第十八話 豚揚
今回明確にこれ違くない?と言う描写がありますが意味はあります。
「ありがとうございますっすー!またのお越しをー!」
そう言って柏田は私たちを見送った。
「うう......恥ずかしい......」
「八千代課長?もう諦めたらどうですか?」
八千代課長は俯きながら歩く。顔を見なくても赤くなっているのがよくわかる。
「八千代課長かっこよかったよねー紗綾香ー!」
「そうだね、美幸。」
「もう......!」
私たちは八千代課長を揶揄うように褒める。いや、実際からかっているのだが。
「......」
だが、そんな中一人重い空気の女性がいた。優希課長秘書だ。
「優希課長秘書?」
「あっ......いえ、なんでもないのよ?なんでも......」
なんでもないようには見えない。しかし追求するのは良くない気がする。
五十嵐さんもそう思っているのか〔心情察知〕でわかる筈なのに詳しく聞くことはなかった。
「紗枝さん。」
「ッ。桜ちゃん......?」
その時、八千代課長はどんな表情をしていただろう。私にそれを見ることは叶わなかったが、優希課長秘書の方は叱られる子供のような顔をしていた。
「大丈夫ですよ。」
「あ......」
その言葉にどれほどの重みがあったのかは私にはわからない。ただ、
「ごめんなさい......」
そう言いながら優希課長秘書が涙したことだけは確かだった。
§
「みっともないとこ見せちゃったわね。」
顔を上げた優希課長秘書は元の顔に戻っていた。
「いえ......平気ですよ。」
「そう?ありがとうね。」
優希課長秘書は続ける。
「そろそろお昼ね。みんなで食堂に行きましょうか!」
「うわぁ......!」
そこにあったのは照り輝くような色をしたトンカツ。私は思わず声を漏らした。
「ふふっ、どうかしら?」
どうかしらかと聞かれれば匂い、外見、そして量の三つとも満点に決まっている。
「すみません、紗綾香トンカツがすごい大好きで......」
美幸がそう謝っているがなぜ美幸が謝っているのか?定食メニューにトンカツがあったら私がトンカツを選ばない理由はないと思う。
ちなみに料金は八千代課長の奢りだ。「課長っぽいとこ見せたいですし、今日くらいはパーッと言ってもいいと思うので。」とのことだ。
「そういう美幸こそ、ハンバーグ定食あったけど頼まなくてよかったの?」
「ガハッ......こ、今月は油物多かったから......が、我慢するんだもん......!」
そう言って美幸はシーフードサラダを前に震える。かわいい。
「あ、別に今日くらいは大丈夫だと思いますよ?どうせ訓練で痩せますし。」
「えっマジで!?」
親子丼を食べる八千代課長の返答に対して美幸は速攻で反応し、ハンバーグ定食を頼みに行った。どうやら免罪符が効いたようだ。
「あの......八千代課長、訓練って......」
「ああ、その説明もしなきゃですね。」
美幸が注文に向かっている間に、私は八千代課長に問いかける。
「まあ、渡した武器防具の類を簡単に操れるわけじゃないので、今度から皆さんには訓練を受けてもらうことになるんですよ。」
「あー......」
成程、確かにそうだ。ステータスがあるとはいえ、技術の方は別。ちゃんとした姿勢でちゃんと使わなければ装備というのはうまく作動しない。
「あの、でも私たち———」
「お待たせ紗綾香ー!」
と、ここで注文を終えた美幸がやってくる。
「おかえり美幸。」
「ただいまー、えへへ、ハンバーグ定食ハンバーグ倍で頼んじゃったー!」
八千代課長と焼肉弁当を食べる優希課長秘書がギョッっとする。美幸の胃袋は虚空なのだ。本人が太るの嫌だからあんまり食べないだけで。
「す、凄いですね......」
「あ、八千代課長。ご馳走様になります!」
美幸は八千代課長に対して手を合わせ頭を下げる。
「いいですよ、本当に......それで?志野さんの方は何か聞きたいことがあったんじゃないですか?」
「あ、はい。えっと、私たちって学生なんですけど、でもダンジョン攻略したり、訓練したり......色々やってると、時間足りなくないですか?」
私は八千代課長に聞く。すると八千代課長は、
「あー、その件......その件ですよねぇ......」
と言い淀んだ。何かやましいことがあるのだろうか?
そのまま八千代課長はうーん、うーんと唸っていたが、やがて意を結したかのように私たちの方を向いた。
「これから、みなさんには今いる学校、大学を転校していただきます。」
そして、八千代課長はそれを言った。




