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- 第15話 越えられない壁 -

秋も深まり、村の木々が色づき始めたころ。


俺は、魔法の修行にさらに力を入れるようになった。


剣の素振りは、朝に。

昼はティオとの遊びや修行。

そして夕方、

一人静かな場所を見つけて、魔法の練習に励んだ。


風を集める。

力を込める。

意図通りに操る。


──口で言うのは簡単だった。


けれど実際は、

魔素は思ったように集まってくれない。


たったひとつの風の刃を作るだけで、

何度も何度も失敗した。


掌の上で、風はすぐに散ってしまう。


まとまらない。

形にならない。


くやしい。

歯がゆい。


それでも、あきらめたくなかった。


思い出すのは──

あの日。


小さな女の子を助けたとき、

俺は確かに、魔法を使った。


あのとき、

必死で、無我夢中で。


気がついたら、

風が吹き荒れて、魔物を追い払っていた。


(なのに……)


今、冷静に魔素を集めようとしても、

あの日のようにはうまくいかない。


心のどこかで、焦りが広がる。


(感情任せの力じゃ、駄目だ)


あのときは、

ただ必死だったからこそ、一瞬だけ引き出せた奇跡だったのかもしれない。


本当に、

意図して力を操れるようにならなければ。


──守りたいものを守るために。


周囲の子供たちも、

簡単な魔法を使うのが当たり前になっていた。


ティオだって、

小さな突風くらいは起こせる。


(なのに、俺は──)


焦りが、じわじわと胸を締め付けた。


ある日。

またも練習に失敗し、地面に手をついてうなだれた。


手のひらには、泥がついていた。


「……なんで」


誰にも聞こえない声が、

ふっと漏れた。


そのとき、

背後から声がした。


「ライナス」


振り返ると、父がいた。


いつの間にか、

そっと俺を見守っていたらしい。


父は、にっこり笑った。


「できないことは、悪いことじゃない」


父は、俺の隣にしゃがみ込んだ。


「できないってことは──それだけ、伸びしろがあるってことだ」


俺は、顔を伏せた。


悔しかった。

情けなかった。


でも、父の言葉が、

胸の奥に、じわりと染み込んでいくのを感じた。


「焦らなくていい。お前はちゃんと歩いてる。な?」


父は、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。


その温もりに、

張り詰めていた心が、少しだけ緩んだ。


夜、星空を見上げた。


(焦らなくていい──か)


空高く瞬く星は、

俺の小さな悩みなんて、まるで気にも留めないように輝いていた。


──でも、俺は知っている。


この手で、

もう一度、ちゃんと力を掴みたい。


本当の力を、

自分の意志で、扱えるようになりたい。


俺は、

もう一度、心に誓った。


簡単には諦めない。

この世界で、

大切なものを守れる自分になるために。


どんなに時間がかかっても、

少しずつでも、前に進もう。


──ライナス、七歳の秋。


俺として初めての、本当の「挫折」。

けれど、

それを越えるための、小さな覚悟が芽生えた夜だった。

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