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- 第4話 小さな勇気 -

季節は、ゆっくりと巡っていった。


赤子だった俺は、幼児へと成長し、

短い足でよちよちと庭を歩き回るようになった。


言葉も、少しずつ話せるようになった。

父と母に教わりながら、拙いながらも会話ができる喜びを知った。


魔法の修練も、続けていた。

とはいえ、まだ小さな風を起こせる程度。

それでも、毎日何度も試し、手を翳し、失敗を繰り返した。


努力は、すぐには実を結ばない。

けれど、それが当たり前なのだと、少しずつ学び始めていた。


そんな、ある日。


村の広場に遊びに出たときのことだった。


まだ小さな俺は、父と一緒に用事を済ませ、

広場の片隅で休憩していた。

少し経つと父は知り合いを見つけたのか、誰かと談笑をしに行った。

そして、俺は1人で雲でも見ながら座っていた。


そこに──


「きゃっ!」


短い悲鳴が聞こえた。


振り向くと、

年下の女の子が、地面に転んでいた。


転んだだけなら、大したことではなかった。

けれど、その先──


小さな魔物。

森から迷い込んできたのか、

犬くらいの大きさの、毛むくじゃらの獣が、

低く唸り声を上げながら、彼女ににじり寄っていた。


周囲の大人たちは遠巻きに驚き、動けずにいた。


心臓が跳ねた。


──怖い。


足がすくむ。


でも。


あのとき、父が言っていた。

「強くなるってのはな、誰かを守れるようになることだ」って。


俺は、魔法の練習を、何のために続けてきたんだろう。


震える足に力を込めた。


──行け。


俺は、駆け出していた。


女の子と魔物の間に飛び込む。

間近で見る魔物は、思った以上に大きく、牙も鋭かった。


体が震える。

膝が笑う。


それでも、必死に手を前に翳した。


──思い出せ。

毎日繰り返した、あの動き。


「……ふう、ま……」


声にならない叫びとともに、

掌から小さな風が弾けた。


それは、

魔物の顔を、ぱしりと叩いた。


驚いたのか、魔物はびくりと身を引き、

次の瞬間、尻尾を巻いて逃げ出した。


──やった。


後ろを振り返る。


女の子は、転んだまま、ぽかんと俺を見上げていた。


俺も、ぽかんとした。


あんなに怖かったのに、

あんなに逃げたかったのに、

今はただ、体が熱くて、胸がどきどきしていた。


「だ、だいじょうぶ?」


拙い言葉で、そう聞いた。


女の子は、涙目のまま、こくりと頷いた。


それだけで、

胸がぐっと熱くなった。


その後、大人たちが駆け寄ってきて、

俺は父にぎゅっと抱きしめられた。


「よくやった、ライナス!」


父の声が震えていた。


周囲からも、誰かが拍手を送ってくれた。


けれど、そんなことよりも、

俺の中で何よりも大きかったのは、


──ああ、

俺にも、誰かを守れたんだ。


という、確かな実感だった。


女の子の名前は、そのときはまだ知らなかった。


けれど、あの日見た、

あの大きな瞳の色と、泣きながら微笑んだ顔だけは、

今でも、はっきりと覚えている。


この日。

小さな勇気が、

俺の中に確かな灯をともした。


──ライナス、五歳の春のことだった。

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