表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/8

第2話 初参加限定

翌日。


「昨日の決勝、すごかったですね!」


 部室に森下の声が響いた。


 森下はスマホ部の2年でそれなりの実力者だ。


 少し調子者な所が欠点だ。


「黒瀬先輩、あの最後のフェイント! あれ、めちゃくちゃカッコよかったです!」


「いやー、あれは読めないですよ!」


 部員たちが口々に昨日の試合を振り返る。


 その中心で、黒瀬は少しだけ得意げな顔をしていた。


 当然だ。


 昨日、決勝戦を制したのは黒瀬なのだから。


 そんな盛り上がりを、顧問の篠宮先生は黙って聞いていた。


 そして――


「いや」


 その一言で、部室の空気が変わった。


「あれは相手が弱かったな。」


「は?」


 黒瀬の顔から笑みが消える。


「いやいやいや!」


 森下が慌てて声を上げる。


「昨日の相手、決勝まで勝ち上がってきてるんですよ!?」


 栞も呆れたように先生を見る。


「……また始まった」


 先生は気にした様子もない。


「事実だ」


「先生、そういう言い方するから……」


 栞はため息をつくと、鞄からスマートフォンを取り出した。


 このままでは話が終わらない。


 いつものことだ。


 ならば――


「大会でも探そうかな」


 栞は画面を操作し始めた。


「おっ」


 検索結果が表示される。


 大会一覧。


 開催予定の大会がずらりと並んでいる。


「……これ」


 栞の指が止まった。


「細掘町大会?」


 詳細ページを開く。


 開催日。


 参加条件。


 会場。


 そして――


『記念キーホルダー』


「……」


 栞の目が輝いた。


 画面に表示されたのは、小さなスマホルのキーホルダーだった。


「かわいい!」


 思わず声が出る。


「え?」


 部員たちが一斉に栞を見る。


「これ欲しい!」


 栞は画面を見せながら言った。


 黒瀬は画面を覗き込む。


「俺は無理だな」


「え?」


「そのキーホルダー、初参加限定だ」


「……」


 栞の動きが止まった。


「初参加……?」


「ああ」


「じゃあ私も無理じゃん……」


 がっくりとうなだれる。


 しかし。


「ちなみに」


 篠宮先生が口を挟んだ。


 先生はポケットに手を入れる。


 そして――


 取り出した。


 同じキーホルダーを。


「あるーー!!」


 栞が飛びつくように反応した。


 先生は得意げな顔をしている。


「……やらんぞ」


「ください!」


「やらん」


「くださいよぉ!」


「やらん」


「先生ぇ!」


 栞がふくれる。


 先生はキーホルダーを握ったまま、まったく譲る気がない。


「てか先生、なんで持ってるの?」


 栞がふと疑問を口にした。


「先週」


「先週?」


「大会に出た生徒にもらったんだ。」


「……」


 栞が固まる。


 栞は先生を指差した。


「ずるい!」


「何がだ」


「私も欲しい!」


「なら大会に出たことないやつでも見つけるんだな」


「……」


 栞が考える。


 大会。


 初参加。


 キーホルダー。


 そして――


「あ」


 突然、何かを思い出したように声を漏らした。


 部員たちが栞を見る。


「……そういえば」


 栞の頭に、昨日の光景が浮かんだ。


 七瀬家。


 修理に来ていた少年。


 そして――


『スマホルやったことないです』


「まだ初参加!」


 栞が立ち上がった。


「何が?」


 森下が聞く。


「結城くん!」


「だれ?」


「昨日うちにドアの修理に来た隣のクラスの子!スマホやったことないって言ってた!」


 栞はスマートフォンを握る。


「やったことないなら、初参加!」


「……なるほど」


 森下も納得する。


「じゃあ一緒に大会に出れば、キーホルダーももらえるってわけね」


「そう!」


 栞の目が輝く。


「探そう!」


     *


 翌日。


 放課後。


 学校の校門前。


 栞は一人で立っていた。


 腕時計を見る。


 まだ来ていない。


 少し待つ。


 もう一度見る。


「……まだかな」


 落ち着かない。


 校門から出てくる生徒たちを、一人ずつ確認する。


 違う。


 違う。


 違う。


「あっ」


 いた。


 見覚えのある姿。


「結城くん!」


 栞が駆け寄る。


 奏多が振り向いた。


「あ」


 少し驚いた顔。


「こんにちは」


「こんにちは」


 二人とも、前に会った時と同じように挨拶する。


 ほんの少しだけ、間があった。


「この前はどうも」


「いえいえ」


 奏多が笑う。


「七瀬さん、この学校だったんだね」


「うん」


 少しだけ会話をする。


 そして――


 栞は本題を切り出した。


「結城くん」


「ん?」


「今度の日曜日、スマホの大会に出ない?」


「いや」


 即答だった。


「……」


 栞の顔が固まる。


「……いや?」


「うん」


「なんで?」


「いや、特に理由はないけど」


「理由ないのに断ったの!?」


「だって、やったことないし」


「だからやるの!」


 栞の勢いに、奏多が少し後ずさる。


「結構楽しいぞ」


 そこへ声がした。


 黒瀬だった。


 いつの間にか近くにいた。


「黒瀬先輩?」


「スマホは、やってみれば分かる」


 奏多は黒瀬を見る。


 昨日、街頭モニターで見た人物。


 決勝戦を勝った選手だ。


「あ……昨日の」


「知ってるのか?」


「街頭モニターで見ました」


 黒瀬は少しだけ笑った。


「なら話は早い」


 栞も横で期待に満ちた顔をしている。


 奏多は二人を見る。


 興味がないわけではない。


 昨日の試合は、確かに凄かった。


 ただ、自分がやるとなると話は別だ。


「でもなぁ……」


「一回だけでも」


 今度は別の声。


 篠宮先生だった。


「先生まで……」


「一回やってみて、つまらなければやめればいい」


 奏多は黙った。


 少し考える。


 一回だけ。


 それなら――


「……一回だけなら」


「やった!」


 栞が飛び跳ねる。


「土曜日!」


「土曜日?」


「ルール教えてあげる!」


 栞は嬉しそうに笑った。


「スマホ、何も知らないんでしょ?」


「はい」


「じゃあ私が教える!」


「お願いします」


 奏多も笑う。


 こうして。


 結城奏多の、初めてのスマホが決まった。


 夕焼けに染まった校門。


 栞は奏多の前で、満面の笑みを浮かべていた。


「絶対面白いから!」


「……」


 奏多は、その言葉を聞きながら空を見上げた。


 まだ、この時は分からない。


 自分がどれほどこの競技に夢中になるのか。


 そして――


 この一歩が、これから始まる物語の最初の一歩になることも。


 夕暮れの校門に、二人の影が長く伸びていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ