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◆10.優しい光

今朝も、朝早くから敬音に散歩をせがまれ、僕は二人で家を出た。


外は本格的に春が来たように、温かな風が、春の匂いを運んでくる。


並木道の前まで来ると、敬音は、つないでいた手を離し、春の風と一緒になったように、軽やかに駆け出した。


僕は、穏やかな気持ちになって、その姿を後ろから追いかける。


ずっと先のほうには、ペットショップの犬達が散歩に来ているのが見えた。

手綱を引いているのは、いつもの女の子じゃないみたいだ。

動きが何となくぎこちなく、3本の手綱が絡みそうになっている。

「あっ。転ぶ!!」

僕は、咄嗟に声を出したが、聞こえるわけもない。


その人の横顔は、春の光に包まれて、見ている僕を優しい気持ちにしてくれる。


「あっ、わんわん」

敬音は犬を見つけ、スピードを上げて追いかける。

僕もそれを追うようにして、スピードを上げた。


「ぼく、ワンワン好きなの?」

その人は、にっこりと微笑み、敬音の前にしゃがんでそう言った。


「敬音!!」

僕はその人を正面から見たくなり、大声を出して呼んでみた。


「すみません。息子がご迷惑かけてませんでしたか?」

優しい笑顔で、その人は僕の顔を見た。

「いいえ。大丈夫ですよ」

僕は額に汗をかきながら、言い返す彼女の姿に、なぜか目が奪われた。


「あの。いつもお散歩してる人じゃないんですね」

「すみません。私新入りなんです。今日からお仕事させていただくことになって」

「そうだったんですか。大変でしょうけど頑張って下さいね」

「ありがとうございます」

彼女は僕のことを知らないのだろうか?

普通の人なら、変にペコペコと愛想を振りまき、僕に近付こうとしてくるはずだ。


「僕、あそこのお店たまにお邪魔してるんですよ」

僕は彼女の反応を見ながら、話し続けた。

「敬音が、息子がね、犬が欲しいって言うんだけど、なかなかいい子に出会えなくて」

「そうですか・・・。いい仔に会えるといいですね」

空から射す木漏れ日のような、柔らかな笑顔だった。

「ときどき敬音をつれて散歩してると、こうしてこの子達に会うことができて」

彼女は何も言わず、黙って僕に視線を合せて頷いた。


「また会えるといいですね」

僕の口からは自然とそんな言葉が飛び出した。

そして、僕はゆっくりと彼女にお辞儀をし、敬音の手をとった。


彼女はにっこりと微笑んでから、すっと立ち上がり、お店のほうに向かって歩いていった。


僕は、彼女の後姿を見えなくなるまでずっと見つめていた。

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