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第13話 トレーニング

練習場へ移動すると、奏多は改めて辺りを見回した。


部室の休憩室とは違い、ここは身体を動かすための空間だ。


「じゃ、せっかくだ。少し練習してくか」


先生の言葉に、奏多はすぐに振り返った。


「はい!」


「結城。大剣出してみろ」


「大剣ですか?」


言われるままスマホを操作する。


グリップを握った奏多の手元から、大きな剣が生成された。


大会でも使った大剣。


見慣れたとは言え、こうして改めて構えるとやはり大きい。


「適当に振ってみろ」


「はい」


奏多は大剣を構えた。


そして――勢いよく振る。


ブンッ!


手に持ったグリップは、一気に身体の横まで振り抜かれた。


だが。


「……あれ?」


奏多は自分の手元を見る。


何かがおかしかった。


もう一度。


今度はさっきよりも意識して、強く、速く。


ブンッ!


「……なんで?」


やはり妙だ。


自分の手はちゃんと動いている。


それなのに、目の前の大剣は、その動きに綺麗についてきていない。


「速すぎ」


先生が言った。


「え?」


奏多は思わず振り返る。


「速い方がいいんじゃないんですか?」


「限度がある」


先生は奏多の手元を指した。


「お前が実際に持ってるのは、それだけだ」


奏多も自分の手を見る。


握っているのはグリップ。


当然ながら、大剣ほどの重さなどない。


「でも、試合で使ってるのはそっちだ」


先生の指先が、今度は大きなARの剣へ向いた。


「グリップじゃなくて、大剣を振れ」


「大剣を……」


奏多は目の前の武器を見る。


大きな刃。


長い刀身。


もし、これが本当に手の中にあったなら。


さっきのように、腕だけで簡単に振り回せるはずがない。


奏多は構え直した。


今度は、そこに本当に大きな剣があるつもりで。


身体を使って、大きく振る。


先ほどよりもずっとゆっくりとした動き。


だが――。


大剣が、ついてくる。


手元の動きに合わせて、大きな刃が綺麗な軌道を描いた。


「おお……!」


奏多の顔が明るくなる。


もう一度。


構えて、振る。


今度も大剣はしっかりとついてきた。


「なるほど……」


少し楽しくなってきた。


奏多は大剣を見ながら尋ねる。


「じゃあ、ゆっくり振ればいいんですか?」


「やってみろ」


「はい」


今度は意識して、さらにゆっくりと振ってみる。


大剣は問題なくついてくる。


先ほどよりもずっと綺麗だ。


「じゃ、俺が相手やるよ」


黒瀬が奏多の前に立った。


「お願いします」


奏多は大剣を構える。


そして、今覚えたばかりの動きで、ゆっくりと振った。


黒瀬はそれを見て――。


ひょい。


一歩動いただけで、あっさり避けた。


「あ」


「それなら余裕だなー」


「……ですよね」


いくら綺麗に動いても、これでは当たらない。


奏多が表示を確認すると、さらに気づく。


「威力も低い……」


「遅けりゃ、その分弱くなる」


先生が言った。


奏多は大剣を見る。


速すぎれば、大剣がついてこない。


遅すぎれば、避けられる。


そのうえ威力まで下がる。


「じゃあ……」


奏多は少し考えてから言った。


「ちゃんとついてくる中で、できるだけ速く?」


「そういうこと」


「なるほど……」


もう一度、大剣を構える。


今度は少しだけ速く。


まだついてくる。


もう少し。


今度はどうだ。


そんなふうに何度か振っているうちに、奏多はふと手を止めた。


「あ……」


頭に浮かんだのは、森下との練習試合だった。


攻撃を受けそうになって、慌ててガードしようとした時。


確かにグリップは動かした。


それなのに、武器が思ったようについてこなかった。


奏多は森下を見る。


「森下先輩との試合で、ガードがついてこなかったのって……」


先生が答える。


「動かすのが速すぎたからだな」


「やっぱり」


「あれは焦るよなー」


森下が笑う。


奏多はグリップを握ったまま、試しにガードする位置へ武器を動かしてみた。


さっきの試合の時とは違う。


ARがついてこられる速さで、しっかりと。


「攻撃が来てから慌てて動かしても遅い」


先生が言う。


奏多は武器を動かす。


「早く動かすんじゃない。早く動き始めろ」


奏多の手が止まった。


「……相手が振る前から?」


「全部は無理でも、ある程度は読め」


「反射神経だけじゃダメなんだ……」


「そりゃそうだ」


森下が当然のように言った。


奏多は再び大剣を見る。


大きく、重そうな武器。


だからこそ、扱う時にもそれらしい動きが必要になる。


そこで、もう一つ疑問が浮かんだ。


「でも、大剣だからこんなにゆっくりなんですよね?」


「当然、武器によって違う」


先生が答えると、黒瀬が楽しそうに口を挟んだ。


「じゃ、これは?」


スマホを操作する。


黒瀬の手元に生成されたのは、大鎌だった。


奏多は少し身構える。


ついさっきまで、自分が相手をしていた武器だ。


黒瀬が大鎌を構えた。


長い柄。


大きく湾曲した刃。


その大きさだけを見れば、大剣以上にゆっくり動きそうにも見える。


だが。


ヒュンッ!


「速っ!」


奏多の目が大きく開いた。


大鎌が、大きな軌道を描いて走る。


決して小さな動きではない。


しっかりと大鎌らしい大振りなのに、その動きは奏多が想像していたよりずっと速い。


「それでもついてくるんですか?」


「大鎌はこれくらいなら平気」


黒瀬は大鎌を構え直す。


「武器ごとに違う。自分で覚えろ」


先生が言った。


「大剣と全然違う……」


奏多は大剣と大鎌を見比べる。


同じようにグリップを握っている。


けれど、動かし方はまるで違う。


そこで奏多は、さらに気になった。


「じゃあ、射撃武器は?」


「同じようなもんだ」


先生が操作すると、ガトリングが生成された。


「ガトリングなんかは、撃ち始めにも隙がある」


ガトリングを構える。


始動。


少し遅れて、射撃が始まる。


その状態で先生が狙いを大きく横へ振った。


グリップだけなら、一瞬で向きを変えられる。


だが、ガトリングはその動きに綺麗についてこない。


「こっちもか……!」


奏多は思わず声を上げた。


大剣。


大鎌。


ガード。


ガトリング。


同じグリップを使っているのに、どれも同じようには動かせない。


それぞれの武器に、それぞれの扱い方がある。


奏多は自分の大剣を見た。


「武器ごとに全部、動かし方が違うんだ……」


「だから練習するんだろ」


先生が言った。


奏多は少しだけ黙った。


そして大剣を構え直す。


最初に言われたことを思い出す。


グリップじゃなくて、大剣を振る。


目の前にある大きな刃を見て、奏多は少し笑った。


「……もう一回やってみます!」

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