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第12話 入部

体育館を出て部室へ戻ってきても、奏多の頭にはまだ、さっきの試合の感覚が残っていた。


森下との練習試合。


思うように距離を詰めさせなかったところまではよかった。


けれど、スキルを使われた途端に状況が変わった。


さらに、その後のスペシャル。


知らないものが、まだいくらでもある。


「どうだった?」


森下に聞かれ、奏多は少し考えてから答えた。


「面白かったです。」


「だろ?」


森下が満足そうに笑う。


そのやり取りを見ていた栞が、ふと思い出したように口を開いた。


「じゃあさ。」


「?」


「結城くん、入部する?」


「……。」


奏多は黙った。


すぐには答えず、少しだけ視線を落とす。


「実は……」


「うん?」


「朝からずっと、どうしようかなって悩んでたんだ。」


「あー。」


栞が納得したような声を出した。


「そういえば結城くん、朝から上の空だったよね。」


「え。」


すると、隣にいたクラスメイトまで頷いた。


「うん。授業中も心ここに在らずって感じだったよ。」


「そんなに?」


「そんなに。」


栞に即答される。


奏多は少し恥ずかしくなって、頭を掻いた。


朝からずっと考えていた。


昨日、大会に出て。


初めて試合をして。


負けて。


それでも今日、こうして部室まで来た。


森下と戦ってみれば、昨日とはまた違う戦い方があった。


スキルも、スペシャルも、自分はまだ何も知らない。


それでも――。


いや。


だからこそ。


「……うん。」


奏多は顔を上げた。


「僕、入ろうかな。」


「やった!」


栞がぱっと笑う。


「おー!」


森下も嬉しそうに声を上げた。


それから栞は、もう一人へ顔を向ける。


「君はどうする?」


「僕は……」


クラスメイトは少し困ったように笑った。


「全然勝てる気しないけど……」


今日の体験を思い返すように、部室の中を見回す。


「でも、先輩たち優しいし……僕も入ってみようと思います。」


「お、二人ともか!」


森下がさらに嬉しそうになる。


「新入部員二人!」


栞も喜んでいる。


その横で先生は、ごそごそと机の上を探っていた。


「んじゃ。」


二枚の紙を取り出す。


「入部届ここ置いとくぞー。」


ぺらっ、と机に置かれた。


「はい。」


奏多とクラスメイトは並んで座り、入部届を書き始めた。


周りでは森下たちがいつものように話している。


特別な式があるわけでもない。


大げさに歓迎されるわけでもない。


名前を書いて、必要なところを埋めていく。


奏多は最後まで書き終えると、ペンを置いた。


「よし。」


先生がそれを見て立ち上がる。


「じゃ、ついでに部室の説明しとくか。」


二人も顔を上げた。


先生はその場で、部屋をぐるっと指す。


「今いるここが休憩室。」


奏多も周囲を見る。


机や椅子があり、部員たちが普段集まっている場所。


「まあ、見りゃ分かるな。」


「はい。」


先生はそのまま別の扉へ向かった。


「で、こっちが器具庫。」


扉を開ける。


中には、部で使うための器具が整理して置かれていた。


「結構ある……。」


奏多が中を覗き込む。


そこで、ふと気になった。


「先生。」


「ん?」


「自分用のスマホ一式って、揃えた方がいいですか?」


「いや。」


先生はあっさり答えた。


「最初は部の使えるもん使えばいいぞ。」


「いいんですか?」


「スマホは安いもんじゃないからな。」


先生は器具庫の中を見ながら続ける。


「本格的にやるって決めてから揃えればいい。」


「なるほど……。」


隣のクラスメイトも、少し安心したようだった。


先生は栞の方を見る。


「基本的なもんなら貸し出せる。まだ余裕あったよな?」


「ありますよ。」


「じゃ、それ使え。」


「はい。」


奏多が頷く。


「ただし。」


先生が器具庫を指した。


「みんなで使うもんだから大事になー。」


「はい。」


二人が揃って返事をする。


先生はもう一つ思い出したように付け加えた。


「あと、使った器具はちゃんと充電しとけよー。」


「はい。」


器具庫を出ると、先生はもう一つの場所へ二人を連れていった。


扉を開ける。


「で、ここが練習場。」


休憩室とは違い、身体を動かせるだけのスペースが取られている。


奏多は中を見回した。


「ここで試合するんですか?」


「いや。」


先生が答える。


「ここはトレーニング用。素振りとか、操作の練習とかだな。」


「じゃあ試合は?」


「試合するときは体育館借りる。」


「あ。」


奏多はさっきまでいた場所を思い出した。


「だからさっきも。」


「そういうこと。」


森下が横から答える。


休憩室。


器具庫。


練習場。


そして、試合をするときは体育館。


昨日までは知らなかった場所が、これから自分が通う場所になる。


一通り案内を終え、全員で休憩室へ戻る。


机の上には、書き終えた二枚の入部届が並んでいた。


栞がそれを見て笑う。


「これで二人ともスマホ部員だね。」


奏多も入部届を見る。


ほんの少し前まで、入るかどうかずっと悩んでいた。


けれど今は、不思議と迷いはなかった。


「……うん。」


奏多は少し嬉しそうに笑った。


「じゃ、明日から早速練習な!」


森下が言う。


奏多はすぐに頷いた。


「はい!」

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