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◆11.同じ目

僕は、彼女の姿が見えなくなると、何ともいえない喪失感に襲われた。


(この気持ちは何だろう?)

自分で自分の気持ちをコントロールすることができない歯痒さに、僕は戸惑いを隠せなかった。


家に戻ると、悠美は鼻歌を歌いながら、リビングで掃除機をかけていた。

「今日は早かったのね。そろそろ敬音も飽きてきた?」

一旦休めていた手を再び動かしながら、僕に言った。

「そんなことないよ」

僕は悠美の動きを観察しながら、リビングのソファーに腰を下ろした。

「ここ邪魔かな?」

「そうね。ちょっと邪魔かな?」

僕は悠美の仕事を邪魔しないように、ダイニングへと移動した。


ダイニングから吹き抜けた天上では、空調のプロペラが忙しそうに回っている。

僕はそれを眺めながら、彼女のことを思い出していた。


(どうして、僕だということを気付かなかったんだろう?)

不思議と淋しい気持ちにさせる。

(気付いているのに、気付かないふりをしていたのかな・・・)


僕は、ペットショップへ向かう時間を早めようとお店に電話を入れた。

彼女のことが気になって、真相を確かめたいという気持ちもあったからだ。

「はい、ペットショップ「プチ」です」

彼女が電話に出るのかと思ったが、その声はいつもの店長だった。

「今日、伺おうと思うんだけど、これからでも大丈夫かな?」

「はい。わかりました。お待ちしています」

「じゃあ、後で伺います」

僕はそう言うと、携帯を閉じた。


「今から、見に行ってくるよ」

僕はリビングに向かい、悠美に伝えると、何かに急かされるように家を出た。


家からお店までは10分くらいかかるだろうか・・・。


何故だろう?


いつもの通いなれた道が、今日はとても遠く感じた。


お店の前に着くと、窓越しに、彼女が楽しそうに店の片付けをしている姿が見えた。


僕は、駆け込むようにドアを開けて、中に入った。

そして、真っ先に彼女に視線を合わせ

「さっき会ったばっかりなのに、また会っちゃったね」

そう言うと

「店長さんいる?」

僕は奥のほうを覗き込んでこう言った。

「今呼んできますね。お待ちください」

「よろしくね」

僕は軽く頭を下げて、彼女に手を振ってみた。


小走りで駆け出す彼女の後姿は、なんだか可愛らしく、いつまでも見ていたくなる。


(今日の僕は、どうしちゃったんだ?)


店長は僕の姿を見るなり、仔犬をもって走ってきた。

「どうですか?」

そして僕の様子を伺うように仔犬を差し出した。

「かわいいなぁ。この仔」

仔犬はほんとうに小さくて、僕の掌のうえにおさまってしまうほど小さい。

まん丸の目が、僕に何かを訴えかけているようだ。


「ウチ来る?」

僕は思わず小さな声で問いかけた。


(この目、どこかで見たような・・・)


ふと横を見ると、彼女の目が僕の様子をじっと見ている。


(同じ目だ!!)


(決めた!!ただ、あんまり即決だと、少し面白くないかな?)

そう思った僕は、少し悩んでいるふりをしてみた。



「決めた。この仔でお願いします」

そう言うと、仔犬の顔をもう一度見つめた。

「ウチのやんちゃ坊主に踏んづけられないようにしないとね」

小さな仔犬の頭をそっと撫でた。


店長は、にんまりと笑い、彼女を僕の前に差し出した。

「今日から新人さんがきてくれることになりまして」


「うん。さっき会ったよね」

僕は、初めてでないことを強調するように、彼女に軽くウインクをしてみた。

「はい」

「松本 玲香ちゃんです。またよろしくお願いします」

「玲香ちゃんか。かわいい名前だね」

僕はそういうと、仔犬を持ち上げ、

「かのん?れおん?どっちがいい?」

彼女に聞いてみる。

「どっちもかわいいですよ」

そう言うと

「れいかちゃんは漢字でどうかくの?」

彼女は少し戸惑ったような表情を見せたが、

「おうへんのれいに、かおるです」

とだけ答えた。


(玲・香か・・・。可愛い名前だな。)

僕はなぜか彼女との繋がりが欲しくなって、仔犬の名前に彼女の名前を一字頂くことにした。


「じゃあ、香音かおるおとで、カノンに決定!!」


そして、子供を高い高いするように、仔犬を持ち上げた。

「カノン。五十嵐カノン。いいんじゃない?」

そう言うと、僕は彼女の反応を見た。


「でも、私なんかの名前を取っちゃったら、変な子に育ちますよ」

「そうなの?平気だよ。今日君に会って、一生懸命な姿を見て、なんだか胸を打たれんだ」

「この仔も、玲香ちゃんみたいな女の子になってくれたらって思ったから・・・」

こんな展開になっても、彼女はごく自然に僕に接している。


「五十嵐さん。ナンパはいけませんよ」

店長は僕の顔を覗き込んでそういった。

「ちがうよ。僕は妻子持ちですから」

僕は一瞬、おかしな気持ちになりそうだったが、そう言って店長の言葉をはぐらかした。


「でも、一生懸命な人って、見ていてすごく気持ちよくて、応援したくなっちゃうでしょう?」

「そうですね。本当に玲香ちゃんは一生懸命がんばってくれてます」

確かに彼女は張り詰めたように一生懸命な顔をする。

そして、それが解けたとき、柔らかく優しい表情を見せる。


僕は見ているだけで癒されたような気持ちになった。


「それじゃ、お引渡しの日などを決めさせていただいてもいいですか?」

「うん。お願いします」

彼女は僕達の会話を聞き終えてから、奥へと入っていった。

「来週迎えにきたいと思います」

「わかりました。来週までは大事にお預かりいたしますので」

僕は店長にカノンを渡し

「前日には連絡を入れますから、よろしくお願いしますね」

そう言って、店の奥をそっと覗いた。

彼女が出てくる気配はない。


僕は、もう一度、奥を確認してから、お店を後にした。

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