目が覚めて、そして眠る
辺りは赤い揺らめきで包まれており、硝煙と機械油と血なまぐさい臭いが漂っていた。そして空を見上げると、この地上と同じように赤く染まっていた。空に何かが大量に輝き、そこから小さなものが振ってくる。そしてそれが地上に落下するたびに激しい閃光と轟音が発生し、あたりが跡形もなく消えた。しかしこんな絶望的な状況なのに、口元が大きく笑っている。なぜか怒りと復讐心で燃えている。その熱はたとえ爆弾が体に直撃しても冷めないだろう。だが世界はそんなに甘くない。足元に直径は1㎞あるだろうか。前置きはある程度感じられたが、それを回避することなど今更できない。恐らく何十にも対妨害機構が織り込んであるだろう。巨大な輝く魔法陣が出現したとともに、だんだんと体が冷たく感じられ、だんだんと怒りの感情がなくなり、だんだんと感覚が遠のいていく。もうダメか…。そして意識が遠のく中、自分にはきっと復讐心だけが残るだろうと思われた。しかし最後の感情は怒りや憎しみや復讐心ではなかった。確かにそれらも見えたのだが。本当に最後に見たものは違う。それは―――
「はっ!寝てしまっていた。」
冬樹は飛び上がると急いで時計の針を見た。最後に覚えていた時間は午前8時頃だったので、時計の針がきれいに1本に重なる12時を指していることがわかると、自分は4時間ほど寝ていたということに気づいた。
それにしても変な夢を見た気がしてしょうがない。現実でも夢のような感覚に襲われるのに、寝ている最中まで気味の悪い感覚に襲われるなんてまっぴらごめんだ。そういえば、ここは…?2人は…?
「あれ、桜園さんと篠原さんは?」
寝落ちする直前まで一緒に話をしていた2人の姿が目の前になかったので、寝たままあたりを見回した。よく見なくてもわかるが、どうやら畳が敷かれた休憩室のような場所にいるらしい。
ここは休憩室??会議室で寝てしまったから運び出されたのだろうか。それに、律儀に枕と布団が敷かれている…ん?そういえば何かお腹に重たい感触が…!?
冬樹は普段寝ているときには感じられない違和感がお腹あたりに感じられたので、不思議に思いながら体を起こした。するとそこには、長い茶色の髪とピンクの長い何か…。それを見た瞬間、冬樹は人の頭が転がっているかと思い、心臓が大きくはねたが、よく見るとそれは桜園の頭であった。どうやら彼女は横たわって寝ているらしい。
おいおいおいマジかよ!!寄りにもよって香織さんそこで寝ちゃったのかよ!!いや、マジで色々と心臓に悪いからやめてくれ!!
とはいうものの、冬樹は今まで彼女ができたことがなかったため、見たこともない女の子の寝顔に引きつけられた。それがまして桜園のレベルの可愛さなら、なおさら引き付けられた。
えぇ…ゴクリ。でもこうしてじっくり見ても、やっぱ香織さんって綺麗な顔立ちしてるよな。いつもはクールでそんなことはあんまり思わないんだけど。こう、なんか相菊さんと似たような可愛さと言うか、でもそれとは違うような…。あ、相菊さんと言えばこの前に飲み後の話があったけど、もし誘いに乗ってたらこんな感じで朝を迎えたのかな…。ま、今は朝じゃなくて昼だけど。
冬樹は桜園の寝顔を見ながら、改めて桜園の可愛さを確認した。いつもはクールさばかり目立つ桜園であったが、こうしてみると普通の女の子なんだなと思い、ふと笑みがこぼれた。そして可愛いに関連して相菊の顔が思い浮かんだ。そしてこの前の話を思い出して思わず頬が赤くなる。
あ、よく見たらヘアピンに小さい桜が描いてある。よっぽど桜が好きなんだろうな…。
そう思ってヘアピンをよく見ようと無意識に手を伸ばした時、桜園の目がゆっくりと開いた。そして上半身をゆっくり起こして髪をまくしあげた後、あくびをしながら両手を上げて背伸びした。
その桜園が髪をまくしあげた時に一回大きく心臓が跳ねた。しかし今度はさっきの驚きは違い、別の感情からなるものだった。しかしその心臓の鼓動に冬樹自身は気づいていない。
冬樹はしばらく桜園の寝起きの行動を見ながら停止していたが、自分の手が前に出ていることに気づき、慌てて引っ込めて言い訳をした。
「お、おはよう!香織さん!なかなか起きなかったから起こそうと思ったんだよ!だから、こう手を前にしてたんだよ!うん。決してやましいことなんてしてないから!!」
すると桜園は冬樹の方をじーっと見て、一回ため息をつくと呆れたように返した。
「はぁ、別にそんなこと私は一言も言ってないよね。何慌ててるの?」
あれ…香織さん?いや桜園さん?だいぶ砕けた表情と口調をしていますね!?あの、相当怒ってらっしゃるんですかね…。それとも寝起きは別人になるタイプ?
すると桜園は自分の表情と口調に気づいたのか、慌てて乱れた髪や服などを整えて元のクールな顔に戻した。
「すみません、今のは忘れてください。今からシャワー浴びてくるんで、その後に作戦の続きをしますよ。」
ひええええ、やっぱり怒ってるのかな??でも、そっちが寄りかかって寝てたのは事実だし俺は悪くない!たぶん悪くない!
シャワーを浴びいくために、立ち上がって部屋から出ていく桜園の背中を見て、冬樹はため息をつきながら反省をした。そして自身もシャワーを浴びるために、桜園とは違う部屋にあるシャワー室へと向かった。
シャワー室から出ると再び会議室へと冬樹は向かった。その道中でこんなことを思った。
この施設はほんとにすごいな…。シャンプー・ボディーソープ・タオル…さらには変えの服まである。もう巨大な防災施設か何かだな。いや、ある意味では防災施設もあってるか?ユーオと言う厄災からみんなを守る施設みたいな…?
そんなことを考えながら部屋のドアを開けた。すると部屋には桜園の姿はなかったが、篠原だけではなく幸助、橋立、指山、樹木の姿があった。なにごとかと思って冬樹はしばらく混乱していたが、幸助が笑いながら冬樹の背中をたたいた。
「すまんな昨日は早く帰って!!家の用事があったからどうしても帰らなくちゃいかんくてな。まさか3人がそのまま協会に戻って作戦会議練ってるなんて知らなかったぞ!!」
「え、あぁ…。そうですか。」
シャワーを浴びて意識ははっきりしていたものの、急に背中をたたかれてびっくりした冬樹は、気の利いた返す言葉がなかった。すると篠原が説明を始めた。
「こいつらは今回の作戦に協力してくれるそうだ。とりあえず会社で有休、病欠をとったりして今日明日はずっとここにいるらしい。」
え!?有休はまだにいいしろ(急に有休を使っちゃダメです)、病欠は不味いんじゃ…?まぁ協会が診察書を発行してくれるからいいのか…?いやいや大丈夫かいな!?
すると橋立が冬樹にお辞儀して話しかけた。
「冬樹君、さっきみんなから聞いたんだけど戦闘で無理させてごめんね。鏡音さんのことは残念だったけど、私は香織ちゃんが死ぬのは嫌だし、みんなが苦しむのも嫌だから協力させてもらうね!よろしく!」
そして続けて指山、樹木も話しかけてきた。
「私はやはりこの世界を救いたいと思います。人々が苦しむ世界は断固許せません。」
「私はそこまで信念がないですけど…。やはり解散前に聞いた話だと新しい装置の設計が必要かと思ってね、技術者だから一応協力させてもらうよ。」
そして加えて篠原が話した。
「聡子と咲夜についてだが、彼女らも加勢してくれるらしい。今日は咲夜は学校で来れないらしいが、聡子は働き終わった後にくるらしいぞ。よかったな。」
みんな…もしかしたら死ぬかもしれないのに、自分の無理に付き合って一緒に戦ってくれるなんて…!
そのみんなの誠意に冬樹は思わず涙が浮かんだ。しばらく感涙していると、冬樹が入ってきたドアから別の人物が入ってきた。
「あっ…、みなさんこんにちは。協力…してくれるんですね。ありがとうございます。」
部屋を見るとすぐさま状況を察したのか、桜園がお辞儀して感謝の意を述べた。
そしてそこからはみんなで協力して作戦の計画・必要な装置の設計などを行い、すぐに夜が更けた。
「んーあ!疲れたなぁ。久々にフルで働いた気がするぜ。」
そろそろひと段落就いたところで、幸助は腕を伸ばしてリラックスした。するとタイミングを見計らったかのように、橋立がみんなに飲み物を差し出した。
「お疲れ様です。はい、カフェオレをどうぞ。」
「これはこれは、今日は色々と気を使ってくださってありがとうございます。」
すると同様にカフェオレをもらった指山が、橋立から受け取る時に俺を述べた。それに対して橋立は手を横に振って、少し寂しい顔をして笑った。
「いえ、私なんかはあんまり知識もないので話にあまり参加できませんし、本番でも隆次さんの補助しかしないのであんまり役に立ってない気がするというか…。」
いや、実際に樹木さんのフィルスマを受けるのは指山さんだけど、しっかりと安全にこなすためには橋立さんのサポートが必要だ。必要でないわけがない。それに今日はみんなに気を使って色々食べ物や飲み物を出してくれた。そういう気が利く人がいるからこそ場はスムーズに動くし、雰囲気も良くなる。
「そんなことないですよ明美さん。本番だけではなく、今日は色々なサポートありがとうございます。」
冬樹はそんなことないと橋立に言って同様にお礼を述べた。すると面と向かってお礼を言われたからか、橋立は後ろ頭に手を当てて恥ずかしがった。
「へへっそうかな。そういわれると嬉しいな。」
橋立が恥ずかしそうにニヤニヤしてる横で樹木が立ち上がって、出来上がった装置・武器の設計図を篠原に渡した。設計図と言っても実際の紙ではなく、ノートPCで専用のソフトを作ったため思ったよりもきれいにまとまっており、非常に見やすくなっている。
「よし、これでいいかな。恭二さん、設計図をまとめました。とりあえずこれを基盤として協会本部で作製していただけたらいいかと。」
そう言ってノートPCの画面を篠原に見せた。冬樹もその脇からのぞくと、今まで使ってた銃よりも銃身と口径が大きな銃のモデルが4つ、さらにそのうちの2つに接続しそうな大きな機械も書いてあった。機械の中身も詳細に書いてあったが、機械専攻ではない冬樹には全く分からなったので、とりあえずそこは見るだけにとどまった。
そしてそれを確認した後、篠原は樹木からUSBを受け取って本部の方へ送信すると伝えた。
「わかった。今から本部の方へデータを送信しよう。今から作ってもらえば明日の昼までには完成すると思うが…と期待したい。」
そう言って部屋を出ていく篠原を見届けた後、冬樹は桜園に声をかけた。
「桜園さん、そっちの調子はどう?」
すると会議室の端で1人で集中していた桜園は、しばらくして顔を上げて冬樹の方を振り向いた。そして額に汗をにじませて、さらに疲れた様子で冬樹の言葉に返事した。
「ん…何とか大丈夫。とりあえず1つ分の結晶の形は整えて設計に合うような形にしておいた。あとの2つも明日アメリカ支部の人が来るまでに完成させたい。昼前に寝たし、今日はこのまま続けようと思う。」
そのしっとりさはズルいな!いや、マジでかわいいって!!よくこの前公園で2人っきりになれたな、俺…。
額に汗をにじませて、しっとりとした髪をしている桜園が振り返った瞬間、冬樹はあまりの可愛さに顔をそらしてしまった。そしてそれをごまかすように再び向き返って、桜園を心配するようなそぶりを見せた。実際には本当に心配していたが。
「…っ!そ、それならよかった。でもあまり無理はしないでね…。え、今日寝ないの!?」
そして桜園が寝ずに結晶の成形を続けるという考えに、それを制止するかどうか迷った。
確かに焦る気持ちはわかるけど、寝ずにこのまま続けて果たして明日の夜の戦闘に無事で出撃できるのかどうか…。ここは止めた方がいいのか?いや、でも桜園さんの素の誠意も無下にできないし…。
するとそのごもごもした様子の冬樹を見て、桜園はきっぱりと言い切った。
「私は大丈夫だから心配しないで。もちろんこのまま続けるから、今日もここに宿泊だけど。みなさんは家庭があったり家事があったりするから帰るでしょうし、見送りましょう。あ、すみません。冬樹さんも帰られるんでしょうかね?」
そう言った桜園だったが、他のメンバーが帰る準備をし始めたので冬樹の返信を聞かずにそっちの方へ行った。そして1人取り残された冬樹は猛烈に悩んだ。
あぁ、昨日は流れでそのままいたけど、さすがに男女2人で泊まるというのも普通じゃないよな。篠原さんも今日は家に帰るって言ってたし。…いやいや、泊まるって言っても部屋別だし、そんなやましいことなんてしないから!!それに一応深夜勤務の職員の方が数人いるからね。安心だね!
「おーい冬樹!そろそろ帰るからな!」
その幸助の声を聞いて現実に引き戻された冬樹は、いろいろと悩んでいる間にすでに他のメンバーが部屋にいないことに気づいた。そして焦って声のした方へ行き、変えるメンバーを見送りに行った。
「じゃ―ねー!」
「冬樹!香織に手を出さないようにな!ま、俺にはそんな度胸があるとは思えんがな!!」
それぞれが別れの挨拶をして去っていった。そして帰り際に幸助が冬樹に茶々を入れた。
確かに残るとは言ったけどさ、なんだよ度胸がないって!!いや、さすがに桜園さん相手にそんな気は起きないけどさ。というか、起きたとしても瞬殺されそう…。
そして最後に篠原が2人に別れの挨拶をして帰っていった。
「んじゃまた明日な。くれぐれも2人は無理して明日に支障が出ないように。明日が本番と言うことを忘れるなよ?」
そう言って篠原が夜の闇へ消え去っていくと、取り残されたのは冬樹と桜園だけになった。
なぜだかやけに緊張する冬樹であったが、桜園は全く動揺するそぶりなど見せず、見送った後はそのまま再び会議室へ戻っていき作業を始めた。冬樹はとりあえずいつ寝てもいいように、早めにシャワーを浴びて夕食をとり、一応桜園のためにも飲み物を取ってきたりして会議室へ戻ってきた。すると1時間以上桜園は作業していたらしく、まだ同じ状態で座っていて結晶の形成をしていた。しかしよくみるとその結晶は先ほど桜園が作った1つ目の形状とほぼ同じところまで言っており、完成間近のように見えた。そしてさきほどより異常に完成ペースが速い結晶の姿を見て、冬樹は不思議に思った。
「あ、香織さん、まだやってたんだ。もしかしてずっとやってたなら、休憩した方がいいんじゃない?その結晶の形状を見ていたら結構頑張ってるみたいだし…。」
「ちょっと待って。」
すると桜園は集中しているらしく、最後のラストスパートの仕上げにかかっていた。そのため絞り出すような声になっていた。
しばらくして完成したのか、席を立ちあがって冬樹の方へ歩いてきた。
「休憩はまだいいかな。で、何か用ですか?」
そういわれた冬樹は手に持っていたペットボトルの容器を桜園に差し出した。そしてちょうど作戦で確認したいことがあったので、これからしばらく無理をしそうな桜園を無理やり休憩させるべく、やや強引にその話を始めた。
「作戦に合ったことなんだけどさ…」
2人はしばらく話をした後、再び桜園は席へ戻って作業を開始した。その様子を見て冬樹は少し残念がって声をかける。
「やっぱり俺がいたら集中できないかな?部屋出た方がいい?」
すると桜園はやや反応遅めに答えた。
「いえ、別に構いませんよ。さっきのはたまたま調子が良かっただけです。次はそううまくいきませんし。」
「それってさ雑談しながらもできる作業?」
桜園はその言葉を聞いて、何の意図があるのか眉間にしわを寄せて考えた。そして冬樹の方を振り向かないまま答えた。
「何か話したいことでも?軽い話なら大丈夫。」
「いや、そんなに大したことないんだけどさ、やっぱり桜園さんも解離症状も出たりするの?」
その言葉を聞いた桜園は、今度は眉間にしわを寄せずに冷静な顔をして考えた。そして作業をいったん中断した後、そのままの向きで冬樹に回答と質問を同時に行った。
「…ありますよ。なんでそんなことを?」
「いや、今日1日自分が見ていた感じ、香織さんはずっと議論や成形に集中していて一切解離症状が出ていない感じだったからさ、何かこう秘訣があるのかなって。」
桜園は振り返って冬樹の方を見た。その顔は真剣そのもので何かを一生懸命に考えているようにも見えた。園がそこまで話を真剣に聞いてくれるとは思ってなかった冬樹は、急いて続きを話した。
「日常生活で解離症状が起こったらさ、とても嫌な気分って感じじゃないけどさ、自分が世界に取り残された感覚になって少なくとも気持ちはよくないんだよね。だから、桜園さんが知っている解離症状をコントロールする方法があれば教えてほしいなって思ったんだ。」
すると桜園は肩の力を抜いて深い溜息を吐いた。どうやら桜園が考えていたことと冬樹の考えは違ったらしい。
え、何か俺間違ったこと言ったっけ?いや、香織さんがせっかくまじめに聞いてくれると思ったから、正直に話しただけなんだけど…。
「ごめんなさいね。ちょっと勘違いしてたみたい。ようは解離症状を緩和する方法ね…うーん、リラックスかな?例えば、眼を閉じてアイマスク代わりにハンカチを目にかけ、妄想に耽る…みたいな?」
なるほど、桜園さんはそうやってリラックスするのか。リラックス方法には個人の相性の問題もあるけど、そういうのは試したことなかったな。…せっかくだし今試してみるか。
「ありがとう香織さん。なんか話しかけて申し訳ないけど、一回それを試してみるね。」
「いえいえ、ではまた作業に戻るんで。」
ハンカチをたたんで目に当てると確かにいい感じのアイマスクになるな…。ふぁぁ…。それに…何だか…リラックスして…。
「あ、冬樹さん。ちなみに私はそんなことしたことないから保証はできませんよ。」
そう桜園が冬樹に話しかけたが返事はなかった。いつもはレスポンスをしっかりする冬樹から返事がないので、何かあったのかと心配して作業を中断し、冬樹の方を振り向いた。するとそこには長椅子に座りながら寝息をスース―立てて寝ている冬樹の姿があった。
「本当にリラックスできるんだ…。」
そのハンカチの効果があったことにも驚きであったが、冬樹が速攻でリラックスして寝たことも驚きだった。そして桜園は冬樹を起こさないよう、静かに作業を再開した。




