◆19.自分だけのもの
昨日の敬音の誕生日は、あっという間に終わった。
でも、多くのことがありすぎて、一日が何十時間にも感じられたことも事実だった。
僕はまだ眠っている悠美を寝室に残し、リビングへと降りていった。
リビングに入ると、既に敬音が起きていてカノンとじゃれて遊んでいる。
「敬音、早起きだね」
「うん。カノンとあそびたいの」
「そっか・・・」
僕はソファーに腰を下ろすと、敬音とカノンの様子をしばらく見つめていた。
敬音の笑顔が、僕の心の中に染み込んで、癒してくれる。
「まーくん。カノン迷惑してるんじゃない?」
悠美はパジャマのままで僕を見下ろしてそう言った。
「おはよう」
僕はそう言ってから、もう一度敬音の様子を見た。
「そうだね」
悠美は僕の返事を聞くとすぐに
「敬音、カノンを離してあげなさい。あんまり抱っこばっかりしてると、カノンに嫌われちゃうから」
「え?」
敬音は悠美の言葉に驚いたように僕を見た。
「そうだよ。敬音だってずっとパパやママに抱っこされてたら、何にもできないし、嫌になんない?」
敬音は、僕の言ったことを理解したのか、静かにカノンを床に降ろした。
「いい子ね」
悠美はそういうと、髪をさっと一つに結び
「ご飯食べよっか」
そう言い残してキッチンへと向かう。
朝、いつもどおりの食卓。
コーヒーの香ばしい香りに包まれ、悠美が朝食ののったプレートを僕の前においてくれる。
敬音は自分専用の椅子に座り、自分の前にも同じように運ばれてくるのを静かに待っていた。
少し違うのは、カノンが来たことだけ・・・なはずだった。
「食べないの?」
「食べるよ」
「何考えてるの?」
「ああ・・・。ツアーのこと」
とりあえずその場を取り繕ってから、僕は目の前のトーストに手を伸ばした。
「いつからだっけ?」
「7月から8月まで」
「今回は短いんだね」
「うん。北澤の希望でね」
「そうなの。誠のわがままね」
悠美はそう言うと、小さな溜息をついた。
僕は口に出して、言ったことはないけれど、悠美が北澤を『誠』と呼んでいることに、ずっと抵抗があった。
かと言って、悠美にそれをやめるように言ったとしても『何で?』という返事しか返ってこないことはわかっていた。
男というものは不思議なもので、好きな女性の全てを自分だけのものにしたくなる。
でも北澤を『誠』と呼んでいる現実に、まだ悠美の全てが僕だけのものになっていない気がしていた。
そんな、どこか悲しい気持ちを僕はずっと心の隅に抱えていた。




