第十九話 転校
「転校......?」
私は耳を疑う。何か冗談を言われた気がしたからだ。
しかし、八千代課長は至って真面目な顔で続ける。
「はい。今いる学校から、新しい学校に籍を変えてほしい、ということです。」
聞き間違い、ではない。
「進学先は用意させていただきますし、最終学歴は大学卒になります。就職先は公安局となりますのでキャリアについてはご心配なく。ただ、その学校は『特異能力保有者』のみが在籍しており、学校に通うこともできますが基本は『特殊地下構築物攻略課』の都合を優先して頂くことになります。しばらくは人数も少ないので、学校や大学に通うことは困難かと。」
八千代課長は淡々とした物言いだ。
だが、転校だ。学校を変えるというあまりにも大きな選択を前に、私たち二人は戸惑っていた。
「私は別に構わない。」
しかし、五十嵐さんは即座に返答する。
「......なんでかしら?五十嵐さん。」
「私は今の大学のことを好きになれないから。」
それっきり、五十嵐さんは黙ったままだった。
「......私も、構いません。」
そう私が言うと、美幸は驚いた顔をした。
「紗綾香ー......?」
「美幸、私は......ここに、いる。」
なぜそうするのかはわからない。ただ、なんとなくそうするべきだと思ったのだ。
「.......紗綾香が構わないなら、私も構わないよー。」
最後に美幸も首を縦に振った。
「......わかりました。それでは後ほど書類をお渡しします。保護者の方の押印は不要ですので、よろしくお願いします。
また、転校といってもすぐにと言うわけにはいきません。九月から指定の学校に通って頂くので、準備などが有ればなるべくお早めに。」
八千代課長はゆっくりと、絞り出すように言った。
重たい空気が満ちる。
「よし!桜ちゃん、こういう時はパーっと酒でも飲みましょうか!」
その雰囲気をぶち壊しにしたのは優希課長秘書だ。
「えっ、紗枝さん今の時間からですか?ていうかあたし未成年って何度言いました?」
「バレなきゃ大丈夫よ!そもそも私らの課は超法規的な存在なんだからヘーキヘーキ!」
「いや全く良くないですよ!?」
私たちは二人のやりとりを呆然と見る。
......ああ、そうか。この二人は私たちのために、空気を軽くしてくれたのか。
「そもそも奢りとは言いましたけど、紗枝さんの酒代は払う気ありませんよ!?」
「ええ〜、ただ酒美味しいのに〜。他人の金で飲む酒は最高なのに〜。」
優希課長秘書は八千代課長に対して抱きつこうとする。八千代課長はそれをグイグイと押しのけようとする。
「......ふふっ。」
すると、ハスキーボイスの笑い声が聞こえた。斜め前を見ると五十嵐さんが口元に手を当てて笑っている。
わたしたちも笑いたい。横に目を向けると美幸と目があった。
「ふふっ。」
「えへへっ。」
なんだかおかしくなって、二人とも笑う。
そのまま私たちは、笑顔で二人の小芝居を眺めていた。
「桜ちゃん〜お願いだから〜、課長としていいとこ見せたいんでしょ〜?」
「それとこれとは話が別です!」
......いやこれ芝居だよね?
今日のところは解散になった。私は家に帰る。
一体どうなるのかわからない。だが、それでも悪いことばかりではない筈だ。
そして私は家に着く。そして扉を開けて、
(......ん?鍵が開いている?)
「遅かったな。」
そこには、人が立っていた。
スーツを着た、人だ。威圧感のある人で、怖い人だ。
「と......うさ、ん......」
「中に入れ。話を聞かせろ。」
そう言って私の父、志野 善弥は家の奥へ進んでいった。
八千代課長は『特対課』にいた時は週4で学校に通っていました。ちなみに説明の時淡々としてたのは当時自分が説明された内容を思い返してなぞっていただけだからです。




