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- 第6話 新しい命 -

ある日、

母の様子が、少しだけ変わったことに気づいた。


動くたびに息を切らし、

食事の匂いに顔をしかめることもある。


俺は──察した。


前世で、一応それなりの年数を生きた人間だ。

こういう変化が、何を意味するかくらい、知っている。


大人同士の夜の営み。

それがどういうものかも、身をもって知っていた。


ただ、俺が知っているそれは、

どこか、乾いたものだった。


流れ作業のように、

寂しさや欲を埋めるために重ねた肌と肌。

そこに、心はなかった。


でも──


父が、母の手をそっと握り、

「おめでとう」と、心からの笑顔で告げたとき。


母が、目に涙を浮かべて微笑んだとき。


この世界には、

俺の知らなかった”命”が、確かに芽生えていることを思い知った。


夜、父に言われた。


「ライナス、お前に弟か妹ができるんだ」


「……」


俺は、小さな体に似合わない、

妙に冷静な理解を胸の奥に浮かべた。


──ああ、俺にも兄弟ができるのか。


前世では、そんな存在もなかった。

家族と呼べる人間は、誰一人として。


だから、きっとこれは、

俺にとって初めての「無条件に繋がる存在」になるのだろう。


その事実に、

胸の奥が、じんわりと熱くなった。


母のお腹は、日ごとに膨らんでいった。


そっと触れると、温かく、柔らかかった。


前世で、誰かの命を心から大切に思ったことなんて、なかった。

なのに今は、まだ生まれてもいないこの存在に、

胸が締めつけられるほどの愛しさを覚えていた。


──俺は、変わり始めている。


そんな確かな実感だけが、

この小さな世界に響いていた。


もちろん、不安もあった。


父も母も、これからはこの子に夢中になるかもしれない。

今までのように、自分だけを見てくれないかもしれない。


そんな幼い独占欲を、

俺は前世から持ち込んでしまっていた。


だけど。


母のお腹にそっと耳を当てたとき、

微かに感じた──命の脈動。


どくん、どくん。

小さな心臓の鼓動。


それだけで、すべての不安が溶けた。


守ろう、と思った。


この命を。

この家族を。


今度こそ。

今度こそ、

俺は、大切なものから目を逸らさずに、生きたい。


──ライナス、六歳の夏。

小さな命と向き合いながら、

俺はまた一歩、大人に近づいた。

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