共同共命共会
「はっ!寝てしまっていた。」
冬樹は飛び上がると急いで時計の針を見た。最後に覚えていた時間は午前8時頃だったので、時計の針がきれいに1本に重なる12時を指していることがわかると、自分は4時間ほど寝ていたということに気づいた。
ってあれ?それってなんかデジャブが…。
そして寝ぼけ眼をしたまま、まだはっきりとしない思考を懸命に動かす。そしてだんだんと昨夜のことを思い出した冬樹はある結論にたどり着いた。
やっば!!完全に寝坊じゃん!!!
冬樹は自分が14時間ほど寝ていたことに気づき、慌てて布団から飛び起きた。もちろん桜園の姿はそこには無い。昨日と同じ時間ではあるが、昨日とは状況があまりにも違い過ぎる。昼にはアメリカ支部の支援部隊の人が来ると聞いていたので焦って服を着替え、みんながいるであろう会議室の方へ行った。
勢いよく廊下の床を蹴って会議室へ向かった。そして同じように勢いよくドアを開けて、部屋の中へ入っていった。
「お、おはようございます。遅れてすみま…。」
マズイマズイマズイ!メンバーが全員来てる挙句にあの紋章、カラスの紋章をつけている人はアメリカ支部の人じゃないか!!やっぱりもう来ていたのかよ!!
焦った様子で駆け込んできた冬樹を見て、幸助は笑いながら話した。
「ハハッそろそろ声をかけようと思っていたところだ。」
すると樹木が呆れたように冬樹に避難まがいの愚痴を入れた。
「今日が大事な日なのに寝坊とはどういうことだ。全く…。」
「でもでも、まだ作戦の打ち合わせは始まってないのでセーフ…と思います!たぶん…。」
それに対して今度は橋立がフォローするように話してくれる。しかしどうも見覚えのある光景だ。
あれ、またデジャブ…?と言うか覚えてるよ!また寝坊でこんなことになるなんて…はぁ…。
自分が寝坊したことが悪いのだが、溜息をついて落ち込みながら周りを見ると、ソファーの方に座っているアメリカ支部の人と、彼らと話している桜園の姿があった。桜園がこちらの視線に気づくと「おはよう。よく眠れた?」とクールな表情のまま返してきた。
そういえば、またあの休憩室で寝てたってことは香織さんが運んでくれたってことでは…!?はああああああ!!!
なんだかもう恥ずかしさと悲しさと悔しさの感情が混じって何も直視できない状態となった。そして両手で顔を負いながらもだえ苦しんでいると、そんな冬樹のもとへ桜園と話していたアメリカ人の男性がが寄ってきた。
「Hello, you are Mr. Fuyuki! I’m Kevin Crisis. Nice to meet you. I’m glad to see you, and I want to ask the idea of the tactics… 」
まてまてまて!挨拶とかの簡単な英語は聞き取れるが、なんだか作戦について聞きたいとか言われたぞ?難しい専門用語とか出されても俺わからねえし!!
あまり英語が得意ではない冬樹は、英語で話しかけられたことに非常に抵抗があり、きちんと会話できるかどうか心配だった。しかしそんな心配も次の音声によって小さなものとなった。
「あなたが冬樹さんですね!私はクライシス・ケビンです。よろしくお願いします。あなたが今回の作戦の発案者だと聞いて、ぜひとも直接話を聞きたいと思いました。それで、この陣形についてなのですが…。」
「お、おぉ…。」
少し時間が空いたが、彼が言っていた話が日本語で流れたので、思わず感嘆が漏れた。するとその様子を見た幸助が嬉しそうに話す。
「彼の耳につけてる奴凄いだろ?なんとも、話した言葉をその場で瞬時に翻訳してくれる機械だってな!うちのメンバーは香織以外が英語をほとんどしゃべれないからとても助かったぜ。俺がつけてるようにさ、ほら、あっちから支給されたからつけてみるといい。」
そう幸助が言うと、先ほど話しかけていたケビンが小さな耳に付ける機会を渡してきた。冬樹はそれを耳につけると、試しに何か話してみた。
「ようこそ日本へ!私は鷹塚冬樹です。今回はこちらの応援要請に来てくださってありがとうございます。」
すると一瞬間をおいて翻訳機が英語に直してくれる。
「Welcome to Japan! I’m Fuyuki Takatsuka. Tanks for coming to here for supporting our battle.」
自分が行った言葉がすぐに英語に翻訳されるため、時代の進歩を感じてとても感動した。
「おお――!!スゲー―!!」
「Wow!! It’s Amazing!!!」
しばらく感動して色々話していた冬樹であったが、やれやれと言った様子で篠原が止めにかかり、本題に入ろうとした。
「冬樹、はしゃぐ気持ちはわからんでもないが、そろそろ本題の作戦会議に入るぞ。一応昨日の段階で一通り完成させておいたが、彼らにも確認と何か意見を聞いておかないといかんしな。」
その篠原の言葉を聞いて、冬樹は興奮を抑えて本題の話へと入った。
「へぇ~、日本のメンバーってすごいね。戦闘もできる上に技術や知識もあるのか。」
会議中に協会本部から届けられた武器や様々な装置をまじまじと眺めながら、ケビンは感心した。その誉め言葉を聞いて気分がよくなった作製者、銃や装置の設計をした樹木は少し鼻の下を伸ばして返した。
「確かにアメリカ支部は人数が多いですからね。日本みたいに1人で何でもこなすのではなく、役割分担をしているのでしょう。」
へぇー、アメリカ支部ってそんなにたくさんいるんだ。やっぱり人口が多いからかな?と言うかこんな装置を設計できるのなんて、うちのメンバーでは樹木さんと桜園さんしかいないって。あれ、樹木さんは技術者ってのは聞いたけど、桜園さんもできるのってなんでだ?自分と同じ理学部で、そんなに工学系が得意とも聞いたことはなかったけど…。
冬樹がまた桜園の異常な知識を不思議に思っていると、桜園が雑談をしていた周りに切り替えるよう注意を呼びかけた。
「そろそろ雑談はこれくらいにして、地下の試験場にいって期待通りの性能かどうか確かめましょう。」
その声に続いてほぼ全員が部屋を出ていき、また思考に耽っていた冬樹は部屋に取り残されたことに気づいた。
やっべ、また考えてたら置いて行かれてしまう。早くいかなければ。
そう思って部屋を出ようとした時、部屋の中にまだ残っている影が視界に入った。その影から足、お腹、首とどんどん見上げていき、顔を見た時に、奇麗なゴールドヘアの女の子であることに気づいた。
おー外国人すげぇ。大学では金髪に染める人も多いけど、やっぱり天然の金髪は輝かしいな。ではなくて!なんでこんなところに残っているんだ?
「どうしましたか?皆さんもう行きましたよ。」
するとそのゴールドヘアの女の子はもじもじしながら冬樹に話しかけた。
「あ、あの、その…、まだ挨拶してなかったので…。」
あいさつ?あぁ、そういえばまだ俺もケビンともう1人の男としか自己紹介してなかったな。じゃあ彼女は自己紹介のためだけにここに?人前で話すのが恥ずかしいのだろうか?
「あぁそういうことですね。私は鷹塚冬樹と言います。日本支部ではディフェンダー兼タクティカルとして活動しています。よろしくお願いしますね。」
そう言って冬樹は握手を求めるため、手を差し出した。すると少女はおどおどした様子で、出された手を両手で握り、恥ずかしい様子で小さな声で返した。
「あ、よ、よろしくお願いします!ぇと…、私はアリス・クライシスと言います。ろ、ロールはディフェンダーです。それと…。」
彼女も自己紹介を始めて名前を聞いた時何かがピンときた。
アリス・クライシス…?クライシス…あぁ!もしかしてケビンの妹さんかな?と言うことは自分より年下??兄弟そろって解離協会所属とはこれまたすごいな…。それにこんなに綺麗な妹さんがいるなんて羨ま…じゃなくて、話しが済んだら早く試験場にいかないと!
「自己紹介終わったなら先に試験会場に行こうよ!!あそこセキュリティーしっかりしてるから、みんなと歩調合せないと入れなくなってしまう!」
「あ、あの…えと…ひゃぅ!」
あーもーぐずぐずしてらんない!寝坊して結構気まずかったのに、さらにここで遅れたとなると自分の立場がなくなってしまう!すまんアリスさん!とりあえず今はみんなについていくことを優先する!
冬樹は先ほど寝坊して遅れた恥をもう一度書きたくないと、焦ってアリスの手を引いてみんなが向かった方向へ走っていった。すると急に握っていた手を引っ張られたので、アリスは驚いて変な声を出した。そして恥ずかしいのか、もう一方の手で顔を隠していた。そんな様子など、後ろを振り向かずに急いで走るため冬樹は知らない。そして開けっ放しになった会議室には、少し乱れた椅子が残っていた。
バンッ! バンッ!
「どう香織さん?銃の調子は良さそう?」
先に試射を終えた冬樹は、まだ試験場で射撃練習をしている香織に向かってその銃の出来栄えを聞いた。彼女が先ほど放った弾は1発目とは違い、通常の弾丸であった。しかしその弾丸は赤色のオーラで包まれており、戦闘で実際に冬樹らが使う時と同様の威力が込められていた。恐らく実践で予定通りの同じような火力が出るか、桜園が解離状態になって確かめたのだろう。
「さすがに何発も結晶弾は撃てないから、比較的良好なはず。」
桜園はそう言って、使った銃をテーブルの上に置いた。どうやら彼女の期待通りの出来だったらしく、満足している様子だった。すると、自分の作ったものが評価されたからだろうか。少し嬉しそうに樹木が返した。
「それならよかったです。こちらのエネルギー装置も恐らく大丈夫でしょうし。」
バンッ! バンッ!
すると横で射撃を終えたらしいケビンも、その銃を絶賛した。
「この銃は口径が大きい割に安定していていいね!もし量産可能ならうちの支部でも使いたいくらいだよ!」
満面の笑みを浮かべながらグッドマークを右手でたて、篠原の方へアピールした。それに対し、篠原は額に手を当てて困った様子で応えた。
「やっぱアメリカ支部のノリはわかんねぇなぁ。とりあえずその銃についてだが、今のところは増産予定はない。と言うよりもあまりにも成分が複雑すぎて、今日使う分を作るだけで資材をかなり使ったそうだ。」
「でもさ、アメリカの方は資材がたくさんあるからきっとどう丈夫だよ!設計図だけでもこっちに送って!」
ケビンは大丈夫だからと篠原の肩を組みながら、銃の情報譲渡を申し出た。もともと兵器の情報共有はする予定だったので拒むことはないが、そのアメリカ人らしい元気さに篠原は押されていてたため、なかなか話ずらかった。
ケビンさん、なんかこう、ザ・アメリカンな感じだなぁ。普段そんなにテンション高くない篠原さん困ってるし…。しっかし、おとなしめでおどおどしてる妹さんとは大違いだ…。
そう思って冬樹はアリスの方へ視線を向けた。彼女はみんなの話を遠巻きに聞いており、積極的には話に参加しようとしなかった。いや、参加したくない様子ではなかった。話しかけるかどうかの瀬戸際で再び引いて話しかけないなど、何ともじれったい感じであった。そのたびに一歩引いたところで聞いている霧島の横へ行って、しょぼんとしていた。そのたびに霧島はアリスの方を見るが、彼女は全く話しかけなかった。霧島はアリスと違ってあまり話しかけたくないタイプらしい。
アリスさん霧島さんのところに行ってるのか…。確かに自分と似たような感じで話しかけないタイプと思ってるかもしれないけど、戦闘時の豹変具合を見たらきっとびっくりして関わろうとしなくなるかもな…。そういえば霧島さんは今日は休みを取ったんだっけ…。いやまぁ今日も大学を休んでいる自分が思うことじゃないんだけどね。でも、こうやってみんなが戦闘以外で長時間集まることなんて珍しいんじゃないかな?…何とかうまく作戦が成功すればいいんだけど…。
アメリカチームが加入してから、より賑やかになったり穏やかになったりと緩急が激しくなっていた。しかしみな嫌な気はせず、むしろそれを歓迎していたとも言えた。そしてその様子を見て冬樹はこれから始まる作戦に思いを馳せ、作戦の成功とみんなの無事を祈った。




