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- 第3話 魔法との出会い -

言葉が少しずつわかるようになると、

世界はさらに広がっていった。


家の中にあるもの、窓の外の景色、父と母の話す内容──

どれもが新鮮で、胸の奥がわくわくと震えた。


そんなある日。

俺は、それを見た。


父──アレンが、庭で焚き火の準備をしていた。


手際よく薪を組み、火打石を打ち鳴らす。

──かと思えば、火打石をしまい、掌をそっと翳した。


「《ウィンド・スパーク》」


低い声とともに、父の手元にふわりと風が集まり、

薪に向かって吹きつけた。


次の瞬間──


ぱちり、と音を立てて火が灯った。


──魔法。


それは、あまりにも自然で、あまりにも当たり前のように、

この世界の一部として存在していた。


俺は、目を丸くしてその光景を見つめた。


火が生まれる瞬間。

風が揺れる瞬間。

世界が、父の手で変わった瞬間。


たったそれだけのことが、

まるで奇跡のように思えた。


それから、俺は魔法に夢中になった。


どうやったのか知りたくて、

小さな手で真似をしてみた。


──でも、うまくいかない。


父が使ったあの言葉を真似しようとしても、

出てくるのは拙い発音と、空振りの動きだけ。


それでも諦めきれなかった。


何度も何度も、手を伸ばし、掌をかざし、

風を呼ぼうとした。


見よう見まねの、幼い試行錯誤。


母が心配そうに笑って、

「ライナス、何してるの?」と聞いた。

俺はただ、無言で掌を突き出した。


母はくすくす笑いながら、頭を撫でてくれた。


──いいんだ。

誰にもわかってもらえなくても、

俺は、あの奇跡を、自分のものにしたかった。


ある日。

何度目かの失敗の後。


ふっと、指先がぴりりと震えた。


掌から、かすかな風が──吹いた。


ほんの、小さな、小さな、そよ風。

紙切れ一枚を揺らすのがやっとの、微かな力。


けれど、それでも──


できた。


俺の中で、何かが弾けた。


嬉しくて、堪らなくて、

まだ言葉にもならない叫びを、喉の奥であげた。


小さな手をぎゅっと握る。

俺にも、できたんだ。


後になって、家の本棚に、

ぼろぼろの魔法書を見つけた。


表紙に金文字で書かれた《初等魔術概論》。


読み書きもまだおぼつかない幼い指で、

一文字一文字、必死に追った。


わからない言葉だらけ。

難しい式。

でも──


わかりたい。

もっとできるようになりたい。


初めて、生まれて初めて、

そんなふうに思った。


誰に強制されたわけでもない。

誰かに褒められるためでもない。


ただ、

この世界に手を伸ばしたくて。


この世界を、自分の力で触れたくて。


俺は、小さな手で、魔法という名の奇跡に挑み始めた。


──ライナス、幼き日の、最初の挑戦だった。

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