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- 第9話 強くなる理由 -

冬が終わり、

新しい春が、ゆっくりと村にやってきた。


雪が溶け、土の匂いが立ち上る季節。


フィリアは、すくすくと育っていた。


まだはいはいしかできないけれど、

小さな手で必死に床を掴んで進む姿は、見ていて飽きなかった。


そんな妹の成長を見守りながら、

俺の中にも、ある想いが芽生え始めていた。


──もっと、強くなりたい。フィリアを守れるような兄でありたい。


父と母は、変わらず家族を大切にしていた。


忙しい仕事があっても、

使用人に任せきりにはしなかった。


朝は家族揃って食卓を囲み、

夜は母が読み聞かせをしてくれた。


フィリアをあやすのも、

父が俺を背負って庭を走り回るのも、

全部、家族でやった。


召使いたちは、それを遠くから支えてくれていた。

無理に手を出すこともなく、

家族の時間を、温かく見守ってくれていた。


──この家は、温もりに満ちている。


それが、何よりも、俺には大切だった。


そんなある日。


父がふと思いついたように言った。


「ライナス、剣術を習ってみるか?」


「けんじゅつ?」


首をかしげた俺に、

父はにっこり笑った。


「お前は、もう家族を守りたいと思っているだろう? だったら、体を鍛えるのも悪くない」


俺は、驚いた。


言葉にしたことはなかったのに、

父は、俺の心を見透かしていた。


(……うん)


頷くと、父は嬉しそうに頷き返した。


「無理に強くなる必要はない。ただ、大切なものを守るために、少しずつでいい。力をつけていこうな」


剣は、重たかった。


木剣すら、最初はまともに振れなかった。


父に構えを教わり、

素振りを繰り返す。


腕が震え、腰が痛み、足がふらつく。


何度も何度も、転んだ。


でも──


俺は、やめなかった。


フィリアの、小さな笑顔を思い出すたびに。

母の柔らかな手を思い出すたびに。

父の誇らしげな笑顔を思い出すたびに。


──守りたい。


たったそれだけの想いが、

小さな体を、何度でも立ち上がらせた。


一方で、魔法の練習も続けていた。


風魔法を中心に、

小さな風を操るだけだった力は、

徐々に、確かな形を持ち始めていた。


手のひらに集まる魔素の感触。

空気を震わせる感覚。


まだまだ拙いけれど、

少しずつ、前に進んでいる気がした。


努力は、すぐには報われない。

でも、それでも。


今は、

この一歩一歩が、たまらなく愛しかった。


──ライナス、七歳の春。


家族と共に過ごしながら、

俺は少しずつ、「強くなる理由」を手に入れていった。

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