第3話 練習
土曜日。
公園の入り口で、七瀬栞は周囲を見回していた。
「……あ、来た」
少し離れたところから、結城奏多が歩いてくる。
「おーい!」
「結城くん、おはよ」
「おはよう」
二人は簡単に挨拶を交わす。
奏多が公園を見回した。
「で、今日は何するの?」
栞は笑って、手にしていたスマホを見せる。
「もちろん、スマホの練習!」
そして――
「じゃあ始めよ!」
栞が操作すると、二人の視界にフィールドが展開される。
現実の公園に重なるように、競技の空間が表示された。
「これが……フィールド?」
「うん」
奏多は辺りを見回す。
普段見ている公園とは違う。
ゴーグル越しに見える世界には、競技のための情報が重なっている。
「すげぇ……」
思わず声が漏れた。
「ここがスマホルで戦う場所なんだ」
奏多は少し歩いてみる。
視界に広がるフィールド。
これから自分が、この中で戦う。
そう思うと、自然と胸が高鳴った。
「次はUIね」
栞が説明する。
奏多の視界に、競技に必要な情報が表示される。
「これがGBで……」
栞が順番に説明していく。
「こっちが武器の耐久」
奏多は表示に触れるように指を動かした。
「へぇ……」
画面上の情報が、自分の動きに合わせて反応する。
奏多はしばらく眺めていた。
「すげぇ。」
短い言葉だった。
でも、その顔は明らかに楽しそうだった。
「じゃあ、これ持って」
栞がグリップを渡す。
奏多は受け取る。
「これがスマホのグリップ?」
「そう」
手に持って、感触を確かめる。
「……思ったより普通だな」
「競技機だからね」
グリップは武器そのものではない。
AR武器を扱うための競技機。
奏多は握り直した。
「こうやって持つの?」
「うん。武器によって持ち方も変わるよ」
「へぇ……」
奏多はグリップを眺める。
まだ何も知らない。
けれど、これからこの小さな競技機を使って戦う。
そう考えると、また少しワクワクしてきた。
「あと、これがバッテリー」
栞が腰のユニットを示す。
「グリップとセットで使うの」
「じゃあ、これが電源?」
「それだけじゃないよ」
「え?」
「被弾判定とか、ギガの管理とか、武器のエネルギー管理とか。スマホの競技システムの中核なんだって」
「……そんなに?」
奏多がバッテリーを見る。
ただの電源だと思っていた。
「武器変更もバッテリーから操作するよ」
「武器変更も?」
「うん」
奏多は少し考える。
「じゃあ、これがないと何もできない?」
「そういうこと」
「なるほど……」
奏多はバッテリーを見つめた。
「すげぇ装置なんだな」
栞が頷く。
「じゃあ、武器を選ぼうか」
栞がアプリを操作する。
武器一覧が表示された。
ブレード。
大剣。
ライトシューター。
ガトリング。
シールド。
ランス。
大鎌。
ニンジャ。
「こんなにあるのか……」
奏多は一覧を眺める。
「最初はブレード・シールド・ライトシューターが無難かも」
「三つ?」
「試合前に三種類設定するの」
奏多は少し悩んだ。
そして――
「じゃあ、これで!」
自分の使う武器を決める。
三種類の武器が登録される。
「よし」
「じゃあ、出してみよう」
奏多がグリップを握る。
すると――
目の前にAR武器が現れた。
「……!」
奏多の目が見開かれる。
「これがブレード」
栞が説明する。
奏多は自分の手元に現れたAR武器を見る。
現実には存在しない。
それでも、ゴーグル越しには確かにそこにある。
「構えてみて」
「こう?」
奏多が構える。
そして、ゆっくり振ってみる。
ヒュッ。
「おぉ!」
思わず声が出る。
「本当に武器みたいだ……!」
栞は笑った。
「リアルでしょ」
奏多はもう一度振る。
「おぉ!」
完全に楽しんでいた。
「じゃあ、実際に当ててみよう」
栞が少し離れる。
奏多も構える。
「いくぞ!」
振り抜く。
しかし――
空振り。
「……あれ?」
栞が笑う。
「全然届いてないよ」
「マジか」
奏多は少し恥ずかしそうに構え直す。
今度は距離を詰める。
「もう一回!」
振る。
今度は――
命中。
「おぉ!」
グリップから振動が伝わった。
「当たった!」
「うん」
奏多は嬉しそうに武器を見る。
ガード
「じゃあ、次はガード」
栞が構える。
「え?」
「攻撃するね」
栞が踏み込む。
奏多は反射的に武器を構えた。
ガード。
「……!」
攻撃を受け止める。
「できた!」
「うん。でも、ガードにも武器耐久を使うからね」
「え?」
奏多が武器を見る。
「そこも考えないといけないのか」
「そう」
奏多は少し真剣な顔になった。
それから二人は、何度も攻防を繰り返した。
攻撃。
ガード。
距離を取る。
また踏み込む。
最初はただ振っていただけだった奏多も、少しずつ相手との距離を考えるようになる。
「今の惜しかった!」
「でしょ?」
奏多が笑う。
栞も笑顔になる。
ほんの少しずつ。
奏多の動きが変わっていく。
「ほら、見て」
栞が奏多の視界を指す。
「武器の耐久、減ってるでしょ?」
「……あ」
奏多がUIを見る。
攻撃を受けたことで、武器の耐久が減っている。
さらに攻撃を受ける。
AR武器の表示も変わる。
「赤くなった!」
「もうかなり減ってるね」
「これ、ゼロになったら?」
栞は答える。
「壊れるよ」
「えっ」
次の一撃。
奏多の武器が大きく弾かれ――
消滅した。
「えっ!」
奏多が固まる。
さっきまで手元にあったAR武器が、なくなっている。
「武器、壊れた?」
「うん。耐久がゼロになったから」
「じゃあ、もう使えない?」
「その武器をもう一度生成すればいいの」
奏多は消えた武器のあった場所を見る。
「……なるほど」
ただ攻撃するだけじゃない。
武器の耐久も管理しなければならない。
奏多は少しずつ、スマートホルスターという競技の奥行きを理解し始めていた。
「それと、武器じゃなくて本体に攻撃が当たると――」
栞が攻撃する。
「うわっ!・・・痛くはない・・・」
奏多の視界に表示されている数値が変化した。
「ARだからね。ギガが減る」
「ギガ?」
「うん」
奏多が表示を確認する。
「これがゼロになったら負け?」
「そう」
奏多は頷いた。
武器には耐久。
自分にはギガ。
そして武器を使うには、武器ごとのエネルギー管理もある。
「……考えること多いな」
「だから面白いんだよ」
「じゃあ、最後にアプリのおさらい」
栞がスマフォを操作する。
「試合前に、使う武器を三種類設定するの」
画面には三つの武器が登録されている。
「それを①②③に自由に配置できる」
「じゃあ、好きな順番にできるんだ」
「そう」
奏多は画面を覗き込む。
「で、試合中はどうやって変えるんだ?」
「バッテリーを使うの」
「さっき言ってたやつね」
「うん」
「やってみよう」
奏多がバッテリーを操作する。
武器変更モード。
そして、選択した位置を押す。
対応する位置を握る。
すると――
AR武器が生成される。
「おお!」
奏多が構える。
すぐに攻撃へ移る。
栞の攻撃。
奏多はガード。
そして、また武器変更。
今度は別の武器へ。
「なるほど!」
さっきまでよりも、明らかに動きが良くなっている。
「慣れてきたね」
「これ、面白いな!」
奏多は笑った。
「じゃあ……最後に、ちょっとだけ模擬戦してみようか」
栞が構える。
その表情が変わった。
「……え?」
次の瞬間。
栞が踏み込む。
「速っ!」
奏多は慌ててガードする。
しかし、続く攻撃。
奏多は下がる。
武器を変える。
攻撃する。
だが――
栞の一撃が奏多を捉える。
「――!」
奏多が動きを止める。
栞はそこで武器を下ろした。
「今日はここまで」
「……はぁ……」
奏多は息を切らしている。
「思ったよりやれるかも……」
栞は笑った。
しばらくして。
奏多はベンチに座り、大きく息を吐いた。
「疲れた……」
「初日だからね」
栞が笑う。
「でも、明日は大会だよ」
「……明日か」
今日覚えたこと。
フィールド。
UI。
グリップ。
バッテリー。
武器。
耐久。
ギガ。
アプリ。
まだまだ分からないことはある。
それでも――
奏多は少しだけ笑った。
「……まあ、やってみるか」
栞も笑う。
「大会参加よろしくね」
「わかった」
奏多が頷く。
栞が嬉しそうに笑った。
「よし!」
そして奏多は思い出す。
「そういや、キーホルダーも貰えるんだよな」
「うん!それが欲しいの!」
「任せといて!」
二人は笑った。
――翌日。
大会会場。
昨日までとは違う空気。
参加者たち。
会場の雰囲気。
そして、これから始まる大会。
その光景を前にして、奏多は立ち尽くしていた。
「…………」
本当に、自分がここにいる。
奏多は隣を見る。
栞はいつものように笑っている。
奏多は小さく呟いた。
「本当に出るのか……。」
栞は笑顔で答えた。
「大丈夫!」
初めての大会。
奏多の初めてのスマートホルスターが――
始まる。




