第二十一話 見舞
「美幸......大丈夫かな......?」
私は美幸の家に行きながら思う。美幸は今日の学校に体調を崩して来なかった。
私はそれを聞いてお見舞いに行かなきゃいけないと思い、近くのコンビニでゼリーを買って美幸の家に行くことにした。
「よし......ついた。」
私は玄関のチャイムを押す。少しすると美幸のお母さんが出てきた。
『あっ、紗綾香ちゃん。久しぶりね。今日は何しにきたの?』
「お久しぶりです、美幸のお母さん。今日は学校に美幸が来なかったので、そのお見舞いにと。」
『あらそうなの......でもごめんなさいね、今美幸と莞爾さんは病院に行って今はいないの。』
「あ、そうですか......」
私は落胆する。だがいい、今日でなくともお見舞いに行くことはできるし、美幸が学校に来れば挨拶できる。あんまりにも病状が悪いわけでないのなら今週末の終業式には来るだろう。
『あ、待ってちょうだい。今莞爾さん帰ってきてるみたいだから、上がって待たない?』
「え?いやでも......」
『大丈夫よ。どうかいらっしゃい。』
こう言われてしまっては好意を無碍にすることなどできない。そう思った私は大人しくお世話になることにした。
「ありがとうね紗綾香ちゃん。ゼリーまで持ってきてくれちゃって......」
「いえ、そんな......」
澤田家は二階建ての結構大きな家で、最低限の部屋しかない私の家とは大違いだ。
「でも何があったのかしらねぇ......夢の内容があんまりにも悪すぎたのかしら?」
「夢......?ですか?」
夢とは一体どういうことなのか?私は訪ねる。
「そう。あの子、悪夢を見ちゃったみたいでね?すごく大きな声で叫んでて、それはもう怖い夢だったのでしょうね......」
「それは......」
どうやら美幸が見た悪夢が体調を崩した原因と思っているらしい。しかし、夢だけで体調を崩すほどなのだろうか?
その時、玄関の扉が開く音がした。
「ただいま、伶菜さん。」
「ただいまお母さんー。......あれ?紗綾香?」
美幸は私を見て驚いた顔をしている。ただ、その顔は青褪めている。
「大丈夫?美幸。」
「うん......大丈夫ー......」
そう美幸は言うがどう見ても大丈夫ではない。しかし美幸が大丈夫と言う以上、私には何も言えないのかもしれない。
「......ううん、やっぱり紗綾香にだけは言ってもいいかなー。」
「え?」
しかし美幸は私の方を向き、
「私の部屋に一緒に来て?」
と言ってきた。私は戸惑うが首肯する。
「いらっしゃいー。」
美幸の部屋はぬいぐるみが結構あってファンシーな感じがある。女の子の部屋を体現していて私の本ばかりの部屋とはかなり違う。
「はい、座ってー?」
「う、うん。」
美幸はベッドに腰掛けるので私もベッドに腰掛ける。
「えへへ〜。」
美幸は笑っている。ただ、その顔は依然として青いままだ。
「美幸......その、さっき『言ってもいいかな』って言ってたけど、なんだったの?」
私は早速本題に入る。すると美幸は、
「あ......うん......」
と言って俯いた。そのまま二人とも喋らない時間が続く。
「......みゆ」
「あのね。」
私が話しかけようとした時、美幸は話し始めた。
「すごく、怖い夢を見たの。」
「怖くて仕方がない夢。その夢には怖い人が出たの。」
「その人の全部が怖くて、怖くて怖くて......」
「でもね、その夢の中で一番怖かったのはね?」
「私が、その人の首を絞めたことなの。」
え......?
「勿論、夢なのはわかってる。」
「でもね?夢っていうのは過去の出来事の編纂とか、自分の願望の成就だから。」
「だから......私は、ひ、人を殺したがってるって、ことに......」
「美幸!」
私は美幸を抱きしめる。美幸は体を震わせている。
「紗綾香......紗綾香......怖いよ......私が怖いの......」
美幸が私に対して囁く。
こんな時、どんな言葉を掛ければいいだろうか?私にはわからない。
それでも何か声をかけるべきだと思い、美幸の背を撫でながら話す。
「美幸、それじゃあその夢を見たのは私のせいなの。」
「え......?」
私自身もなにをいっているんだ?と思うが、それでもおそらくこれが正しい。
「私のせいで美幸はそんな夢を見たの。美幸は悪くない。私が悪い。」
「で、でも......」
私は美幸に言う。美幸は戸惑っている。
「美幸は優しいからそんな夢見ないしそんな願望ないはず。だからこれは私が見せた夢なの。」
「紗綾香が......」
「そう、だから美幸が悪い夢を見たのは私のせいで、もしこれからも悪夢を見るようならそれは全部私のせい。」
「もしも美幸が誰かを傷つけたり、殺しちゃったりしたとしても......」
「それは、ぜーんぶ私が悪いんだから。」
私がやったのは、免罪符を与えること。
自責の念で押しつぶされないように、どこかに責任の持って行き場を作ること。
「全部......紗綾香が......」
少なくとも......これで美幸が救われればいいのだけれど。
<特定行動を確認......聖典スキル〔安息〕のlvが上がりました。>
......?聖典スキル?そんなスキルを私は持っていたか?
「......ありがと〜紗綾香。」
そうして顔を上げた美幸の目はトロッと蕩けたようだった。
私は顔を赤面させる。いつもは可愛いけど......これは、あまりにも扇情的というか......
「良かった......それじゃあまたね?」
「うん、バイバーイ。」
そうして、私は澤田家を後にした。
§
紗綾香が出て扉が閉まる。
「はぁぁ......」
私は息を漏らす。ただし溜息ではなく熱のこもった息だ。
「紗綾香......すごかったなぁ......」
私は紗綾香が好きだ。紗綾香に抱きしめられればドキドキするし、顔が近ければそういうこともあるかも?と期待する。
しかしさっきの紗綾香は違う。あの紗綾香には人とは思えないような『神聖さ』があった。
なるほど、確かに職業『聖職者』にふさわしいと思う。
「あんな紗綾香の言うことに......間違いなんてないよね......」
私はそう思う。
<特定感情を確認......冒涜スキル〔盲愛〕のlvが上昇しました。>
ああ......そういえばそういうスキルもあった。そういえばなぜ消えていたのだろう?
「まあ......いっか......」
そして私は秘所に指を持っていく。
「ん......紗綾香......紗綾香ぁ......」
そのまま、私は一人で楽しみ続けた。
思い返すと、この時、私の中には二つの相反する感情があった。
一つは、紗綾香を崇め、奉り、神聖で汚れなきものにしたいという感情。
そして、もう一つは。
紗綾香を、私だけの、私のみの色で染め上げ、穢したいというものだった。




