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- 第5話 広がる世界 -

魔物の一件以来、

俺は、村の人たちから少しだけ顔を覚えられるようになった。


広場を歩けば、

「ライナスくん」「ありがとうね」と声をかけられる。


最初は戸惑った。

前世では、人の視線が苦手だったから。


けれど、不思議と、

ここの人たちの笑顔は怖くなかった。


ぎこちなく、だけど少しずつ、

「おはよう」や「こんにちは」が言えるようになった。


そんなある日、

市場で荷物を運んでいた若い女性に呼び止められた。


「ライナスくん、これ、ちょっと運ぶの手伝ってくれる?」


「……うん!」


小さな手で袋を抱え、

よたよたとついていく。


途中で袋を落としたり、つまづいたりしながらも、

俺なりに一生懸命運んだ。


運び終わったとき、

女性はにっこり笑って、頭を撫でてくれた。


「ありがとう、助かったわ」


たったそれだけのこと。

けれど、胸の中がぽかぽかと温かくなった。


俺にも、誰かの役に立てることがあるんだ──

そんな小さな自信が、心に灯った。


それからも、

ちょっとした荷物運び、畑仕事の手伝い、

井戸から水を汲むのを手伝ったり、

小さな頼まれごとをする機会が増えていった。


「ありがとう」

「助かったよ」

「すごいな、ライナス」


そんな言葉を、少しずつ、少しずつもらった。


魔法の修練だけじゃない。

こうして、誰かと関わる中で、

俺はまた違った意味で世界と繋がり始めた。


夜。


父と母に今日のことを話すと、

二人は目を細めて聞いてくれた。


「それは良かったな、ライナス」

「立派になったわね」


父が、大きな手で頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

母が、そっと肩を抱いてくれた。


その温もりに、目の奥がじんと熱くなった。


俺は、

確かにこの世界に生きている。


誰かと関わりながら、

小さな歩幅で、少しずつでも進んでいる。


まだ何もできないかもしれない。

でも、今は──


この世界が、少しだけ、好きになれそうな気がした。


──ライナス、六歳の春。


ゆっくりと、

少年期への扉が開き始めていた。

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