様こと三条院様ではありませんか?お早い到着ですこと。」
「ふふ、そちらこそエセ和服貴人の天音様ではありませんの?いつもの私のためだけに持ってきたお札はいかがなされたので?」
「......アレは、今日は始業式だから持ってこなかったのよ。貴女、絶対休むと思っていたのに......」
「おほほほほ、どうやらその低脳ではわたくしのこの至高の頭脳は見抜けなかったようですわね?その脳を取り替えることをお勧め致しますわ。」
「言わせておけば......!」
ドリル。サイドに作られた金髪のドリルがその目を引く。そしてその碧眼は、わたしたちを見据えた。ちなみにその中でめちゃくちゃアンマッチな入校証の縁は紫だ。
「はじめまして。『特殊害獣対策課』6係の三条院 セレナですわ。以後わたくしの名をその脳に刻みつける権利を差し上げます。光栄に思いなさい?」
「「は、はぁ......」」
これは......また濃ゆい人がやってきた。
そのまま三条院先輩は多目的ホールの中に入ろうと、
「ハーイ!皆さんいかがお過ごしかなー!?世界の宝こと柏田 栓仁の、登!場!でーーーす!!」
そこに響き渡るのは陽気な声。続けて、
「何やってんすか班長。五月蝿いっすよ?」
「そうですよ。もっと黙ってください。」
「ふふふ......寧ろそのまま永久に黙れ......」
という声とともに曲がり角から3人の人物が出てくる。
「え?みんな俺に対して酷くない?」
最初の陽気な声の人物———柏田先輩は赤い髪色で黒い革ジャンに派手なダメージジーンズだ。
その後に続いたのは学生服を着崩した同い年の男子、ぬいぐるみの形のリュックサックの女子、そして、木刀の入った修学旅行でよくお土産になるあの剣のストラップを大量につけたバッグを持つロン毛の男子だ。そして全員が赤い縁の入校証をつけている。
いや———待て、柏田?今、柏田と言ったか?
「いや当たり前でしょ。あんなウザい自己紹介みんな五月蝿いって思うっすよ?」
「そうそう。さっさとお口にチャックするんですよ。なんなら今から『特研課』行って改造してもらいます?」
「くくく......改造費はお前持ちだ......」
「いや酷くね!?あとぜってー改造しないし!」
四人は漫才のような話を続ける。その間に三条院先輩は舌打ちしながら多目的ホールに入って行った。
「あ......えっと......」
「あ、俺さっきも言った通り柏田 栓仁ね。所属は『特殊害獣対策課』1係。これからヨロシクゥ!」
「どうも。同じく1係の美座和 真紀です。今回はうちのクソ班長がすみませんでした。」
「ほんとすみませんっす。同じく1係の池 柳瀬って言います。よろしくっす。」
「ふふ......うちの愚者がすまんな......1係所属......影崎 先夜だ......お前も闇に染まらないか......?」
「えっ.....と、よろしくお願いします。」
「よろしくー......」
なかなか情報量が多く、私たちはオロオロする。
「ほらほらみんな早く!こんなとこに固まってないでさっさと入りましょうよー!」
「あっちョ、てめェ、押すんじゃねェ!」
「あらあらまあまあ......」
柏田先輩に押されて、野洲川先輩と天音先輩は多目的ホールに入って行った。
「あー、なんだか妙なことになったけど......それじゃ改めて、『特殊害獣対策課』5係のエースの夜弦 光流だ。これからよろしくね?ようこそ、『都立櫂然高校』へ。」
そして、夜弦先輩もまた、多目的ホールに入って行ったのだった。
特対課所属内約
1係所属 柏田 栓仁
池 柳瀬
美座和 真紀
影崎 先夜
2係所属 天音 雪(八千代の元先輩)
3係所属 野洲川 五郎
4係所属 金田 工
5係所属 夜弦 光流
6係所属 三条院 セレナ
特攻課所属 志野 紗綾香
澤田 美幸
特研課所属 華名木 湯地
特装課所属 柏田 貴志
なんか色々濃いメンツが出ましたが彼ら彼女らとの絡みは今章ではあんまり......ですかね。




