表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

- 第7話 新たな家族 -

その日は、

朝から家の中が、どこかそわそわしていた。


父が、母の部屋を行ったり来たりし、

召使いの女性たちも忙しそうに走り回っている。


子供の俺にも、

何か大きなことが起きようとしているのは、伝わってきた。


やがて──


小さな、産声が響いた。


「……う、うあ、あ……!」


か細くて、

けれど、確かに力強い泣き声。


その瞬間、

胸の奥がぐっと締めつけられた。


これが、

命の始まりの音──。


頭ではわかっていた。

前世でも、教科書で、ニュースで、何度も見聞きしてきた。


でも、

自分の家族として、生まれた命の声を聞いたのは、初めてだった。


(これが、妹……)


しばらくして、

父が俺を呼んだ。


「ライナス、おいで。お前の妹だ」


母のベッドのそばまで、そろそろと近づく。


母は少し疲れているようだったけど、

顔は優しく、柔らかに笑っていた。


その腕の中に──


小さな、小さな赤子。


すべすべの頬。

閉じたままの目。

指ほどしかない、小さな手。


思わず、

息を飲んだ。


こんなに、小さくて、壊れそうで。

けれど、確かに生きている。


「……かわいい」


自然に、言葉がこぼれた。


母が、笑った。


「ライナス。お前の妹よ。名前は、フィリア」


フィリア。


その名前を、心の中で何度も繰り返した。


フィリア。

フィリア。

──俺の、大切な妹。


父が、俺にそっと声をかけた。


「抱いてみるか?」


俺は、びくびくしながら頷いた。


慎重に、慎重に、

母から受け取った小さな命を、両腕で抱える。


軽かった。

驚くほど、軽かった。


それなのに、

胸の奥が、ずしりと重くなった。


この子を、守らなくちゃ。


そんな気持ちが、

自然に、静かに、心の底から湧き上がった。


赤ん坊は、俺の腕の中でくしゃりと顔をしかめた。

そして、小さな声で、ふにゃりと鳴いた。


「……あはは」


思わず、笑った。


愛おしい、という感情が、

こんなにも体を温かくするものだとは知らなかった。


前世で、

命に対してここまで真剣になったことなんて、一度もなかった。


今、ここにいるこの子は、

俺にとって、何にも代えがたい存在になった。


フィリア。

絶対に、幸せにする。


俺は、

小さな妹を腕に抱きながら、

そっと、心の中で誓った。


──ライナス、六歳の秋。


新たな家族との日々が、静かに始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ