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◆14.交通事故

(やっぱり、彼女のことを意識しているのかもしれない・・・。)


昨日僕は、彼女に会ってから、自分の気持ちにおかしなものが芽生えようとしていることに気付いてしまった。


妻がいて、子供がいて、年だって後数年もすれば40になる。


(何を考えているんだろう?)


僕は自分で自分が恥ずかしくなった。


頭の中は混乱し、ぐっすりと眠ることができなかった僕は、朝の静かなリビングで一人、テレビから流れる、天気予報のBGMに耳を傾けていた。


画面は時々入れ替わり、今日の天気を知らせる。


でも、僕には今日の天気よりも、彼女のことが気になった。


彼女は、顔が特別綺麗だというわけではない。

もちろん、それなりに美人だとは思う。

でも、外見なら、悠美のほうが上だろう。


彼女より、綺麗で若い子なら、探せば沢山いるだろう。

でも、何かが違う・・・。


内面から浮かび上がる、透明な儚さ、健気さ、素直さが僕の心を締め付ける。


そして、彼女の瞳を思い出すと、僕はその奥に吸い込まれそうになって、自分を見失いそうになってしまう。


(この不思議な気持ちはなんなんだろう?)


僕はこれまで味わったことのない想いを、自分で処理することができなくなっていた。


僕だってそれなりに恋もした。

沢山の女の子達にちやほやされ、阿呆になったように遊びまくった時期もあった。


それでも、悠美と結婚してからは、悠美一人を愛することを心に決めて生きてきた。

色々な女の人からの誘いもあったけれど、うまく断って逃げてきた。


(それが、今の僕は何を考えているんだろう?)


そんなことを考えながら、うとうとしていると


「まーくん、敬音がいないの!!」

悠美の張り詰めた声で、僕はソファーから飛び起きた。

「敬音がいないって?部屋にも?」

「どこにも居ないからいってるんでしょ?」

「靴は?」

僕は悠美を落ち着かせようと、肩に手を乗せ、悠美の顔を覗きこんだ。

「靴も1足ないの!!」


「僕、外見てくるから、悠美はここで待ってて。帰ってくるかもしれないでしょ?」

「わかった」


僕は携帯だけ握り締め、慌てて外に出た。


時間は既に8時を過ぎていた。

いつもなら、散歩に出かけている頃だ。


僕はまず、並木道へ出かけることにした。

もしかしたら、いつものように犬を見ようと、一人で出て行ったのかもしれない。

僕が寝ていたから、気を使ったのかもしれない。


僕は、様々なことを考えながら、並木の中を走っていた。


見覚えのある後姿に、僕は声を上げた。

「玲香ちゃん?」


僕は大声で叫びながら、彼女の隣で止まった。

「敬音見なかった?」

上がる息を必死で堪えながら、彼女に問いかける。


「敬音くんですか?ごめんなさい。見てないです」

「いないんだ。一人で家から出て行ったみたいなんだ」

僕は、彼女の返事にがっくりと肩を落とした。


「ごめん。急いでるから」

そういい残して僕はまた走り出した。


「五十嵐さぁぁん」

遠くから彼女が僕を呼んだ。

「私、こっち探しますから」

僕は一旦立ち止まり、彼女のほうを向いて深く一礼をした。


何分探し回っただろうか。

敬音はどこにも見当たらない。


これ以上進んでいるとしたら、明らかに迷子になっているはずだ。


不安そうな顔をした敬音の顔が僕の頭に浮かんでは消える。


(早く見つけないと!!)

僕は再び走り回った。


何分くらいたっただろう?


敬音の姿も、彼女の姿も一向に見つけられない。


この道を行けば、車の通りの多い大通りに差し掛かる。

不安は増すばかりで、僕はなきそうになりながらも、また走っていた。


曲がり角に差し掛かったとき、あのペットショップの犬達が、3頭、チョコチョコと歩いてこっちに向かっているのが見えた。


僕は急いで近づくと、手綱をとった。


(なんでこんなとこにいるんだ?彼女は?)


僕は、そのまま角を曲がった。


すると、彼女と敬音が一緒にいるのが見えた。


「敬音ぉ!!玲香ちゃーん!!」

僕は、逸る気持ちを押さえながら、二人に声をかけた。


「こっちです。敬音くんいました!!」

僕は彼女の声に、頷きながら駆け寄った。


「突然、みんな走ってたから、捕まえてきたよ」

そう言って僕は、彼女に手綱を渡そうとした。

「玲香ちゃんどうしたの?」

彼女の膝からは、血が出ていた。

「こんなのいいんです。私おっちょこちょいなんで」

そう言って、彼女は敬音の背中を押して、僕の前に立たせた。

不安だったんだろう。

敬音の目には涙が溜まっていた。


「おねえちゃんがね。こうつうじこなんだよ」

敬音はそう言うと僕の右足にしがみついて、声を出して泣いた。

「敬音、交通事故って何?パパにちゃんと話して」

僕は、敬音の言った意味がわからず、詳しく聞こうと、敬音の前にしゃがんだ。

「おねえちゃんがね、ばいくとぶつかって、じゃんぷしたの」

僕はその言葉を聞いて彼女の膝をもう一度見た。

「血が出てる」

「ぼくね。おねえちゃんのわんわんにさわりたかっただけなの」

僕は敬音の頭をそっと撫で、

「お姉ちゃんが敬音を助けてくれたの?」

敬音は黙って頷いた。

「敬音のために、こんな」

と言いかけ、僕は彼女の腕をそっとつかんだ。


「病院いこう。相手のバイクは?」

「私が一方的に飛び出したんです」

彼女は大きく首を振った。

そんな彼女の反応が、健気だった。

「ごめんね、すぐ病院に行こう」

嫌がる彼女の腕をそっと引いてみる。

「大丈夫ですよ。ほんとに」

「そんな訳ないでしょ?」

僕は彼女のそんなところが、愛しく感じた。

「本当ですよ。転んだだけですから」

彼女は、手を振って答えていたが、腕が痛むんだろう。

少し顔をしかめるようにしていた。

そして、その拍子に僕の腕が彼女から外れた。


「でも、こんなに血が出てるし、病院行かないとダメだって」

僕は何とか病院に連れて行こうと、必死になっていた。。

「僕が一緒に行くから、病院にいこう」

「私、お店にも戻らないといけないし、このくらい本当に大丈夫ですから。それに、五十嵐さんが一緒に病院に行ったら、変な噂とか流れると困ります」

少し強めの口調で言い返してきた。


僕はこれ以上彼女を説得しても、無理だと思い始めていた。

「じゃあ、お店に戻ったら、病院にちゃんと行って。心配だから。お願いします」

僕は深く頭を下げて、慌ててポケットに入っていたペンとメモを出して、携帯の番号を書き写した。

「これ、僕の番号だから、病院に行った後、結果を知らせて欲しいんだ」

そして、その紙切れを彼女に差し出した。


「お店には僕から連絡しておくから。約束して。ちゃんと病院に行くって」

「はい。約束します」

彼女は僕を真っ直ぐに見てからそう言った。


「じゃ、お店に戻ります」

「ありがとう」

僕はもう一度頭を下げ、今度は敬音に辞儀を促すように、敬音の頭を後ろからそっと押した。


敬音はまだ泣いていた。

「おねえちゃん、だいじょうぶなの?」

僕は敬音をなだめるようにして

「ちゃんと病院行くからだいじょうぶだよ。敬音はどうして一人でお外に出たの?」

「ぱぱがねんねしてたからね」

「そっか・・・。今度からはパパを起こして。一人だと危ないでしょ?」

敬音はゆっくりと頷いた。


僕は慌てて携帯を出し、ペットショップに電話を入れた。

ことのいきさつを話と、店長はかなりおどおどしていたようだった。

僕は、ちゃんと彼女が病院に行くように伝えて欲しいと、店長に念を押してから電話を切った。


「帰えろっか」

「うん」

僕は敬音を抱き上げ、「彼女にたいしたことがないように」と祈りながら、家に戻った。

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