表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/120

2.絶賛(誇張)販売中

 今日も今日とて檻の中だ。

 だが俺の獄中ライフはすでに終わりを迎えている。


 俺に下った沙汰は奴隷落ちだった。

 正直死刑を覚悟していたので、奴隷とはいえ命が助かったことに驚いた。

 どうやら住民や兵士の方から助命嘆願が届いたそうだ。騒動を見ていた人たちが俺に非はないと庇ってくれたのだ。


 しかし、貴族に手を上げたのは事実。貴族側からは当然死刑を言い渡すように迫られていたようだが、司法は折衷案として奴隷落ちにすることにしたのだ。


 そして、俺が今いるのは王都の奴隷商の中でも大店だ。そこの檻の中に入っている。

 借金を払えなくなったり身売りした一般奴隷は、大きな部屋の中で集団で暮らす。檻に入れられたりはしない。


 檻に入れられるのは犯罪奴隷だ。悪いことをしたやつを檻に入れるのは当然である。前科があって野放しにするのは危険だからな。

 極刑を免れたとはいえ、貴族を殴った極悪人である俺は犯罪奴隷としてこの店に連れてこられた。


「俺はどうなると思う、少年」


「うーん、そうだねぇ……」


 奴隷の世話を任されている見習いの少年に話しかけると、特に怯える様子もなく俺の質問を聞いて考えてくれる。

 檻に入っているとはいえ周りは凶悪な人間ばかりだというのに、なかなかに図太い。一応、店の人は俺がどんなことをして奴隷になったのか知っているので、あまり怯えられることはないというのもある。


「貴族に買われるんじゃないかな」


「ほう、貴族に」


 貴族に暴力を働いたやつが貴族に買われるのか?


「犯罪奴隷を買うのって基本貴族くらいなんだよね」


「そうなのか」


「だって普通は犯罪者なんて近くに置きたくないでしょ? だから土地持ちの貴族が安価で使い捨てにしてもいい労働力としてまとめて買っていくんだ」


 それは鉱山で働かされたり、未開の森を開拓させられたり、荒れた土地を耕させられたりするということだろうか。

 毎日毎日、朝から晩まで馬車馬のように扱き使われてボロ雑巾みたいになりながら、「まだいける、お前の限界はそこじゃない」と鞭で打たれながら励まされてさらに働かされるということか。

 無情にも少年はこくりと頷いた。


 やべえな。

 普通に殺された方がマシな扱いなんじゃないか、それ。

 生きているだけで儲けものと言うが、生き地獄という言葉もある。

 俺の未来は生き地獄だ。


 せっかく転生したのに、それってどうよ。


「他の道はないかな?」


「見た目の良い人なら犯罪奴隷でも買われていくことがあるけど、お兄さんはねぇ……」


 なんだよその目は。自分がイケメンじゃないって自覚くらいあるわ。

 俺の見た目は中の上、よく言って上の下だ。ちなみに基準となる中の中は前世の俺だ。

 まあ、男娼として求められるレベルではないな。


「元冒険者でそこそこ腕が立つんだけど、護衛とかに買われないかな?」


「ないかな。腕の立つ奴隷なら一般奴隷にもいるから、わざわざ犯罪奴隷を護衛にしたりしないよ。戦闘奴隷として訓練の相手をさせられたり、魔物退治の捨て石にされるくらいならありえるだろうけど。あとは、闘技場で見世物にされるとかかな」


「犯罪奴隷に人権はないのか」


「死刑まではいかないけど、死んでもいい人間ってことだからね、犯罪奴隷って」


 刑罰の重さでいけば奴隷落ちは三番目だ。一番が死刑で、二番が終身刑。

 犯罪奴隷になるのは重罪人だけだ。まっとうな扱いを望む方がおかしいのだろう。

 だが、せっかく転生者としての意識に目覚めたのに、このまま終わりたくない。


「なんとか良い扱いを受けられないかな? 確かに貴族を殴っちゃったけど、悪いのは完全に向こうなんだぞ?」


「お兄さんの境遇は可哀想だと思うよ。でも、貴族を殴って今も生きているってだけで十分温情をかけられてるんだ。あとはいい人に買われるのを祈るしかないね。色々言ったけど、奴隷をどう扱うかは結局主次第なんだよね」


 そう言って、少年は食料を置いて俺の前から去って行った。他の奴隷の世話もあるのに長く引き留めてしまったな。

 置いていったのは一杯の水と二つのパン。本来は一つだが、少年の気持ちとしてありがたく受け取っておこう。


 配給されたパンを千切って口に運ぶ。

 硬ぇ。ああ、あのパン屋のパンが懐かしい。あそこのパンの方が何十倍も美味い。


 昼飯を買いに行ったのに、結局パンは買えなかった。

 無性にあそこのパンが食べたい。


 そういえば、あそこのパン屋はどうなったのだろうか。

 もう一度あの貴族がやってきて嫌がらせをされたり、今度こそ娘を連れ去られたりしていないだろうか。

 何も考えず動いてしまったけど、俺のせいであの貴族の機嫌を損ねて逆に彼女たちに迷惑をかける結果になっていたりしたらどうしよう。


 そういえば、こんなことを捕まった直後はずっと考えてたな。頭の中が不安でぐちゃぐちゃになって、何もできない現状に苛立って、最期には投げやりに空腹からあのキノコに手を伸ばしたんだったか。

 あんなことで罪滅ぼしになるとでも思ったんだったか。

 本当に馬鹿だな、俺って。


「……よっしー、美味しくはないけどお供えします」


 もう一つのパンに向かって両手を合わせて祈る。

 あれでよっしーはいい神様だ。

 今できるお供え物はこれしかないが許してくれるだろう。


「いい主に買ってもらえますように」


 困ったときの神頼み。

 困ったときにしか神に頼まない俺だけど、今回はどうかお願いします。


「さて、神への祈りは通じるのか」


 祈りを終えると、お供えのパンを口に放り込んだ。

 やはり美味しくない。

 ……これじゃあダメかもしれない。


ブックマークありがとうございます

励みにして頑張ります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ