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第17話 2週間ぶりのスマホ

家に帰ると、奏多はすぐに電気屋の袋を自分の部屋へ持ち込んだ。


机の上に置き、袋から箱を取り出す。


何度もネットで見ていたものだ。


店頭でも触った。


それでも、自分の部屋に置かれた新品の箱は、まるで違って見えた。


奏多は少しだけ眺めてから、箱を開いた。


「……おぉ」


中から新品のスマホを取り出す。


手に持つ。


握ってみる。


自分のものだと思うと、それだけで妙に嬉しい。


奏多はスマフォを取り出し、同期を始めた。


画面の案内に従いながら設定を進める。


アカウントを確認して、装備設定を確認して――。


やがて、同期完了の表示が出た。


「よし」


奏多は改めてスマホを見る。


ここでARまで展開してみたい気持ちはあった。


けれど、それは明日まで取っておくことにした。


代わりに、スマホを腰へ装着してみる。


位置を少し直す。


腰に収まったそれを見下ろし、グリップへ手をかける。


抜くわけでもない。


ただ、触ってみる。


「……へへ」


自然と口元が緩んだ。


翌朝。


制服に着替えた奏多の腰には、もうスマホがあった。


そのまま学校へ向かう。


教室へ入り、自分の席へ。


隣の席の男子が奏多を見た。


いつものように視線を向け――ふと、その目が奏多の腰で止まった。


スマホ。


それから奏多の顔を見る。


何も言わなかった。


ただ、少し嬉しそうに笑った。


奏多も特に何も言わず、自分の席に座った。


放課後。


ここ数日、家の仕事へ向かっていた奏多は、久しぶりにスマホ部の部室へやってきた。


扉を開ける。


「こんにちはー」


「あ、結城くん。久しぶ――」


栞の言葉が途中で止まった。


視線が、すっと下がる。


奏多の腰。


「あっ!」


栞が目を見開いた。


「スマホ!」


「うん。昨日買った」


「えっ、じゃあ最近ずっと家の仕事行ってたのって……」


奏多は腰のスマホに手を添えた。


「うん。これ買いたくて」


「そうだったんだ!」


栞がぱっと笑う。


その声に、黒瀬や森下たちも奏多の腰へ目を向けた。


「おー」


森下が少し感心したような声を出す。


奏多は改めて先輩たちを見た。


それから、少し姿勢を正す。


「改めて、今日からよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げる。


今までも部員だった。


練習にも参加していた。


試合だってした。


けれど、自分のスマホを腰につけてここに立つと、何かが少し違って感じた。


練習場へ移動すると、奏多はARグラスを装着した。


いよいよ、自分のスマホを使って練習できる。


そう思いながら顔を上げる。


「……ん?」


奥に誰かいる。


二年生の男子だった。


真面目そうな雰囲気の先輩が、何もない空間に向かってグリップを振っている。


一度。


止まる。


また振る。


今度は少し角度を変える。


また止まる。


奏多には、何をしているのかまるで分からない。


ただひたすら、虚空へ向かってグリップを振っていた。


先輩も奏多に気づいた。


「ああ」


軽くグリップを下ろす。


「二年の柴田圭介だ」


「一年の結城奏多です」


互いに簡単に名乗る。


そして奏多は、やはり気になってしまった。


柴田がさっきまでグリップを振っていた場所を見る。


何もない。


「……何してるんですか?」


「トレーニングだが?」


柴田が答える。


奏多は首を傾げた。


「……?」


柴田も首を傾げる。


「……?」


二人の間に、妙な沈黙が流れた。


少し離れたところにいた森下が、その様子を見ていた。


「あぁ」


何かに気づいたように声を上げる。


「二人まだフレンド登録してないから見えないんだ」


「え?」


「柴田のやつ。結城には見えてないんだろ?」


奏多はもう一度、柴田の前を見る。


「何もないです」


「なるほど」


柴田もようやく納得した。


二人はその場でフレンド登録を済ませた。


その瞬間だった。


奏多の視界に、さっきまで存在しなかったものが現れた。


柴田のグリップから伸びるAR武器。


そして、その正面に立つトレーニング用のターゲット。


「あ、見えた」


奏多がターゲットを眺める。


「ターゲットだ」


柴田が言った。


「みんなカカシって呼んでる」


「カカシ……」


奏多はじっと見る。


どこか特徴のある姿。


初めて見たはずなのに、妙な引っかかりがあった。


(……このカカシ、どこかで見たことあるんだよなぁ……)


考えてみる。


けれど、思い出せない。


「結城もトレーニングモード起動してみろ」


柴田に言われ、奏多は考えるのをやめた。


「はい」


スマフォを取り出し、トレーニングモードを起動する。


すると奏多の正面に、自分用のカカシが現れた。


柴田がそれを見る。


「起動した位置を基準に出る」


奏多が周囲を確認する。


「スマフォから位置はリセットできる。邪魔にならないところでな」


「なるほど」


奏多は少し場所を移動し、カカシの位置を整えた。


これでいい。


グリップを握る。


そして――初めて、自分のスマホから武器を生成する。


選んだのは大剣だった。


ARの巨大な刃が現れる。


奏多は一度それを見てから、正面のカカシへ向き直った。


「じゃあ……」


とりあえず、振ってみる。


大剣がカカシを通過した。


その直後。


奏多のARグラスから、声が聞こえた。


『ん? 何か通った?』


「……?」


思わず奏多が止まる。


すると柴田が言った。


「『ん? 何か通った?』って言われたろ?」


「はい」


奏多は柴田を見る。


「なんで分かるんですか?」


判定の声は、自分にしか聞こえていなかったはずだ。


柴田は自分のカカシを指した。


「俺のカカシの音声をオンにしてみろ」


奏多はスマフォを操作した。


柴田のカカシの音声を聞こえるように設定する。


「できました」


「じゃあ、見てろ」


柴田が構えた。


先ほどまでと変わらない、真面目な顔。


一振り。


『うわぁお!』


「……」


奏多が瞬きをする。


柴田はもう次を振っていた。


角度を変えて。


『うわぁお!』


今度は反対側から。


『うわぁお!』


また。


『うわぁお!』


柴田本人は、いたって真剣だった。


ただ淡々と、いろいろな角度からカカシへ武器を振っていく。


そのたびに。


『うわぁお!』


『うわぁお!』


『うわぁお!』


奏多は思わず柴田を見つめた。


やがて柴田がグリップを下ろす。


「この反応を毎回出せるように素振りするんだ」


「毎回……」


「いろんな角度でな」


「なるほど……」


奏多は納得して、自分の大剣を構え直した。


ただ振るだけではない。


どんな振り方でも、きちんと同じ反応を出せるようにする。


柴田がやっていたのは、そのための反復練習だった。


奏多もカカシを見る。


今度は少し意識して――。


「結城くん」


「あ」


後ろから声がした。


栞だった。


「あ、やってるねー」


練習場へ入ってきた栞は、奏多の前にあるカカシを見る。


そして、何かを思い出したように目を輝かせた。


「あ、そうだ。結城くん、この前のキーホルダー持ってる?」


「持ってますよ」


奏多はポケットを探り、以前大会でもらったキーホルダーを取り出した。


栞はそれを見て、嬉しそうに奏多のところへ寄ってくる。


「ちょっとスマフォ貸して」


「はい?」


言われるまま渡す。


栞はスマフォとキーホルダーを使って、何やら設定を始めた。


ほどなくして――。


「ほら!」


奏多のカカシの見た目が変わった。


色が変わっている。


表情も違う。


奏多は手元のキーホルダーを見る。


そして、目の前のカカシを見る。


「あぁ!」


ようやく繋がった。


「これか。どこかで見たことあると思ってた」


目の前にいるのは、キーホルダーと同じカラーと表情をしたカカシだった。


「今年のほんと可愛いから!!」


栞は満足そうにカカシを眺めている。


このアバターは、一度手に入れれば終わりではない。


使うたびにキーホルダーが必要になる。


だからこそ、キーホルダーそのものに意味がある。


栞はさらに楽しそうに言った。


「これねー、近づいてグリップで軽く触れてみて!」


「?」


奏多は言われるままカカシへ近づいた。


そして、グリップの先で軽く触れてみる。


その瞬間。


カカシが、何かを喋った。


奏多が少し目を見開く。


栞は待ってましたとばかりに笑った。


「喋るのー! 可愛い〜!!」


ずいぶん気に入っているらしい。


「朱里ちゃん先輩、カカシアバターたくさん持ってるんだよー!」


「朱里ちゃん先輩?」


奏多が聞き返す。


栞が一瞬きょとんとした。


「あ、小松先輩! 二年生の!」


「あぁ、あの人」


それなら分かる。


部室で何度か見かけた、二年生の女子だ。


柴田が横から言った。


「今日は文化祭の準備みたいだ」


「そっかー」


栞が答える。


柴田は続けた。


「明日は来るってさ」

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